表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/27

File 5 怖いものが多すぎます


「ここどこ!?」



 目を覚ますと、知らない場所に居た。

 薄暗い和室。僅かなぼんぼりの明かりだけが光源の中、きょろきょろと辺りを見回してみるものの何の変哲も無い少々古めかしい和室であることしか分からない。

 不気味なほど静まりかえっている。物音も、自分の声以外何の音も聞こえて来ない。

 勿論のこと、ここに居るのは私ただ一人だった。



「せ、先輩どこ行ったんですかあ……!」



 訳の分からない状況に、思わず滅茶苦茶情けない声が出てしまった。







 □ □ □ □ □







 事の発端は今朝受けた仕事だった。



「妖怪退治……?」

「正確には、妖怪に近付いているらしい悪霊の対処だね」



 課長に呼び出された私とシン先輩は珍しく端末を介さずに仕事の指令を受けていた。どうやら色々と説明が必要な任務のようで、渋る先輩を頑張って引き摺って課長の元へと連れて来た。



「とある山中にある日本屋敷がホラースポットとして密かに知られているようでね。そこへ行った人間が何人も意識不明の状態で発見されているんだ。外傷はなく原因も分からないが、彼らはずっと目覚めていないらしい」

「それが悪霊の仕業なんですか?」

「恐らく。生きているものの仕業なら僕達が手を出すことじゃないんだが、今回は死者こちらがわの案件だと見ている。生者は生者が、死者は死者が対処するべきだからね」

「成程……」



 こういうことも死神の仕事なのか。でもちょっと話を聞いただけで正直断りたい気持ちでいっぱいである。ただでさえホラースポットとか絶対に行きたくないというのに更にその元凶をどうにかしなければいけないのだから。



「あの、それ断ることとか……」

「お前何甘い事を言っている」



 おずおずと断り文句を切り出してみたが、課長よりも先に先輩にばっさり切られた。



「だ、だって絶対怖いとこじゃないですか!」

「今までだって何度かあっただろうが。いい加減慣れろ」

「幽霊の群れに放り込んだり更に余計なトラウマ植え付けておいてよくそんなこと言えますね!?」

「あの程度で一々音を上げていたら死神なんて続けていられるか」

「はいはい二人とも、仲が良いのはよく分かったからこっちの話聞いて」

「大いに心外だ」「誰と誰がが仲がいいって言うんですか!」

「ああもう静かに。……とにかく、被害者や件の屋敷の詳しい情報は警察が持ってるから彼らに聞いて来てくれ。向こうには話は通してあるから」

「……死神って警察に知られてるんですか」

「一部の上層部だけだけどね。シュリちゃんは確か警察に伝手があっただろう、だから今回の仕事を頼もうと思ったんだ」

「ああ……そういう」



 あの時知り合っていなければ、と一瞬考えたがもうそれは仕方が無い。抜擢された理由が自分の所為ならもうどうしようもないと、私はがっくりと肩を落として課長に了解を告げた。


「相手は何人もの人間の意識を引きずり込んでいる。恐らく強い力を持った悪霊だろう。シン、ちゃんとシュリちゃんを守ってくれよ」

「……」



 最後に言われた言葉に、先輩は何も答えずにちらりと私を見下ろしただけだった。え、お願いですから見捨てないで下さいよ……?







 早速人間界へ降りて待ち合わせ場所の警察署の一室へ向かった。取り調べ室のようなそこには以前知り合った警官……ゴンさんと星の人が待っていた。

 私達が部屋に入ると早速気付いて目を瞠った星の人……えーと、確か真島さんに軽く会釈をしてバッチを取り付ける。先輩はそのまま静観するようで、バッチに触れることもなく腕を組んでいる。



