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史上最高の天才錬金術師はそろそろ引退したい  作者: 御子柴奈々
第四章 王国内乱編-When she cry-
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第87話 Alice in wonderland 1:運命の出会い


 

「ママ! おはよう!」

「おはよう、アリス。今日の朝ごはんはパンよ」

「やったー!」



 私は王国生まれではあるものの、母と下町の小さな家で暮らしていた。当時はあまり気にしていなかったがとても貧乏だった。お金がないのは当たり前で、一日三食も食べることができる日は少なかった。そんな中でも、母は私に食事を与えてくれた。



「ねぇママ。私にはどうしてパパがいないの?」

「……パパはね。遠くに行っちゃったの」

「帰ってくるの……?」

「アリスがいい子にしてたら、帰ってくるかもね」

「ならいい子にしてる!」

「そう。偉いわね、アリスは」

「うん!」


 母は優しかった。誰よりも優しく、そして美しかった。


 私は母との暮らしに満足していた。確かにお金はなくて、苦労することもあった。電気が止まり、水が出ないことなどもあったりした。それでも私たちは二人で協力して暮らしてきた。母は色々な知恵を持っていた。


 ろうそくを持続させる方法だったり、汚い水を錬金術でろ過する方法など。


 そう、母は少しだけならば錬金術が使えた。幼い私も知っていたが、錬金術の能力とは基本的には遺伝するものである。でも私の母は錬金術師の家系ではないのに、錬金術が使えていた。そしてそれは私も同様だった。でも私の方が錬金術の技量は上だった。


 その時に思った疑問。私の父はもしかすると、錬金術の適性の高い人間だったのかもしれない。



 そうして私と母は穏やかな、在りし日々を過ごしていた。



「ママ!? どうしたの!?」

「アリス……これは、なんでも……ないのよ……」

「でも血がこんなに! こんなにも!!」

「う……」

「ママ!!」



 母は体が弱かった。それは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。そうして母は街の医者に診てもらったのだが……もうこの時にはすでに遅かった。数日後には、母は亡くなった。



「ママぁ……どうして……どうしてなの……?」



 喪服を着て葬式に出る私。当時は親戚などよくわからなかったが、優しくしてくれた男性がいた。当時はまだよくわからなかった。でもその人が後にこの王国の王であり、そして……私の血の繋がった父であるということを知った。



「アリス、今日からここが君の家だ」

「でもここって……王城だよ?」

「そうだ。アリスは、王族になるんだ」

「王族? 王族ってなに?」

「それはいずれ、わかるようになるよ」

「……」



 国王である父は優しかった。彼はそもそも母が妊娠しているとは知らなかったらしい。


 一夜の過ち。


 それにより、王城で働いていた母は自ら出て行った。その後、私を妊娠していると知り、女手一つで私を育ててくれたのだ。



 そうして母が死ぬとほぼ同時に、現国王は私の存在を知った。もちろんすぐに認知してくれたものは良かったが……そこから先の生活は決して幸せとは言い難いものだった。



「……はぁ」



 ため息をつく。あれから十年近くが経過した。私は王族としての作法、マナー、そして振る舞い方を学んだ。生きるためには、それが必要だったから。


 でも他の王族の人間からは疎まれていた。それは私の母が平民の出身だったから。貴族の家系でもなく、ただの一般人。


 それに私の錬金術の適性の高さ、それとこの美貌もまた嫉妬の対象となった。


 

 自分で言うのもなんだが、私は王族一の美女としてメディアに取り上げらている。


 美しすぎる王女、アリス・カノヴァリア第三王女。


 そう特集が組まれてからは私の人気は天井知らず。すでにこの王国で私のことを知らないものはいない……それほどまでになっていた。


 でも私は別に人気ものになりたいわけではなかった。


 私は……母と一緒に、小さな家でもいい、満足に暮らせなくてもいい、ただ純粋に……幸せに暮らしたいだけだったのだ。


 今の生活は確かに表面上は満ち足りている。衣食住、困ることなどない。


 でも心はいつも空虚。友人もいなく、信頼できる人間もいなく、ただただ毎日を呆然と過ごしていた。


 そんな私はある日出会う。


 この王国始まって以来の、史上最高の天才錬金術師に。



「ん? お前、どうしたんだ?」

「ちょっと疲れていて……って。あなた、私のことを知らないのですか?」

「いや知らんが」

「えぇ……アリス・カノヴァリアですよ? 第三王女の」

「いや知らん。俺は農家の人間だ。王族など知らん」

「そうなの?」

「あぁ」



 私は貴族のパーティーに出席していた。その時は確か、もう14歳になろうとしていた頃だった。第二次性徴を迎え、さらに美貌に磨きがかかる。私も自分の容姿には満足しているが、こういうパーティーだと露骨に言い寄られて辟易してしまう。


