第57話 マリーの家に行こう
「さて、着いたぞ。ここが我が城じゃ!」
やって来たのはマリーの住んでいる家。だが城というにはあまりにも普通すぎる。まぁ比喩的なものなんだろう。
「さて、茶でも用意するかの」
中に入るとそこは思ったよりも広く、中央には四人がけのテーブルと椅子があった。俺たち三人は席について、マリーの持ってくる茶とやらを待つが……やって来たのはなんか……黒い汁だった。
「……黒い?」
「黒いわね」
「黒いな」
3人とも同じ反応。だがマリーは何も気にすることなく、飲むようにすすめてくる。
「さ! 飲んでみるがいい!」
「「「……」」」
俺たちは黙って飲んでみた。すると口の中に芳醇な香りとかすかな甘さが広がる。これは一体……? 今まで飲んで来たものの中で一番美味い気がする。
「ふはははは!! 美味いじゃろ!? それは長年の研究で最近やっと生み出せた至極の一品! 材料は秘密じゃがな! ふははは!」
誇らしくそういうマリーを見て、あぁ……こいつはちょっと変わっているんだなと再認識する。でもなぜか自分を見ているような気もして、複雑な気分だ……。
「よっこらせ。それで、何用じゃ? また迷宮に来いというのか、レイフよ」
「そうだ。今度は第五迷宮だ」
「ふむ。第五迷宮といえば、氷の迷宮じゃの……それで中はどうなんじゃ?」
「入れない」
「……レーヴァテインでもダメじゃと?」
「あぁ。分厚い氷で阻まれている。レーヴァテインでも破壊は不可能だった」
「なるほど……それはきっと錬金術ではないかもしれんの」
俺はその言葉を聞いて第六迷宮でのことを思い出していた。それは錬金術と似ているが、別の技術である魔法。もしかすると、マリーが言及しているのは魔法なのかもしれない。
「……魔法、なのか?」
「ほう。エルは知っているのか、魔法のことを」
「いや詳しくは知らない。でも存在しているのは確認している」
「それはどこで見たんじゃ?」
「第六迷宮最深部。そこにいた古代蜘蛛が魔法を使っていた」
「ふむふむ。して、なぜ魔法と分かった?」
「錬金術の使用には必ず第一質料が必要だ。俺の特異能力は第一質料を感知するもので、錬金術ならば全ての構成が理解できるが……あれは第一質料じゃなかった」
「……第三迷宮と同じか。なるほどのぉ」
第三迷宮と同じ。つまり以前レイフに聞いていた、キマイラも魔法を使ったということなのか?
「第三迷宮にいたキマイラも魔法を使ったのか?」
「ん? あぁ……レイフから聞いておるのか。そうじゃ。我が感知した時もあれは第一質料を使用しておらんかった。恐らくは第零質料を使用した魔法じゃな。いや〜、魔法とは本当に便利で錬金術と異なり完全な意味で錬成陣などもいらん。つまりは構成要素がどこまでもシンプルなんじゃ。あれは羨ましいのぉ……と言っても、失われた技術じゃから我らには再現できんがの」
「……」
俺はあえて第零質料には触れなかった。あの白昼夢の中で出会った男との会話。あれはまだ誰にも伝えていない。あまりにも滑稽な話だから伝えることができないというのが、正確かもしれないが……俺は直感的に避けていた。あれは俺のルーツにつながるものだから。
そして俺が黙って考えていると、フィーのやつがマリーに尋ねるのだった。
「あの、第零質料って何なの? 私は初めて聞くんだけど……」
「普通の錬金術師は知らんじゃろうなぁ。第零質料とは魔法を使うときに使用されるもんじゃ。ま、第一質料の親戚とでも思っておけばいい。錬金術は第一質料を錬成陣を用いて変質させる必要がある。図に書くと、こんな感じかの」
マリーはそう言って持って来たノートにこう書き記した。
第一質料→心的イメージ→魔力→錬成陣→錬成。
「じゃが、魔法はこうなる」
第零質料→魔法。
「え、魔法には心的イメージも魔力もいらないの?」
「いや厳密には違う。第零質料は全てを内包しておる。つまりは第零質料そのものが錬金術における全てのプロセスなのじゃ。じゃから、発生は異常に早い。あのキマイラも尋常ではなかったからのぉ……我の分析力と判断力、それに天才的な技術がなければレイフも死んでおったの」
そう語るマリー。さすがの知識に唖然とする。俺はそこまで錬金術と魔法に決定的な違いを見出せてはいなかった。だがマリーはさも当然かのように語る。彼女の噂というのは予想以上に正しいものだと俺は思った。
「マリーはその知識をどこで?」
「ん? この書物に魔法について色々と書いてあるからの」
そういって持ってきたのは古めかしい本だった。かなり昔からあるものだと推測できる。
「見たことない文字だ……」
「そうじゃろ? といっても我も全部読めるわけではない。微かに現代と同じ文字がある場所があっての。そこからなんとか読んでおるところじゃ」
「これは一体どこで?」
「第三迷宮じゃ。最深部に置いてあったわ」
「……第六迷宮と同じか」
マリーの発言を聞いて俺は思った。もしかしたら、迷宮にはそれぞれ魔法について記した書物があるのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺たちはさらに話を進めるのだった。




