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第21話 第六迷宮、突入


「ふわぁああ……」


 朝。時計を見ると、5時過ぎ。妙に早く目が覚めたが、すでにフィーとモニカは起きているようで二人で朝食の準備をしていた。



「おはよう、二人とも」

「おはようエル」

「おはようございます、エルさん」



 挨拶をして、朝食をいただく。昨日の夜も思ったが、美味い。文明レベルでは王国の方が優れているが、それはこっちの一方的な思い込み。優劣などなく、どちらにも良さがあるんだなぁ……と思っていると、モニカが少し恥ずかしそうに話し始める。


「その……私もついて行っていいですか?」

「迷宮にか?」

「……はい」


 俯いてそう言うが、はっきり言って危ない。俺も彼女を守りながら戦うのは厳しい。だがいきなり断るのも、悪いのでとりあずフィーに話を振ってみる。


「なぁ、フィー。どう思う?」

「いいんじゃない?」

「……まじで?」

「だってこの子、白金級プラチナレベルの錬金術使えるし」

「え……まじ?」

「まじまじ。錬成陣なしもいけるわ。なんか、エルの論文を読んで頑張って覚えたんだって。まだ拙いらしいけど。でも今までは、ほとんどモニカ一人で巨大蜘蛛ヒュージスパイダーと戦っていたみたいよ?」

「本当なのか、モニカ?」

「は、はい。まだ拙いですけど、巨大蜘蛛ヒュージスパイダーと戦うことはできます」


 思案する。こんなところで戦力を確保できるとは夢にも思っていなかった。正直、俺とフィーだけでは最下層までたどり着けると思っていなかったので助かるには助かる。まぁいいか。俺とフィーでフォローできるレベルなら構わない。


「よろしく頼む、モニカ」

「任せてください! 精一杯頑張りますね!!」


 そうして俺たちは準備をする。バックパックは重すぎるので、小さなポーチに荷物をまとめる。携帯食料と飲料水、最低限の防具と武器。錬金術があるので武器はいらないが、念には念を入れる。しかも、この武器……見た目はただの剣だが実は秘密があるのだ。ふふふ。



「よし、じゃあ行くか!!」

「「おー!!」」



 そして俺、フィー、モニカの三人で第六迷宮に向かって出発した。



「……天気はいいな」


 今日は晴天だった。もう少しすれば、もっと暖かくなるだろう。その前に迷宮の入り口にたどり着いておきたい。幸いなことに、モニカが迷宮までの道のりを知っているので楽に進める。


 30分くらいだろうか。俺たちはお目当の第六迷宮、別名……蜘蛛くもの迷宮に辿り着いた。入り口は広く、確かに巨大蜘蛛ヒュージスパイダーが通り抜けることができそうだ。


 俺はとりあえず入り口を調べてみることにした。


「何をしているんですか? エルさん」

錬成痕れんせいこんを探っているが、ないな。第三者の介入を疑ってみたが今のところはない。ここはただの迷宮だ。入り口だけみれば」

「……私の目にも錬成痕れんせいこんは見えないわ。さて……入りましょうか……私は真ん中でいいわよね? ね?」

「あぁ。先頭は俺、次がフィー、最後にモニカで行こう。フィー、マッピングは任せたぞ」

「任せて。こう言う空間認識能力はエルにも負けないんだから」


 実はフィーは空間認識能力が抜群で、それもあって今回は抜擢されている。迷宮に入って後戻りできないとかやばいしな。ま、転移を使えばいいが、資料を残すためにもマッピングは必要だ。



 そうして俺たちは入り口にある階段を降りて行く。



「……暗いが、なぜか明かりがついているのが謎だな」

「そうね。でも迷宮は永続的に明かりがついているらしいわよ」

「流石のロストテクノロジーだな」

「本当にすごいですねぇ……」



 階段を降りて行くと、俺たちはたどり着いた。


 第六迷宮、地下一階。


 みる限り、広い空間。そして厄介なのが、ここの段階で道が4つに分かれている。どこかが地下二階への階段があるはずである。まだ巨大蜘蛛ヒュージスパイダーの痕跡はないが、至る所に糸が張り巡らされている。流石は世界七迷宮の中でもトップクラスに攻略が難しいと言われているだけはある。しかしそれは構造的な問題ではなく、巨大蜘蛛ヒュージスパイダーの群れがいると言うことが全ての障害だ。巨大蜘蛛ヒュージスパイダーの糸に捕まれば、並の人間では逃げられない。生きたまま捕食されるのがオチだ。


