第50話 フィーは告らせたい
どうもフィーです。時は入学式後に遡ります。
「……はぁ、良かったぁ。エルもしっかりやってくれたし、本当に……」
エルは本当に心配だ。学生時代に比べればかなりマシになったが、それでも危なっかしい。錬金術は天才的だけど、それ以外は全然ダメ。脳内には農作物のことしかないみたい。
それに、この間あんなことがあっても……動じてないし。
裸も見られたのに……まぁ厳密には見られてないんだけど、あの反応は何なの!!?
人間の究極的な目的は種の保存と繁栄。だから、人と性欲は切っても切れない。恋愛感情もゆくゆくはそこにたどり着く。でも、あの男には性欲なんて微塵も感じられない。
嘘、私って魅力なさすぎ……!?
って、思ってしまうくらいだ。何だか改めて考えると……イライラしてきた。
「よし、決めたっ! エルに告らせる!」
私は決めた。そうだ。エルに何とかして告らせよう。それぐらいできないと、あのアホは振り向かせられないから。
え? 自分から告ればいいじゃんって?
まぁ……それも選択肢だけど、今は私の魅力を伝えてエルから告らせるのがいいと思う。うん。逃げじゃないよ? べ、別に振られた後のことを考えて逃げてるわけではない。
そう決して。決して逃げじゃない。うん……。
私は自分にそんな言い訳をしながら、計画を練って実行することにしたのだった。
◇
「エルっ! おはようっ!」
「ん? 偶然だな、フィー。おはよう」
「え? そうだね、あはは……」
早朝。出勤前にバッタリと扉の前でエルと鉢会う。べ、別に偶然だし? 隣の部屋だからって聞き耳立ててた訳じゃないし?
「一緒に行くか。せっかくだし」
「うんっ!」
作戦その一。さりげないボディタッチ。
私は体にちょっと自信がある。胸もそれなりにある。今日はスーツもタイトなやつにして、体のラインが出るやつにしてある。そして本当にさりげなく、さりげなく腕とか当てて見たりしてみる。
「……うーん、野菜たちの進化のためには……」
はいダメー。気が付いていないー。
この男、集中するとやばい。周りが見えなくなる。特に最近は研究が進んでいるようで、尋常ではないぐらい上の空になる。こうして一緒に登校しているのは下心もあるが、一人にすると危ないからだ。
全く、エルは私がいないと本当に……。
そう考えていると、すでに学院の門を通り過ぎていた。エルは相変わらず、自分の世界。何でも、「歩いている方が思考は活性化される。だから俺は歩くんだ」とか何とか言っているけど……本当に今のエルはやばい。まじで何も見えていない。だからさりげなく進む方向を私が微調整している。本当は手を繋ぎたいけど、生徒の目もあるしね。
「せんせー、おはよー」
「おはよー。フィー先生、エル先生と仲良いね! 付き合ってるの?」
「やっぱそうだよね〜。お似合いだよね〜」
「こら。茶化さないのっ!」
生徒にこう言われるのも、もう何度目か分からない。実はこの手を使って、外堀から埋めようと試みたこともある。だがしかし、当の本人がそんな噂など知らないのだから意味がない。
やっぱり、エルは周りが見えていない。うん……ちょっと泣けてきた。
「せんせーい、おはようございますっ!!」
ダダダダと走ってきて、エルの腕に絡みついてくる女。それはアリスだった。アリスは本当に嫌い。だって、エルに甘えるんだもん。それは私だけの権利だったのに。本当に嫌いっ!
「こら、離れなさい」
「む。フィーってば、嫉妬ですかぁ?」
「今日もエルは遠い世界よ」
「あぁ……そうでしたか」
そして私とアリスが話している間に、いつのまにかエルは消えていた。おそらく転移を使って、研究室に跳んだのだろう。
たく、学院でホイホイと転移を使うなって言ってるのに……これは後で説教ね! 二人きりで、お茶でもしながらねっ!
