フラーレン
やっと2話目、主人公が出てきました。
誤字脱字すみません。
転移時に感じる軽い眩暈が収まり
外の明るさに目が慣れると
目の前にはもとは豪奢な庭園だったと思われる廃墟が見える。
「ふう〜」と深呼吸をしたあと廃墟を後に
冷たい空気の中に暖かい日差しを受けながら
私は森の中に続く小道を歩きだした。
道の脇や遠くの山にはまだ雪が所々に残っているが、
雪が融けたあとの地面から黄緑色の山菜のつぼみが顔を覗かせている。
やっと春が来たなと感じる。
今は納品の帰り道。
納品先の城主や冒険者ギルドからの執拗な引き止め工作に勝利し
やっとお家に帰る所だ。
道中、森の動物達に混じり時々
牛型や猪型や蛇型の魔獣が飛び出してくる。
春の魔物達は餌の確保に必死な様で、私を見つけると
猛然と襲ってくる。
そんな彼らを私は、いつものように
魔力の網で捉え、逆さに吊るし血抜きをし、
手早く皮を履いで解体して次々『収納』していく。
小さい頃に比べてだいぶ手馴れたものだなあと
自分でも感心する。
『収納』は時間が停止した別空間か別次元かに
物を仕舞っておく技術でお師匠様から習った。
通常はアイテム袋や何かの媒体を介さないと使え無いし
容量にも限りがあるらしい。
私のものはどれだけ入るのか試したことはないが沢山入るみたいだ。
そして、便利なことに入れた物が腐らないので重宝している。
私の名前はフラーレン。年齢は多分十二か十三歳位
この周辺の国々では珍しい黒目、黒髪で、性別は雌。
人間族らしい。
赤ん坊の頃、お師匠様に森の中で拾われ、物心つく前に、
今住んでいる森の家に連れてこられたそうだ。
赤ん坊の時の記憶はもちろんなく、自分が何者かも、どこで生まれたのかも知らない。
私を拾い『フラーレン』と名付け、育ててくれたお師匠様は、
短く『フラン』と愛称で呼んでいた。
だったら最初からフランで良いんじゃないか?
いつかそう文句を言ったら、『「フラーレン」はとても固く、切れない物質の名だよ。』
と言っていた。
お師匠様のこだわりがあるみたいだ。
お師匠様とは十数年間一緒に暮らしていたのだが、
それも数年前「わし、もうだめ。寝る。」と言って、
さっさと水晶の中に自分の体を封印して眠りについてしまった。
「お師匠様」はとても長く生きた人で、あちこちの国で『魔術師』として働いていたそうだ。
それも十数年前に『ハーシェスタ王国』での仕事を最後に引退したそうだ。
『魔術師』のお仕事のことを詳しく知りたかったので、お師匠様に聞いたけど曖昧にごまかされてばかりだった。
そんなことで、お師匠様が眠って(?)からは森の中で一人で暮らし・・・
あ、人間ではないけどお友達がいるから一人と四匹で暮らしている。
私は、月に1回か2回ほどのペースで、森の外周部にある村や街に、
注文された薬草や素材、ポーション、刀剣類を納品している。
この仕事は、お師匠様がしていたことなので
引き継いで続けているのだが、
お金は十分貯まっているし、森の家には畑と家畜がいて、
周辺には沢山の魔獣や野生動物がいるため、生活には困らない。
人付き合いが苦手な私は、一人で生活するのであれば
最近この仕事は辞めてもいいんじゃないかなあ?って気がしている。
トコトコと歩いていると、道は大きな川のほとりで石畳の街道跡と合流する。
元々は、大昔にこの地で繁栄した、
エストレンドという国の首都まで続く街道だったそうだ。
馬車が2台並んで通れるような立派な道は
今は見る影もなく、森に覆われ自然に還ろうとしている。
その道を歩いていると、前の方から
狼型の魔獣の群れ十数頭が襲ってきたので
を返り討ちにした後、それらを収納してから
一休み、お腹がすいたのでオヤツにする。
今日は熱々の番茶とバターと蜂蜜がたっぷり入り、
ナッツが乗っているサクサクの焼き菓子だ。
一息ついてまた歩き出す。
しばらくして
森との『境界』を抜けた。
森の家まではあと少し、ここからは魔獣も入って来ることは出来ない。
はー・・・・やれやれ、やっとひきこもりが出来ると思いながら
道すがら、大きな川から家まで水を引き込んでいる水路の点検をしていると
見慣れないモノが引っかかっているのが見えた。