「こ、こわぁああああああああ!!! 何これ、蜘蛛の糸だらけ!! 怖いわぁ……ねぇ、モニカは大丈夫なの?」

「私は虫とか大丈夫なので。エルフの村で虫を怖がる人はいませんよ? まぁ、巨大蜘蛛ヒュージスパイダーは私もちょっと気持ち悪いですけど」

「ちょっと、ね。ちょっとかぁ……正直、『この世全ての悪』みたいな感じだと思うんだけどなぁ……」


 二人が雑談をしているが、俺はこの糸を燃やしてみる。右手をスッと払って錬金術を発動し、着火させる。すると燃えるには燃えるが、火の広がり方が遅い。


 なるほど、一瞬で無力化はできないと。


 次に出力を上げる。次は普通の炎ではなく、より高温の青い炎だ。魔力消費は大きくなるが、致し方ない。


 すると一瞬で燃えた。なるほど、把握した。


「フィー、モニカ。糸は青い炎なら燃える。温度は1000度以上がいいだろう」

「1000度か。それは効率悪いわね。やっぱ氷を主軸にすべきね」

「そうですね」

「あぁ……さて、さらに奥に行こう。それでどこに行くかだが……」



 左右に二つずつある道。どこが正解なのかは分からない。すると、モニカが右斜め前の道を指差す。


「あそこ……微かに空気の流れがあります。循環していますね」

「分かるのか?」

「はい。エルフならこれぐらいは」

「やはりモニカが来てくれてよかったな」

「いえいえ、お役に立てたのなら幸いですっ!」


 そうして俺たちは先に進む。そして俺はその道の途中で、糸の塊を見つけた。獲物か? でも少し解けているな……捕食の後か。


「……なるほどこれは」

「「ひッ!!」」


 フィーとモニカが声をあげる。無理もない。これは人間の死体だ。隣はエルフの死体。周囲には犬や狼の死体まである。ここで襲われて死んだのだろう。体は残っているもミイラのような状態だ。蜘蛛と同様に体液を吸うようだな、巨大蜘蛛ヒュージスパイダーは。


 俺は手元にあるメモに情報をまとめると、さらに詳しく調べる。


「……二人は周囲の警戒を。俺が遺体を漁る」

「う、うん。ごめんね、エル」

「ごめんなさい、宜しくお願いします」

「適材適所だ」



 俺も死体を漁るのは嫌だが、仕方ない。一番大丈夫そうなのは、俺だからな。そうして周囲にある遺体を全て漁る。遺品のようなものはない。人間とエルフには服もない。あるのは遺体だけだ。


「……おかしいな。なぜ、物品がない? 持っていてもおかしくはないのに……服だけ剥がされているのも謎だ……」

「……そうね。もしかしたら、巨大蜘蛛ヒュージスパイダーには収集癖があるのかも」


 俺とフィーがとりあえず、そう結論づけてさらに奥へと進む。すると、ぴちゃ、ぴちゃ、と音がする。


「……水か?」


 そこから先は広場だった。やっと広場に出て来た。そして俺は見つけた。視線の先に階段があることに。よし、とりあえずは地下二階への道のりは確保だな。と、俺は妙な感覚を感じる。これは……視線だ。


 ばっと上を見る。そしてそこには……見渡す限りの巨大蜘蛛ヒュージスパイダーがいた。目視で見る限り、50体ほどか? 先ほどの音はこいつらの唾液みたいだな。俺たち獲物が入って来たのに反応したようだ。


「……モニカ、フィー。上だ」

「「え??」」


 小声でそう話す。相手はまだ襲いかかって来ない。今は錬金術を構築中だ。もう少し時間を稼ぎたい。



「……う、うわぁ」


 モニカはその程度の反応で済んだが、問題はフィーだった。


「ぎゃ……むぐううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううッ!!!」


 咄嗟にフィーの口を無理やり押さえ込み、声を抑えるがフィーの声量は尋常でなく少し音が漏れてしまう。瞬間、ぼとぼとぼと、と連続した音がする。じっと見ると、「キィィィィイ」と巨大蜘蛛ヒュージスパイダーが鳴いている。


「臨戦態勢ッ!! 二人は俺のカバーをッ!! 一気に決めるッ!!」

「「了解ッ!!!」」


 フィーとモニカに前線を任せて、俺は後方で錬金術を構築。発動するのは、特異錬金術エクストラと呼ばれている大規模錬金術だ。通常は幾重にも錬成陣を重ねて、数時間は構築に時間がかかる。だが錬成陣を介さない俺は特異錬金術エクストラを数秒で発動できる。


「よし、構築完了だッ!! フィー、モニカッ!! 俺の後ろに来いッ!!」

「ひいいいいいぃぃ、追いかけてくるうううううう!!!」


 モニカはしっかりとした足取りで駆けてくるが、フィーは命がけという感じだ。そして二人が俺の後方に来たのを確認すると同時に、特異錬金術エクストラを発動。



「……絶対零度アブソリュートゼロ



 −273 ℃の冷気が巨大蜘蛛ヒュージスパイダーを襲う。温度とは物質の振動で決まる。振動が大きほど高温になり、振動が少ないほど低温になる。高温に上限は理論的にはないが、低温にはある。それは振動しない状態だ。その状態のことを絶対零度という。俺はその状態を錬金術で錬成できるのだ。


 パキパキパキと周囲に広がっていく氷の領域。そしてすべての蜘蛛の脳天を空けるようにして凍らせ、俺はそこに目掛けて氷柱を突き刺していく。「キィィィィィ」という断末魔が聞こえるが、容赦なく殺していく。そして全て殺しきって、俺たちは一息つく。


「ふぅ……終わったな」

「す、すごいですね……これが特異錬金術エクストラですか。錬成陣なしで、しかも数十秒で出来るなんて夢みたいです……」

「私にもこれは無理だわ。さすがエルね。農作物バカだけど、錬金術の技量は本当に碧星級ブルーステラの名に恥じないわ」

「褒めるのはそこまでにして、先に進もう。歩けるだけの道は確保している」


 俺たちは先に見える階段に進もうとするが、再び、ぴちゃ……ぴちゃ……と音がする。


「なぁ……あれって」

「ん?」

「え?」


 じーっと目を凝らして見る。すると俺は気がついた。あれは卵だ。巨大な卵から体液が漏れ出しているのだ。瞬間、洪水と言って遜色のない体液が天井から落ちて来て、俺たちにざばぁと降り注ぐ。俺は咄嗟に自分たちを覆うようにして、氷の壁を錬成して防ぐ。すると、再びぼとぼとぼと……と先ほどとほぼ同じ数の巨大蜘蛛ヒュージスパイダーが現れる。



「もういやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!! 私を帰してええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」



 フィーの叫び声を合図に、俺たちは再び戦い始めた。


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