「はぁ……先生いなくなりましたか。で、フィーは未だにアピール中ですか? もう諦めたら?」
「は? あなたも諦めたら? 同い年だからって調子に乗らないでよね」
「はぁああああ? 十歳も歳が離れているのに、よくそんなことが言えますねぇ。ババアは引っ込んでいてください」
「ば、ババアだと? こんのぉ、小娘が……」
「おほほほ。さすがはおばさん、沸点が低いのね。それでは、ごめんあそばせ……」
そう言ってアリスは去って言った。
昔から私たちは仲が悪い。王族のパーティで初めて会った時は、影のある暗い人間だと思った。まぁ、アリスの生い立ちを考えるとそれも仕方ないけど……あの黒アリスはなかなかに弁が立つし、的確に攻撃してくる。
特に年齢のことを言われれば、どうしようもない。
実際のところ、不利だとは思っている。男性は年下が好きというデータもあるし、実際の結婚している夫婦のデータを見てもそうだ。でもだからって、諦めきれない。それに、エルは私が目をかけて育ててきたんだから、誰にも渡さないっ!!
私はそう誓って、自分の執務室に向かうのでした。
◇
「はぁ……疲れたぁ……」
あれから数時間後。昼休みになった。
今日は朝から授業をして、昼からは事務仕事。去年まではゼミも受け持っていたけど、エルが卒業したので今年はゼミは担当していない。だからどちらかと言えば、今年は暇だ。
というよりも、エルがいた二年間がやばかった。あのアホの途方もない実験のせいで私は事後処理に追われる日々。野菜たちがクーデターを起こした日には、私の首が飛ぶかと思った。
そんなこんなあって、今は割と暇になったのでせっかくだからエルの研究室に向かうことに。
べ、別に二人きりなりたいとかそんな気持ちは……ないかも……。うん……。
「エルー、ご飯食べに行こー」
「……」
「エルー?」
「あぁ……そうだな。何? 二号がいじめる? 全く困ったやつだ。俺の教育方針が良くないのか?」
それは私に返事をしたのではなかった。エルはトウモロコシたちと会話している。あれはおそらく三号だろうが、身振り手振りをしてエルに何か伝えている。
微笑ましいけど、今はご飯に行きたい。それにこのアホ、どうせまた何食も抜いているのだろう。
「エル、エルってば! ご飯食べに行こうよ! どうせ、あんまり食べてないんでしょ!」
「ん? あぁフィーか。そうだな、今は二日ほど食べていない。ちょうどいいな」
「もうっ! 二日も!? 倒れても知らないよっ! 今日の晩はご飯作りに行くから!」
「いいのか? 俺は助かるが」
「いいよ、もう。部屋、隣なんだし。別に……」
勢いで言ってしまったが、どうやらいい方向に転んでしまった。
これで大義名分ができたっ!
そして一緒にお昼ご飯を食べて、一緒に帰りにスーパーによって、エルの家に晩御飯を作りに行きました。
「エルー、キャベツどこー?」
「ん? そこにないか?」
「えーっと、あったあった」
「今日は何を作るんだ」
「豚の味噌汁と、豚の生姜焼きと、山盛りの千切りキャベツ」
「ふ……分かっているな、フィー」
「ま、伊達にもう二年も付き合ってないしね〜」
「じゃあ俺は研究資料を読んでいるから、できたら教えてくれ」
「分かったわ」
そして私はテキパキと料理を作ります。一人暮らしも長いので、料理はお手の物。一時間ぐらいで料理を作り終わって、私はエルを呼びに行くと……相変わらず、超絶集中してる……。
「エル、できたわよ」
「ん? あぁ、助かる」
二人で席について、一緒に食べ始めます。エルに食べてもらうのは初めてじゃないけど、結構緊張する……。
「うんっ!! 美味いなぁ……フィーはマジで料理がうまい……」
「そう? あ、ありがとう」
褒められてしまった。よし、いいぞ! この調子だ、私! でも、これでうまく言ったら苦労しないんだよなぁ……とほほ。
「フィー、明日一緒に買い物に行かないか?」
「え? それって……」
「あぁ。デートだ」
「え……!?」
えええええええええええええええええええええええ!!!!
デート!? この男の脳内にデートという単語が存在していることに驚いたわっ!!
そして私はなぜか明日、エルとデートすることになったのでした。
頑張れ、私っ!!




