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史上最高の天才錬金術師はそろそろ引退したい  作者: 御子柴奈々
番外編 1 フィーは告らせたい
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第52話 フィーはホテルに行きたい

 

 どうもフィーです。


 今はお昼になって、二人でオシャレなレストランに来ました。ここは王国内でも人気のお店で、なかなか予約が取れません。


「予約した、エルウィード・ウィリスです」

「ウィリス様ですね。こちらにどうぞ」


 んんん??


 予約したエルウィード・ウィリスです?


 そんなバカな。エルが予約を取っていた?

 

 え、ありえない。この男にそんなことができると到底思えない。でも現実として、私たちはレストランにやって来て……そして一番良い席と言われている見晴らしの良い席に案内された。ここからは綺麗に澄んだ海と貿易のために出入りしている船が見られる。ファルベリカ王国は港町として栄えているので、ここの席は本当に貴重である。


 それをエルが抑えているなんて、絶対に何かあるに違いない。


 私は純粋な嬉しさよりも、疑心暗鬼の方が強くなっていた。で、でも……嬉しくないわけじゃないんだからねっ!


 うん、またツンデレをやってしまった……。


 うぅぅう。調子が狂うばかりだよぉ……ふえええぇえ……。



「前菜でございます」


 そしてウェイターの人が前菜を持ってくる。それを見た私がぽかんとしていると、エルがさりげなく説明してくれる。


「魚介系のコースを頼んであるが、フィーは好きだったよな?」

「う、うん。大好きだけど……」


 やって来たのはカルパッチョ。お刺身と野菜を細切りにしたものに、オリーブオイルとビネガーのソースがかかっている。正直、めちゃくちゃ美味しそう。


 パクリと一口。すると、野菜と刺身の旨味に合わせて、オリーブオイルの甘みとビネガーの酸味が組み合わさる。


 う、美味いっ!


 流石は予約の取れないレストラン、伊達ではないようだ……。


 その次はポワレで調理された魚。ポワレで魚を焼くとバリッと仕上がるので食感も楽しめる。私は丁寧に、でもどこか楽しみながらエルと話しながら食事を楽しんだ。


 最後はデザートにパフェが来た。確かに私はパフェが好きだけど、最後だけ妙に俗っぽいものが来たと思っていると、再びエルが説明してくれる。


「フィーはパフェが好きだっただろ? 無理を言って作ってもらった。ちなみに俺はバナナ風味のアイスにしてもらった」

「え……なんか、ありがとう。こんなにしてもらっちゃって……」

「フィーにはずっと世話になっているからな。たまにはこうして労うのも当然だ」


 当然だ……当然だ……当然だ……?


 ちょっと泣けてきた……入学してからとことん悪さをして来たエルが、こんなにも成長しているなんて……きっと、子どもの成長を喜ぶ親とはこんな気分なのだろう。


「嬉しい……ありがとう、エル」

「どういたしまして、フィー」


 私は細くて長いスプーンを使って、パファを食べて行きます。チョコレートソースとストロベリーソースのかかったアイスに生クリーム。それに下にはサクサクのシリアル。


 甘くて美味しいぃぃいい! 


 パクパクと食べていると、いつのまにかもう少ししか残っていない。


 あーあ。もっと食べたかったなぁ……。


 すると、そんな私を見てエルはこっちにスプーンを突き出してくる。


「フィー、あーん」

「え?」

「ほら口開けろ」

「あ、あーん」


 パクリ。エルが食べていたバナナ風味のアイスをもらいました。

 

 美味しいけど……味がしない。だって、これはその……間接キスだから。でも、今まで間接キスは何度かしたことがある。「フィー、これもらうぞ」とか言って、私の飲み物を度々奪ってくるからだ。でも、今はそれとはシチュエーションが違う。


 伝説の『あーん』なのだ。


 恋人にしてほしいランキング第3位の『あーん』。


 まさかこんなところで実現してしまうとは……私はもしかして夢を見ているの? ねぇ……これは夢なの? もし夢だとしたら覚めないでほしい。


「? どうした、フィー。頬をつねって」

「し、幸せを噛み締めてまふ……」

「? それならいいが?」


 頬をつねって幸せを再確認。

 

 夢だけど、夢じゃなかった!


