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少し前のことだ。
私は紹介を受けてG病院へ受診に行った。手術前の検査だ。
G病院は最近大規模な改装をし、とてもお洒落な作りになっている。病院内も分かりやすい構図になっている。
はずなのだが。
私は迷子になってしまっていた。レントゲン室に行こうとしていたのだが、自分がどこにいるのかも分からない。
迷子になるはずがないのだ。受付できちんと説明を受けて、案内図だって手にしている。ちゃんと【分かりました】と答えたではないか、私は・・・。
内心情けない気持ちでいっぱいだったが、迷子という現実を受け入れるわけにはいかないので、深呼吸して手元の案内図と、周りの景色を見比べる。あちこちに案内標識があって、分かりやすいようになっているはずなのだ。急がなくては。私を待っている(検査する)人がいる。
そのとき、
「あれ、OOさん!?」
と私の名前が呼ばれた。
「えっ、Mさん!」
顔をあげて私も驚いた。以前同じ職場で働いていたMさんだった。
「えー、○○さん、どうしたの!?」
「えーと、検査しに来たんですけど、どうも迷ったみたいなんです」
私は正直に答えた。ここで見栄を張っても仕方がない。
「どこに行くの?ああ、これはそこを曲がったところだよ。こっちこっち」
そういってMさんは私の手を引いていった。そこで看護師が私を待っていた。
そこでMさんにお礼をいって、検査室に入った。その後、また移動し、レントゲンを見ながら先生の説明を受けて手術の日程を決めた。
全て終わって、診察料の支払いにゆくと、ロビーにMさんがいた。私を待っていたようだった。ロビーにはコーヒーチェーン店も入っており、そこで飲むこともできる。私とMさんは隅の席に座った。
「どこか悪いの?」
とMさんが心配して聞いてくるので、ここに来た経緯と、これから受ける手術の話をした。日帰りできる小さな手術だと医師に言われた通りに話した。
頷きながら聞いているMさんに、当然私も同じ質問を返した。
「私は子宮筋腫の手術をしたの。明日退院」
とMさんはさらりと答えた。
「子宮筋腫」
わたしはぞっとして復唱した。Mさんと私は同世代だ。私も痛み止めがきかず、立っていられないほどの下腹部の痛みに悩まされることがある。我慢していたら、そのうちなくなるので放置しているが、異常な痛みには何か原因があるはずなのだ。私が痛みの犯人だと思っているのは、まさしく子宮筋腫だった。
「手術して、大丈夫なんですか?痛くないですか?」
「痛いよ。すっごく痛い。忘れときたいからその単語はもう出さないで」
「分かりました・・・」
その後、お互いの近況報告をして別れた。
Mさんがまさしくそのとき、怪異に見舞われていたなんて、誰が想像できただろう。
数か月後、一緒にご飯を食べたとき、初めて入院中にあった不思議な体験をMさんはしてくれた。