拾ったもの
「はあ?人?」
人族は、私とお師匠様しか居なかった場所で初めて人間を見た。
最初、死んだ魔獣か何かと思った。
新鮮だったらお肉食べられたのになあ・・・
って、そんなこと言っている場合ではなかった。
慌てて駆け寄り、水路から引き上げ生体探査で診察する。
驚いたことにごく弱いが反応がある。
冷たい雪解け水につかり、もうだめだろうと思っていたら生きていた。
「蘇生できるかもしれない」
私は反射的に
その人形のようになっている人間を
担いで森の小屋に運ぶ。
「皆、助けて〜」と声をかけるが同居人の皆は
留守のようだ、お散歩に行ったかな?
助けた人は途中、
あちこちぶつけたけれど緊急事態なので勘弁して欲しい。
だって、背高いんだもん。
担いでくるとき引っかかり大変だった。
地味だけど仕立てが良く高級そうな服や装備
軍服っぽい
どこかの軍の指揮官かな?
冒険者でこんな良い装備の人はほとんどいないと思う。
腰には武器の剣がかろうじて引っかかっている。
身体的特徴、
金髪少し長め、身長170センチメートル超えたくらい
やたら造作が良い、整った顔。
男性。
年齢は顔色が悪くよくわからない
多分十代後半から二十代前半位か。
とりあえず名無しさんと呼ぼう。
ケガの状況
右頭部から体右側にかけて擦り傷、切り傷、裂傷など怪我多数。
擦り傷の半分は私のせいかもしれない
腕は折れている模様、頭部の傷は大きくないけど
魔物の爪痕かな、
足には咬み跡、腹部に打撲、内出血している。
出血量は水に浸かっていたので不明。
体温はごく低い。
意識は無い、この状態であったら怖い
逆に好都合だ。
この人はおそらく魔物に襲われ
高いところから転落、冷たい川に落ちて
低体温状態に。
気絶していたためうまいこと冬眠状態で
『境界』を抜け流れ着いたらしい。
手早く蘇生を開始する。
と言っても、ここでいきなり体を温めると
心臓や脳に冷たい血液が流れダメージを負い
そのまま死亡する。
腹部の内出血もなんとかしなければならない、
足の傷、赤黒く変色している。
これ、毒だよね・・・・
お師匠様に教えられたことを思い出しながら
生きさせるための手順を瞬時に考える。
まず
ありったけの道具と魔石とポーションを準備する。
念のため、名無しさんに眠りの魔術をかけた後、
部屋全体を錬成空間で覆う。
人形さんの服をジョキジョキハサミで剥ぎ取り
作業台に乗せる。
うん男の人だ、しっかり確認しようとしなくても目に入ってしまう。
彼を運ぶときに水浸しになったので
私も服を全部脱ぐ。
蘇生のための道具、私、名無しさんがいる錬成空間ごと全部洗浄、消毒
さらに内部の酸素濃度を上げる。
あわせて部屋の中の温度を上げる。
これは自分の魔力を消費したくないので
魔石と魔道具を使用する。
火気は厳禁、明かりも魔道具
この状態にした中は火が着くとあらゆるものが燃え上がるから。
まず腹部の内出血を止め、右腕の骨をくっつける。
これは魔石を生体エネルギーに変換しながら行う。
骨の接合部は魔石からの物質変換だ。
あわせて、化膿箇所の消毒、体組織の修復等々
足にある咬み痕は後回し
魔石の生体エネルギー変換は
空間ゲートを開いて、高次元エネルギーを取り出すより
細かい制御がしやすい。
ただし、術者自身のエネルギー消費も大きい。
論理やら仕組みやらはお師匠様にみっちり教えられたが
理論と実践は大違い・・・
何でポーションや魔術を使わないで
こんな面倒くさい事をしているかというと
魔術で体組織の修復が容易にできるのは、ダメージを受けた直後だけで
時間が経つと生体エネルギー切れや多く体内の組織の壊死で
魔術やポーションが効きにくくなる
場合によっては全く効果が無いらしい。
回復、治癒魔法は細胞が生きているうちに活性化させて
もともと体がもっている能力を上げるものなのだそうだ。
お師匠様が言うには、これには例外があって
かなり難しい特殊な魔術や
一部の超上級ポーション、エリクサーであれば
死の淵から戻すことが可能とのこと。
ただ
完全に脳が死んでしまってからの蘇生方法は
無いらしい。
特殊な魔術は自信がない、失敗したら・・・怖い
お師匠様は特殊な魔術が使えていたっけなあ。
超上級ポーションは師匠様の残したものの中にあるかどうか
探している時間も無い。
自分が出来る中で一番確実な方法を選ぶ事にする。
やっと3話目、文字にして表現するのは、難しいです。