第98話 Alice in wonderland 12:桜舞い散る頃
「ねぇ、私ちゃんと綺麗?」
「もう……何度目ですか……はぁ……」
「だ、だって! 気になるから!」
「大丈夫ですよ。いつも通り、美しいですよ」
自室。
そこでは私はパーティーに出席する衣装に着替えていた。これから私が出席するのは、カノヴァリア錬金術学院の卒業式だ。今回は別に合格したから参加すると言うわけではなく、ここ数年は王族だからと言う理由で出席していた。
でも今回はいつもと心情が違う。
今まではただいつものように、作業をこなすだけだと。そう思って卒業式に出席していた。涙を流す人の心など、理解できなかった。
でも私は、来年度には入学するのだ。
それに……エルウィード=ウィリスの卒業式ということで世間的にも注目度は高い。彼には本当にお世話になった。だから別に在校生ではないけれど、彼と会うことができるのは純粋に嬉しかった。その卒業する姿を見るのも、楽しみだった。
そうして私は卒業式に向かう。
「エル様。ご卒業、おめでとうございます」
「ん? あぁ。アリスか。ありがとう」
「いえいえ。卒業式、とても立派な挨拶でしたね」
「そうだといいのだが……」
「何か思うところが?」
「いや、擬態が面倒だ」
「ふふ……あなたらしいですね……」
卒業式が無事に終わり、次の会場はパーティーでの打ち上げとなっているが実際は王族や上流貴族の集まりだ。その中でも異彩の放つのが、エルだった。でもいつものように飄々としており、その雰囲気は普段と変わりはない。
私たちは目立たないように、会場の隅の方で会話をするけれど……やはりそれなりの注目は浴びてしまうようだった。
でもそんなことは気にしない。今はただ、話がしたかったから。
「そういえば、学院の教師になるとか。お聞きしましたが……本当なのですか?」
彼の進路は様々な憶測が飛び交うも、確定はしていなかった。その先は明るい未来が待っている。皆がその選択肢に期待しているのだ。
「あぁ。と言っても、非常勤で残りの時間は農作物の研究に当てるがな」
「……他の貴族たちが聞いたら卒倒するでしょうね」
「そんなことはどうでもいい。俺は俺の生きたいように生きるだけだ」
「ふふ……あなたらしいですね」
「俺のことはいい。アリスは、来年度に入学だろう。もう数日後だな」
「えぇ。おかげさまで、入学する運びとなりました」
「もしかしたら……いや、きっと学院で会おうことになるだろうな。立場は教師と生徒だが」
「ふふ。それはとても楽しみですね。あ! これからは先生って呼びましょうか?」
「別になんでもいいが……お前の場合は裏がありそうでな……」
「何か言いましたぁ〜」
「いや、別に……」
最近は素の自分も見せるようになって、彼との距離はぐっと近づいている気がする。
それにしても、私がとうとうあの学院での生徒になるのか……そう思うと本当に感慨深いものがある。
ふと、窓越しに外を見ると……もう軽く花が咲き始めていた。木々にある蕾は、その開花を始める。
私もまた……きっとこれから、開花することができるのだろうか。
いやきっとできる。
だって私はもう、一人じゃないから。




