第104話 Alice in wonderland 18:貴方の弱さ
まぁあれから色々とあって、私は先生のご家族とも仲良くなって合鍵を手に入れるまでに至った。
ふふふ……私にかかればこんなものよ!
と、意気揚々な私だが、今日はそれ以上に嬉しいことがある。
それは先生がついに迷宮から帰ってくるのだ!
と言うことで私はすでに先生の自宅で待機している。そしてしばらくして、その扉が開かれた……っ!
「先生っ! お帰りなさいっ! 迷宮攻略、おめでとうございます!!」
言うべきことは初めから決まっていた。先生は何と、この世界で二人目の迷宮踏破者になったのだ。史上最高の天才錬金術師と謳われているが、その名前に恥じない功績を再び作り上げてしまったのだ。
だから私はもちろん、先生に対して応援の言葉を送る。
私は先生からの言葉を待っていると、急に思い切り抱きしめられた。
「え!!? え!!? どうしたんですか!? 迷宮で頭でも打ちましたか!!?」
「いや……俺は……恵まれていると痛感しているんだ……ありがとう、アリス……」
「いえ……それはいいですけど……まぁ……はい……」
迷宮で何かあったのは間違いなかった。
だが私は土足でそこに踏み込むような真似はしなかった。この時思ったのだ。先生もまた、私たちと同じ人間であり弱いところもあるのだと。
史上最高の天才錬金術師。
その肩書から見れば、彼は天才であり、弱さなどないように思える。でもそんな完璧な人間はいない。人はいつだって、誰かがいないと成り立たない生き物だた。孤独に生きるなんてことは、できない。
そんな当たり前のことを、私は今やっと理解した。
だから何も聞くことはなかった。
「先生、今日もお風呂沸いてますよ」
「あぁ……ありがとう」
先生がお風呂に入った後は、二人でご飯を食べた。その時は本当に他愛の話をした。リタちゃんと仲良くなったこと、プロトたちのお世話で気がついたこと、できるだけ明るい話をしようと努めた。
すると先生は急に覚悟を決めたような顔をして、こう言った。
「なぁ……アリス、聞いてくれるか?」
「何をですか?」
「第六迷宮での大冒険の話だ」
「……はいっ!!」
もちろん私は黙ってその話を聞いた。先生は時折辛そうな顔をしながらその全てを語り切った。それと同時に、私はその場から立ち上がって先生の目の前に立っていた。
「先生」
「アリス……」
「泣いてもいい日もあります」
「……」
「私の胸を貸してあげます」
「すまない……」
先生はギュッと私を抱きしめると、ただ静かに泣いた。嗚咽を漏らし、泣き叫ぶような泣き方ではない。ただただ静かに……泣いていた。
私は知った。
先生も弱い人であると。
でもそれと同時に、もっと愛おしくなった。
私は改めてこの人のことが好きなのだと、自覚するのだった。




