第96話 Alice in wonderland 10:向き合う時
学内に入る。
そして私は大きな教室内へと入り込む。まだ受験生はいないようで、私が一番乗りだった。ちなみに朝早く来たのは、マスコミを嫌っての意味合いもあった。すでに私が受験するのは知られている。
別に王族がこの学院を受験するのは初めてではないが、そのほとんどが不合格となっている。
この学院では王族、貴族という地位は関係はない。
ただ錬金術師として入学できる素養があると認められればいい。
そのためには、筆記試験と実技試験をパスしなければならない。
「……よし」
防寒のために来ていた服を脱ぎ去り、いつものようにノートを広げて最後の復習に入る。今までの時間が、あっという間だったな……とふと思った。
幾度となく繰り返して来た所作。
ノートのページをめくる音。この紙に触れる質感。それと、ペンを持つ時の感覚。
もうすっかり慣れてしまったものだが、今となるとなぜか懐かしくなる。
きっと合格しても、不合格となっても、どちらに転ぼうが……私はこれほどのプレッシャーの中で勉学に励むことは……もうないのだろう。
そう考えてしまうと、少しだけ寂しい気持ちになってしまう。
別にこの勉強の期間を心から楽しいと思った時はなかった。
もちろん楽しいと感じる時もあるが……やはり勉強というものはどこまでいっても、作業感が拭えない。たまに気晴らしに実技の練習もするが、それでも行うのは錬成陣を描き続けるという地道な作業。
そこに爽快感や楽しさはさほどない。
でも、それでも、私がここまで無事に来れたのは、諦めずにこの場所に来れたのは、きっと彼の存在が大きいのだと思う。
その姿を見て、その自由に振る舞う生き方に憧れた。
だから近づいて見たいと。
そう思った果てが今だった。
「ふぅ……」
一息つく。
すでに室内には大勢の人がいた。
そして私に視線が注いでいることにふと気がつく。
でも、それはそのはずだ。私のことはすでに大々的に報道されているし、受験をする前から私は有名な存在なのだから。
そんな私をまるで異質な存在として見てくる。
きっと私も、そして彼も同じだ。
私たちは世界から少しだけ外れた存在だ。普通ではない。
でもだからと言って、その生き方を無理やり変えるつもりなどなかった。
私は、私の生きたいように……彼のように、自由に、生きたいと願ったのだから。
「それでは……始めてください」
試験官の人がそういうと、全員が一斉に紙をめくって試験を開始する。
この学院のペーパー試験はシンプルだ。
大問が3つあって、それに対して全て記述で答える。文字数に制限はない。ただ、問いに対して論述をすればいいだけだ。
こうして私の人生を変える瞬間が、やってくるのだった。