 だから外の庭に逃げていた。ここはまるで迷路のように広く、いつも逃げるには丁度いい場所だった。


 

 そんな綺麗な月明かりが照らす夜に、私は出会った。



 史上最高の天才錬金術師、エルウィード・ウィリスに。



「え? エルウィード・ウィリスというの?」

「そうだが?」

「それってあの天才錬金術師の?」

「いや俺は天才農家だが?」

「……なるほど。噂通りの人物なのね」



 エルウィード・ウィリス。その名前は王族、それに貴族の間でも広まっている。由緒あるカノヴァリア錬金術学院を史上初の全てのテストで満点を記録。


 さらには史上最年少の白金級プラチナの錬金術師。


 ゆくゆくは、あの碧星級ブルーステラの錬金術師になるとも言われている天才だ。いや史上最高の天才錬金術師との呼び声はきっと、過言ではないのだと思う。


 そんな彼が今回のパーティーに来ると聞いていたが、まさかこんな人だとは夢にも思っていなかった。というのも農家出身という噂は信じていなかったからだ。どうせ誰かが適当なことを言っているに違いない、そう思っていたのに本人は錬金術師であることよりも農家であることをやけに強調してくる。



「エルー! どこなのー! ここら辺にいるのはわかっているんだからねー!!」

「げ、フィーのやつ……流石に早いな。さて俺はまだ逃亡を続ける。お前はどうする?」

「私は……」



 迷っている。どうする? と言われても私はどうせあの場所に戻らないといけない。でも私も……彼のように、自分らしく生きることができるのだろうか。


 そんな想いからは私は、彼に手を伸ばしていた。



「私も逃がしてくれる?」

「ふ、任せろ。フィーを撒くのは得意。いや俺を捕まえられる者など、いやしないさ」

「……きゃ!!」



 そういうとエルは私をお姫様抱っこして、そのまま錬金術を錬成陣なしで発動して空に舞った。


 近い。あの月が今はとても近く感じた。


 そうして私たちは、王城から逃げ出すようにして屋根から屋根へと移動していく。



「エルうううううううう!! 逃げるなあああ、こらああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 と、そんな声が響いていたが私たちはすでに空を駆けている。いや厳密には違うも、私の気分はそうだった。


 まるでおとぎ話に出てくる、本当のお姫様みたいだと……そう思った。



「な? 簡単だろ?」

「えぇ。すごいわね、あなたは。流石、王国始まって以来の天才錬金術師……」

「ふ……まだ、勘違いしているのか? 俺は王国始まって以来の天才農家だ。そこは間違えるなよ?」

「ふふふ……そうね」



 出会ったのはそれこそ、数分前。だというのに私は数年来の友人のように、彼と話をしていた。


 こんなに気持ちが晴れやかなのは、いつ以来だろうか。それはきっと……母と暮らしていた時以来だろう。


 ずっと塞ぎ込んで、この世界はつまらないと決めつけていた自分。


 でも世界はこんなにも美しい。


 彼が私に見せてくれるこの雄大な世界は、とても色付いて見えた。まるで灰色だった世界が、鮮やかな色彩に変わっていくかのように。



「さて、と。もう少し高く飛ぶか。フィーも追ってくるだろうしな。しっかりつかまっていろよ?」

「……うん!」



 そうして私たちは飛ぶ。この広い世界の中を、綺麗な月明かりに照らされながら。


 これが出会い。



 アリス・カノヴァリアとエルウィード・ウィリスの初めての……運命的な出会い。



 そして、私はこの時に予感があった。



 きっと私は……彼に、恋焦がれるのかもしれない、と。



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