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史上最高の天才錬金術師はそろそろ引退したい  作者: 御子柴奈々
第四章 王国内乱編-When she cry-
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第97話 Alice in wonderland 11:いつか舞い散る、その春に


 もう雪も降らなくなり、まだ寒いとはいえ春の足音が聞こえる気がした。


 私の入学試験は無事に終わった。


 全力を尽くすことができた……と思う。今までの成果を十分に発揮できたと思う。でもやっぱり、不安なものは不安だった。


 そうして今日はついに……合格発表の日になった。


「アリス様。お一人で行くのですか?」

「えぇ。一応軽く変装はするけど、一人で見に言って来るわ」

「そうですか。わかりました」


 サリアはそういうだけだった。


 彼女また理解していたのだ。私が不安で不安で堪らないのは。


 不安だけれども……いや、だからこそ私は一人で行くべきだとそう思った。


 そしてまだ寒いので衣服を着てからコートを羽織り、さらにはマフラーもして口元をできるだけ隠して……私は外へ出て行く。


 合格発表は十時から行われる。そして今は、十時過ぎだった。もう私の合否は決まっている。きっとカノヴァリア錬金術学院の正門のところに、張り出されているだろう。私の番号は五十七番。その番号が載っていれば、私は合格だ。


 一方で、載っていなければ……そこで終わりだ。


 今までの努力が無駄になるのか、報われるのか。


 努力が全て報われるなんて、思ってはいない。そんな中だからこそ、私は努力するしかなかった。それだけが、私にできることだったから。


「ふぅ……」


 外に出ると、まだ寒いがどこか暖かみを感じるような気がした。


 今日は晴天だ。それはずっと晴れ渡っている。


 とても澄んでいて、綺麗だった。


 そうして私は歩みを進める。この道を通るのも何度目だろう。幾度となく通って来た道だが……妙に足取りが重い。


「やったー!」

「おめでとう!」

「合格だああ!」

「わああああ!」


 正門の前に来ると、すでにそこはお祭り騒ぎだった。色々とな人間が一喜一憂している。その中を私は縫うようにして進んで行く。いつもは私の姿を見たら、多くの人間が騒ぎ立てるが、今はそんな余裕もないのか私は普通に正門にある掲示板へと向かって行く。


 もうすぐ……もうすぐ、わかる。


 躊躇ためらいはなかった。


 ただまっすぐと……その場に向かっていき、私は番号を探して……みた。


 見つけた。


 私は自分の番号があるかどうかを確認すると、私は再び人の波に飲まれるようにして移動を開始する。そうして誰にも見つかることなく、その場から去って行くのだった。



「はぁ……」



 近くにある川辺にやって来る。そこで私は腰を下ろして、流れ行く水の流れを見つめる。


「アリス」

「どうしてここが……?」

「実は後をつけていてな。隣、いいか?」

「はい、どうぞ」


 そういうと、やって来たエルは隣に座る。いつもはまとめている男性にしては長い髪は今日は降ろされていた。いつもと違う雰囲気にドキッとしながら、私たちは話を続ける。


「合格したんだろう?」

「……ふふ、どうだと思います?」


 そう言われたので、ちょっとだけ意地悪をしてみる。


「俺はアリスの努力を知っている。だから合格していると確信しているだけだ」

「そうですか……まぁ、そうですね。合格、してましたよ。自分の番号がありました」

「そうか。それは素晴らしいことだが、どうしてそんなに落ち着いているんだ?」

「……何なんでしょうね。いざ、こうして合格を実感してみると……逆に実感できないというか」

「でも……それならなぜ、泣いているんだ?」

「え……?」


 そう言われて初めて気がついた。私は……私は泣いていたのだ。零れ落ちる涙に気がついた。


 心に別に変化はない。


 合格したのか。そうか。


 そう思っただけで、何の変化もないと思っていたが……私の双眸からは涙が止まらない。ただただ溢れ出るそれは、自覚してしまうとさらに溢れていく。


「おめでとう」

「う……ぐす……う……」

「アリス。ここまでよく頑張ったと思う。だからこそ、そう言わせてくれ」

「エル……エル様は、どうしてそんなことをいうためだけに……?」

「そうだ。そう言いたくて、俺はここまで来た」

「う……うぅ……ぐす……」



 そうか。そうだったのか。


 理解する。私は報われて嬉しいのだ。そしてその言葉を、他でもない彼に言葉をかけてもらって嬉しいと感じているのだ。


 そのまま私は静かに泣き続けた。


 そして彼は隣にいてくれた。


 私が泣き止むまで、ずっと──。

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