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史上最高の天才錬金術師はそろそろ引退したい  作者: 御子柴奈々
第四章 王国内乱編-When she cry-
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第92話 Alice in wonderland 6:在りし日々



「いいのか、アリス?」

「えぇ構いませんとも」


 私たち二人はひっそりと、王城の中に来ることができた。ちょうどこの周辺にはマスコミのいないのか、タイミングが良かったようで正直ホッとしている。


 エルウィード・ウィリスの名前は王国内だけでなく、すでに世界中に広まっている勢いだと言う。


 それだけ彼が成した遂げた偉業というものは計り知れないものなのだ。


 でも私は嬉しかった。それはもちろん、彼が偉業を成し遂げたということもそうだが……やはり、自分と対等の立場に立っているという事実が私には何よりも大きいものだった。


 今までのエルだったならば、ただの天才で終わり。きっと王族と釣り合うまでのレベルではなかっただろう。でも今は違う。今の彼は、史上最高の天才錬金術師なのだ。しかもそれは、名実ともに。



 錬金術師は数多くのものが、その碧星級ブルーステラという頂点に至ろうと研鑽を重ねている。しかし……今まではその場所にたどり着けるものはいなかった。錬金術の祖は例外だが、その地位に文字通り上り詰めた者は誰もいなかったのだ。


 でも彼は10代という若さでその地位にたどり着いた。


 それはマスコミもこぞって取り上げたくなるのも、当然だろう。



「おぉ綺麗な部屋だな!」

「そうですか?」

「あぁ。乱雑な俺の部屋とは大違いだ」



 そうして私たちは自室にやってきていた。もちろん掃除は入念に済ませている。いついかなる時も来訪がないとは限らないのだ。と言っても、自室にまでそこまで気を使う必要はないのだが……私は今回ばかりは自分の性格に感謝しないといけないと思った。



「さてお飲みものはいかがですか?」

「いいのか?」

「えぇ」

「では紅茶をお願いしよう」

「わかりました」



 と、私が言った瞬間に扉が開いてサリアがちょうど二人ぶんの紅茶とお菓子を持ってきていたのだった。



「……!? 流石に早すぎないか!!?」

「ウィリス様が飲みたいものはすでにいくつか用意しておりましたので……」

「おぉ。さすがは王城で働いているだけはある。すごいな、あなたは」

「いえ。とんでもございません」



 恭しく礼をしているも、私には見えていた。


 サリアがエルにそう言われて、ニヤッと笑っているのが。サリアはメイドとして優秀だがこのような一面も兼ね備えている。王族に謙るわけでもなく、適度な距離感を保っている……とでも言えばいいのだろうか。


 正直なところ、サリアは私に対して割と遠慮がない。それは私の出身的な問題ではなく、ある程度距離感が近くなったから……ということだと思っている。でも別に私も根っからの王族というわけでもないので、サリアとの関係性は正直言ってかなり満足している。



「では……失礼致します……」



 再び恭しく礼をして、サリアは去って行った。


 現在は二人で室内にあるテーブルについている。目の前には紅茶とサリアが手作りしたお菓子がある。今回はクッキーとパウンドケーキを用意したようだった。もちろん、紅茶には砂糖を入れることもできるが私はそうしない。甘いものを食べた後に、甘いものを飲みたいとは思わないからだ。



「エル様、お砂糖はいかがでしょうか?」

「いやストレートで構わない」

「そうですか。では、いただきましょうか」

「あぁ」



 そうして手をつけるお菓子だが……やはり、めちゃくちゃ美味しい。あのメイドはきっと本職が菓子職人の方がいいのではないだろうか? と思ってしまうほどにはお菓子づくりが得意なのである。実際に、この王城でメイドとして働くということはそのような条件も加味された上での雇用かもしれないけど。



「む!? うまいな、これは!!」

「ふふ……そうでしょう?」

「あぁ……最近はマスコミのせいで落ち着いて食事も取ることはできなかったからな」

「それでは今日は存分に落ち着くことができますね」

「そうだな。アリスの提案には本当に助かっている。改めて、感謝を」

「いえ別に……いいのですよ。困っているのでしたら、お互い様ですから」



 にこりと微笑み返す。もちろん打算的な感情も私の中にはあったかもしれないが、それでも私は困っているのなら力になりたいと純粋に思った。


 今までは……特に母が亡くなってからはこのような感情を抱くことなどなかった。


 他の人間の興味などなかった。


 ただ灰色の世界で、呆然と立ち尽くしているのがアリス・カノヴァリアなのだから……そう割り切っていたつもりなのに……。


 最近は妙にこの世界は色鮮やかに見えて仕方がない。


 これが誰かに対して恋をするという感情とでもいうんだろうか。でもまだ測りかねている部分もある。私は恋に落ちた経験がない。書物や伝聞での知識はあるものの、実感としての経験はまだないのだ。


 でも彼といると、自分らしくいることができる。


 落ち着くことができる。


 それだけは、間違いがなかった。



「さて、残りの時間はどうしようか……」

「その……」

「ん? どうした?」

「私に錬金術を教えてくれませんか?」

「錬金術……か?」

「はい。私も来年度は錬金術学院に入学してみたいと思うのです」

「そうか。しかし、専属の家庭教師がついているのでは? 王族ならそれぐらい当然だろう」

「そうですが。私はエル様にお願いしたいのです」

「なるほど……わかった。これも今日の恩返しだ。引き受けよう」

「……やった! よろしくお願いしますね?」



 そうして私は彼に錬金術を教えてもらえることになった。


 それはとても眩しくて、暖かくて、掛け替えのない時間だった。

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