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史上最高の天才錬金術師はそろそろ引退したい  作者: 御子柴奈々
第四章 王国内乱編-When she cry-
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第95話 Alice in wonderland 9:雪が溶ける、その瞬間



 無事に年明けの挨拶回りも終わり、私は完全に自分の時間を手に入れていた。でもその時間は全て、入学試験のためにだけに費やしていた。わからない問題は、エルに聞いたりして自分なりに勉強を進めていた。


 今は二月下旬。


 そして入学試験が行われるのは、三月上旬。もう時間はほとんどない。


 きっと今までの私なら、ここまでやったのだからと満足していたに違いない。でも今は違った。限界まで、最後までやり抜きたい。そう何故か思っていた。この感情は何なのだろうか。


 彼に恋しているというだけでは説明のつかない感情。


 確かに初めは、エルのいるあの場所に自分もたどり着きたいという想いから始めたことだった。受験して、受かったらいいな……そう思っていたが、彼から錬金術を教えてもらうたびに私は学ぶこと自体に夢中になった。


 周りからは依然としてバカにされているのも知っている。


 その噂はすでに貴族の間でも広まっているらしく、受かるわけがない、身の丈にあった生活を送るべきだ、王族といえどあの学院は無理だろう、そんな声が上がっているのは伝わっていた。


 年始のパーティーで嫌という程この耳に入ってきたからだ。


 でも……そんなものはどうでもいい。今はただ、前に進む。


 進み続けるだけだ。



「ふぅ……」



 一息ついて、休憩する。


 ふと外を見ると、また雪が降っていた。本当に今は寒い。暖房器具がないと室内でもかなり冷えるし、外に出るときはかなりの厚着をしなければならない。私は特に寒がりなので、もうそれは身体中をもこもこにして外に出る。


 

「アリス様……まだ起きているのですか?」

「サリア。まぁそうね……今はできるだけやっておきたいから」

「夜更かしは女の敵ですよ」

「……そうだけど。でもあと少しだから」

「……分かりました」



 そうして去っていくサリア。本当によくできたメイドだ。私の思っていることをしっかりと汲んでくれる。彼女だけは私のことをバカにしたりしない。いや、結構辛辣なことも言われるけど、でもそれは愛があった。きっと私は亡き母と彼女を重ねているのかもしれない。


「よし」


 改めて声に出して、私はそのまま勉学に励む……そしてあっという間に日々が過ぎていき……とうとう私は入試の日を迎えた。



「はぁー」


 と息を吐くと、依然として息は真っ白に染まる。


 私はサリアに色々と準備をしてもらい、いつものように完全に防寒をしてカノヴァリア錬金術学院に向かっていた。


 昨晩はかなり雪が降ったようで、完全に積もっていた。歩みを進めるたびに、雪を踏みしめる特有の感覚が伝わってくる。それに今も少しだけ、しんしんと雪が降っている。傘をさすほどでもないが、その光景を見て私はとても幻想的だと思った。


 空は真っ白な雲で覆われている。その隙間から微かな光が差し込むようにして、この世界を照らしている。


 私はとにかく一番に会場入りしようと、かなり早い時間からやってきていた。そして学院の正門にやってくると……ちょうど、見知った顔がそこにあった。



「エル様……どうして」

「アリス。久しぶりだな」


 そこには真っ黒なロングコートを着て、マフラーも巻かずに門に寄り添うようにして立っている彼がいた。でも私が行く時間なんて伝えていないのに。


「とうとう今日だな」

「はい……」

「アリスのことだから。早く来ると思ってな。一時間前から待機していた」

「え!? この寒さの中を、ですか……?」

「あぁ。でも寒いのは得意でな。アリスのようにもこもこにしなくとも、大丈夫さ」


 フッと微笑むその顔は、いつものエルだった。


 今日は彼に会うことなどないと思っていた。でもどうしてそんな一時間も前から、こんなところにいるのだろう。



「さて。これをやろう」

「これは?」

「お守りさ」

「青い石ですか……綺麗ですね」

「だろう? ちょっと実験していたら偶然綺麗な結晶ができてな。それを渡したくてな」

「それだけのために?」

「あぁ。そしてこう告げるためだ。アリス、来年度この学院で待っている」

「……はい」

「まぁ俺は卒業するけど、もしかしたらここで会う機会もあるかもな」

「まだ進路は?」

「フィーのやつがうるさいが、確定はしていない。と言っても独立して、自分の工房は持つけどな」

「そうですか。エル様らしいですね」

「そうか?」

「えぇ」


 それから少しだけ他愛のない話をして、私は彼の横を通り過ぎていく。


「頑張ってきます」

「あぁ。幸運を」

「はい」



 そして私は、改めてこの雪を踏みしめながら学院の中へと進んでいく。


 きっとこの先に待っているのは、春だと信じて。

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