 いやどっちだ。うん。何度も確認するけど、これは夢ではない。現実なのだ!


「さて食べたことだし、映画でも見に行くか」

「うん。エル、ありがとう」


 にこりと微笑んで見ると、エルは私以上に微笑み返してくれる。


「フィー。俺の方こそ、ありがとう」


 その笑顔に脳内の私はノックダウンしてしまうのでした。



 ◇



 映画館はレストランから大通りを通って、向かい側にあります。でも今日は人が多いみたいで、なかなか進めない。


 うううぅぅ……人が多いよぉ……。


「フィー、こっちだ」

「え?」


 するとエルがグイッと強引に私の手を掴んでエスコートしてくれます。そしてそのまま、手を繋いで二人で歩いて……歩いて……?


 左手……手汗やばいかも……。


 そんなことを考えながら、エルに手を引かれて私たちは映画館に到着。チケットを買うと言ってカウンターに行くと、エルはさらにとんでもないことを口にするのでした。


「カップル割りで、お願いします」

「はい。かしこまりました〜」


 カウンターのお姉さんは特に確認もせずに、割引をしてくれました。しかも、今回もエルがお金を出します。というよりも、今日の私……お金出してない……。


「はい、チケット。無くすなよ? ポップコーンとか、飲み物はいるか?」

「えっと……別にいらない。さっき食べたし」

「そうか。なら行こうか」

「……うん」


 私は特に疑問を抱かずに、エルの後についていきます。


 ちなみに今日見る映画のタイトルは『罪と愛』。


 最近、王国で流行している愛憎ものの映画だ。私はライトな作品よりも、ちょっとヘビーな話の方が好きなのでいつか見に来ようと思っていた。一人で……。


 でも、なんとエルとカップルという形で見にくることになった。なってしまったのだ。


 そして上映開始。


「……」

「……」


 もちろん、黙って見ます。


 序盤は軽めだけど、途中から話が重くなっていく。


「私のことが大切じゃないの!!?」

「いや、俺は君を愛している」

「なら、証拠を見せてよ!!」


 と、そんなやりとりをしてから……まさかのベッドシーン。


 え!? かなりえっちじゃない!!? ディープキスとか色々見えてるけど!!? ちらっとエルの方を見ると、真面目にじっと……スクリーンを見つめていました。


 なんか大人の私の方が余裕ないって……恥ずかしい。


 そんなことを思っても、恥ずかしいものは恥ずかしいので顔を赤くしたまま最後まで見るのでした。


「いやー良かったなぁ。映画なんて見るのはほとんどないが、あれは面白かった」

「そ、そうね。私も面白いと思ったわ」


 二人で感想を言い合いながら話して外に出ると、もう夕暮れ。


 あーあ。もう終わりの時間かぁ……。どうせならロマンチックにホテルでディナーでも食べて、それで……同じ部屋に泊まって……それで……。


 ま、そんなことあるわけないか。このまま解散だろう。



「フィー、明日の予定は?」

「え……特にないけど」

「ならホテルでディナーでもどうだ?」

「いいけど……遅くならない?」

「ホテルの部屋は抑えてある。外泊してもいいだろ?」

「うん、いいけど。二部屋も抑えたの? お金大丈夫?」

「いや、一部屋だけだが」

「え?」

「一緒の部屋だが、嫌だったか?」

「いや……全然大丈夫だけど……」


 訳がわからない。私は幻覚でも見ているの?


 ホテル? それに同じ部屋で寝泊まり。

 

 それって……遠回しに誘っているんだよね!? 


 そうだよね!?


 別に女でも性欲はあるし、持て余すこともある。だから期待してもいいよね? 大人の階段、登ってもいいよね? もう年齢は大人なんだけど……。


「じゃあ行こうか」

「うん……」


 そうして私たちはホテルに向かうのでした。


 私、これからどうなっちゃうの!!?

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