第70話 あなたは誰ですか?
金髪碧眼。その美貌は容易に語るほどができないほどに整っている。特筆すべきはそのバランスだ。どんな人間にも多少のズレが存在する。だがこの女は完全に左右多少。両目ともにパッチリと開き、鼻、唇にもずれはない。
まるで人形のようだ。それは来ている服装からも、そう思わせるにふさわしい要望だった。
フリルのあしらわれた洋服。確か、こういうのゴスロリというのだろうか? 姉が一部の女性の間で熱狂的な人気があるとか言っていた気がする。
「私は、アリアと言います……」
「他に情報は?」
「その……」
「?」
「覚えていないんです」
「「よし、置いていこう」」
「ま、待ってええええええええええええええ!!」
俺とフィーはアリアとやらに背を向けると、そのまま去ろうとするも必死に止まるように懇願するのでとりあえず話は聞いてやる。
「実は私にもよくわかってなくて……」
「記憶喪失だと?」
「そうですね……」
「気がついたらここに?」
「えぇ……本当に寒くて死ぬと所でした……」
「ここがどこか分かっているのか?」
「えっと、北のどこかですか? 私の出身は北ではないので、よく知らないのですが……」
「第五迷宮、第十一層。それがこの場所だ」
「は? 迷宮」
「あぁ、迷宮だ。知識はあるのか?」
「その、最近攻略され始めたというのは聞いています。でも、迷宮だなんてそんな……」
「「……」」
「え、本当に何ですか?」
俺とフィーの表情を見て、アリアは本当だと悟ったのだろう。顔からさらに血の気が引いていく。
「ど、どうしよう……迷宮なんてそんな……死んじゃいます!」
「なぁこいつ連れていくか?」
「仕方いないでしょ。お荷物なのは間違いないけど、連れていくしかないわよ」
「まじかぁ……いや、まじな話……やばくないか?」
「でも置いていくのも可哀想でしょ」
「うーん」
「いやいやいや! 迷うことはないでしょう! 連れて言ってくださいよ」
「うるせぇ、女だな……」
「ちょ!? 本音出てますよ!? ちょっとイケメンだからってその言葉は許せませんよ!」
「何、エルに色目使ってるの!?」
「こっちの人もやばい人!?」
と、色々と話し合った結果……結局アリアを連れていくことにした。
「その宜しくお願いします」
「あぁ」
「宜しくね〜」
「それにしても驚きました。まさかあのエルウィード・ウィリスに会えるなんて」
「そういう記憶はあるんだな」
「えぇ……」
「怪しいな。やっぱカースでも刻んでおくか?」
「ひ、ひぃいいいいいいいいい! 痛いのは勘弁してください!」
「まぁまぁエル。いざとなったら私がどうにかするから」
「どうにかって、どうするんですか?」
「まぁ、ビリビリからのバラバラみたいな?」
「バラバラ!? バラバラになるんですか?」
「アリアの態度次第ね」
「ちゃ、ちゃんとしておきます!」
「よろしい」
何というか……リアクションのいい人間だな。俺の印象はそんな感じだった。見た目はどこかのお姫様のように艶やかなのに、かなりフランクというか何というか。正直、いじるのがちょっと楽しい。
「おっと、魔物だな。フィー、任せていいか」
「えぇ」
先ほどの戦闘で俺は疲労していたので、今回はフィーに任せることにした。と言っても相手はホワイトウルフだ。すぐに終わるだろう。
「よし、終わったわよ」
「え……なんかグチャって弾けたんですけど……」
10匹ほどいたホワイトウルフは体内にある水分を一気に気化状態に持って行かれ、爆発して爆ぜた。最近はフィーの血流操作がかなり上がってきている。俺はそのことに感嘆を覚えていると、アリアのやつがブルブルと震え始める。
「も、もしかして……ビリビリからのバラバラって」
「……」
「ひ、ひぃぃいいいいいいいい! え、エルさん! フィーさんやばいです! サイコパスです! バラバラになります! 助けてください!」
「ちなみに俺はバラバラ以上に存在そのものを消せるけどな。ほら……」
俺はスッと手を横に軽く振るうと、対物質コードを発動。バラバラになった残骸だけでなく、血液もまた第一質料へと還していく。そしてその場所には文字どおり、跡形もなく存在がそのものがなくなった。
「え!? は!?」
「どうした?」
「もしかして、人間にも同じことが?」
「まぁ同じ生物だし。できるだろうな。でも固有領域は人間の方が強固だし、実用的ではないな。死体だからこんなにもあっさりとできたんだ」
「じ、時間をかければ人にも出来ると?」
「理論上は」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 消されるううううう! 比喩的な意味じゃなくて、物理的に消されるうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
「ほらいくぞ。あほアリア」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」
俺はただをこねるアリアをひょいと担ぐと、そのまま歩みを進めるのだった。
「マリーとレイフは大丈夫かしら」
「あの二人な大丈夫だろう。むしろ、今は俺たちの方が問題だ」
「それって私のことですか?」
「「うん」」
「ぐす……なんか、雑な扱いにも慣れてきた自分が嫌です」
「そろそろ自分で歩く気は?」
「あ! どうもすいません。お手数おかけして」
俺は簀巻きにしたアリアを解放すると、そのままポイと地面に投げ捨てる。
「ちょ!? 女の子ですよ!? こんな美少女を雑に扱うなんて!」
「自分で美少女って言ったよ」
「事実だけに腹立つわね。若さが憎い……」
「え、フィーさんってもしかして結構お年を……って、あがががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががががが!」
「黙りなさい、小娘。電撃流すわよ」
「もう流してるじゃないですか!?」
「あら、ごめんなさい」
「ううううううううう……私に味方はいないのですかぁ……」
「ま、諦めろ」
「うわーん!」
と、テキトーにじゃれ合っていると再びホワイトウルフの群れが出現。だが今度は数が桁違いだ。迷路を右に曲がった先に、待ち伏せしていたようで約100匹以上のホワイトウルフがそこにいた。
「え!? ちょ!? 多くないですか!?」
「……フィー、ちょっと試してみてもいいか?」
「いいけど、何するの?」
「実験さ」
《対物質コード:逆転》
《物質=対物質コード》
《物質:逆転=第一質料》
俺は先頭にいるホワイトウルフに対物質コードを発動。そしてそこからさらに、別の錬金術を走らせる。
《対物質コード:逆転》
《物質=対物質コード=連鎖錬成》
《物質:逆転=第一質料》
今度は先頭から後ろにいる個体に連鎖するように錬成陣を構成。すでにホワイトウフルフのコードは解明してある。ならば一体一体にコードを走らせなくても……。
瞬間、元素眼を使わなくとも知覚できるほどに第一質料が宙に舞う。
キラキラと黄金に光るそれは、一見すれば幻想的な光景であった。
「「え!!??」」
フィーとアリアの声が重なる。それもそのはず。こんな現象は滅多にみられるものではないからだ。
「なるほど……種族特有のコードを解読すれば、あとは同じコードを走らせるだけでいけるのか。これは収穫だな」
「あのぉ……もしかして、あの光がさっきの狼なんですか?」
「ん? あぁ、アリアにはよくわからないか。まぁそうだな。100匹程度なら簡単にできるみたいだ」
「へ、へぇ……簡単にできるんですねぇ……れ、錬金術師怖い……」
何も錬金術師全員がこんな芸当をできるわけではない。むしろ今の所は俺しかできないだろう……と言いたかったが、アリアはもはや聞く耳を持たないようだったのでそのままにしておいた。




