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とある館で

作者: 星鹿 隆介

初投稿です。短いですがご容赦ください。

「ああ、もう…時間なのか…」

乾き切った喉を鳴らして、ベッドに横たわった男は息を吐きながらそう呟く。

ベッドの周囲は蝋燭が照らし、 7、8人ほどの人影を壁に写す。

顔に刻まれた皺の深さや、透き通るような白い髪、そして何よりその細い腕につながれた無数の管がその男が非常に高齢であることを物語っている。


彼の身体はひどく小さく見えた。それは、恐らく彼が老人だからではなく、その身体には不釣り合いなほど広く、豪勢な部屋だからだろう。

四方は本棚に覆われており、その中には大きさどころか、新旧、言語までもバラバラな本が詰められている。

更にその本棚からベッドまでの間にも本や羊皮紙、インクの漏れた羽ペンまでもが広がっており、まさに足の踏み場もない状態である。

しかし、その数々の、ざっくばらんに置き捨てられたものでさえ、細やかな細工、滑らかな質感は並大抵のものではないと感じさせる。


数秒の沈黙を挟み、男は再び口を開く

「悪かったと、思ってるさ」


男の目線の先はベッドの側の白人の青年がいる。白く長い髪の毛は肩の震えとともに細かく揺れ動いている。

普段なら人々を惹きつけるであろう整った顔は激しく歪められ、頬には涙がつたう。

その目には明らかな怒りが宿っている。


「もう、なにも言わないでください」

声を震わせながら青年はやっとの思いで声を出す。


その要求に応えたのだろうか、はたまた耳が聞こえていないのか、男は口を閉じ、そして合わせるようにゆっくりと目を閉じた。

周囲にはその場にいる人々の呼吸と本の山に埋もれてしまいながらも役目を果たさんとする置物時計の音だけが響く。


時計は間もなく午前0時を指そうとしている。


男は再び目を開き、天井へと視線を投げかけた。


その目に映るのはまさに異様としか言えない光景だろう。


角を額にはやした、天使のような柔らかな羽を持つもの。悪魔のような羽を生やしながら聖書を持つもの。マントを羽織った人間が乗る戦闘機。軍服を着ながら杖を振る男。大きさも異なる人形が吊り下げられている。


人々が空想として切り捨てたものと、この時代には明らかに早すぎるものが混ざり合った景色だった。


それらは皆男に睨みつけ、今にも動き出しそうであった。


男の目は見開かれる。

それはこの数多の人形を嘲笑っているのか。

いや、それらから怯え、逃げるように残り僅かな寿命に縋り付いているのだろうか。


時計の針は刻一刻と、互いに近づこうとしていく。


男の口が開く。

空気とともに、自らの最期の言葉を吐き出すように。

「ああ、あと、私は…ほんとうに」




「魔法使いになりたかったなあ…」



そう呟くと同時に午前0時を告げる鐘がなる。

男の瞳は光を失い、周囲の者にその死を知らせる。


1862年9月19日 フランスの森の中にある、とある屋敷の主人がなくなった。



これは現実であるので、彼は異世界にいったり、転生したりなどはしない。すなわち、彼は決して魔法使いなどという者にはなれないということだ。


しかし、彼の残したものは様々な地をめぐり、時を過ごし、予想さえ出来なかった災禍を引き起こす。


皮肉かな、なにも知らない人々にとってそれはまさに魔法といっても差し支えのないものであっま。



その物語を語るものはまだいない。

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