「どうも」

「うわあっ!?」



 いきなり表れた私にゴンさんが飛び上がる。そして彼はばっと私を振り返って「シュリちゃん!?」と叫んで大きく目を見開いた。



「こんにちはゴンさ、じゃなくて……幡多さん」

「ああ、別にいいよ。そっちも呼ばれ慣れてるし。なんなら先輩もスター先輩で」

「余計なことは言わんでいい」

「えー、でも先輩、ホシだと犯人みたいじゃないですかー。警察なのに」

「真島以外で呼ぶな。それより、なんで死神がここに」

「連絡が来てると聞いたんですけど……」

「……ああ、いきなりお偉いさんから呼び出されたから何事かと思ったが、そういうことなのか」

「もしかして詳しく聞いてません?」

「ここにある人物が来るから情報を渡せとしか言われていない。……おかげでびっくりするような相手の電話番号が増える羽目になった」



 真島さんが死神が見えることはもう警察の上の人に伝わっているらしい。

 携帯電話をひらりと見せながら、まさか上が死神と繋がりがあったとは……と唸る真島さんはちらりと私の背後にいる先輩を一瞥して「その男もいるのか」と僅かに眉を顰めた。



「……まさか、あの噂は」

「噂?」

「あ、いや何でもない」

「真島先輩何かあるんですかー?」

「だから何でもないと言っているだろう。……それより受け渡す事件の情報だが」



 噂とは何のことかと聞きたかったが、話が本題に入ったのでそのまま聞けずじまいになってしまった。







 □ □ □ □ □







「現在の被害者は男女三人ずつの六人。その全員がこの屋敷の中で倒れたまま発見され、それからずっと意識不明の状態。外傷は一切見られず、意識が戻らない原因も不明。……で、この屋敷はもう三十年以上前から人は住んでなくて、最後に住んでいたのは両親と幼い娘さんの三人家族。だけどその家族は全員死亡している。原因は家の事業に失敗して病気だった娘の手術代が払えなくなって無理心中……かあ」



 真島さん達にもらった資料を再度読み上げて目の前の日本屋敷を見上げる。話に聞いた通り随分と山奥にあり周囲も木々に覆われていたため辿り着くのに時間が掛かってしまった。おかげで今はすぐにでも日が落ちそうな夕暮れである。ホラースポットを訪れるのには最適な……最悪な時間である。



「何か話を聞く限りいかにも曰く付きなんですけど……」



 おまけに屋敷の外観は荒れ果てまくっており、もう見た目から「ここはホラースポットです!」と声高に宣伝しているようにしか思えない。



「何をぼうっと立っている。さっさと入るぞ」

「……はあい」



 急かす先輩に渋々立ち止まっていた足を動かして歩き出す。すたすたと足早に進む先輩に置いていかれては困る。何の明かりもない真っ暗な家の中へ恐る恐る入ると、真っ黒な服が暗闇と同化して既に先輩の姿が見えなくなってしまっていた。



「せ、先輩待って下さ――」



 その瞬間、私は何かに足首を掴まれてそのまま床へと引きずり込まれた。






 □ □ □ □ □







「とにかく、先輩と合流しなくちゃ……」



 そして一人見知らぬ和室で目を覚ました訳である。

 もう既にホラーな状況にびくびくしながら改めて周囲を観察する。室内を僅かに照らすぼんぼりの明かりである程度部屋の中は分かるものの、それ自体がおかしいことなのだ。だってこの屋敷はずっと前から誰も住んでおらず、明かりなど付くはずもなければ室内だって外のようにもっと荒れていなければおかしい。

 もっと言ってしまえば、そもそも死神である私の足を誰かが掴んだこと自体がありえない。



「……誰も、いませんよね?」



 そっと部屋から廊下に出て辺りを窺う。物音がしても怖いが何の物音がしないのもやっぱり怖い。怖いがここに留まっていてもどうにもならないので、私は意を決して部屋から飛び出し、鎌を構えて周囲を警戒しながらぎしぎしと軋む廊下を進んだ。



「怖くない、怖くな――ぎゃあ!」



 自分に言い聞かせるように呟いて歩いていたその時、廊下の曲がり角からころころと何かが転がって来た。びびりながらも何が転がって来たのか足下を見下ろすと、それは赤色の鞠だった。



「そういえばこの家って女の子が居たって……」



 病気の上、無理心中に巻き込まれた女の子が、である。鞠が転がって来たということは、ここに居るという悪霊の正体はその女の子なのか。



「…………よし」



 私はしばらくの葛藤の後、一度息を呑んで慎重に鞠が転がって来た方向へ足を進めた。

 確かに怖いが、私だって死神なのだ。今までだって何とかやって来たし、先輩が居なくても一人でこれくらいできなくてどうする。



「私が一人で解決したら、先輩も驚くかも」



 恐怖心を忘れるように別のことを考える。怖い怖いと怯えていた私が華麗に悪霊の魂を回収したら、きっとあのシン先輩でも驚くだろうしもしかしたら褒めてくれるかもしれない。


 『すごいな新人、見直したぞ』とか言って……。



「……そんな先輩の方が怖いわ」



 自分で考えて自分でつっこみを入れる。あの先輩が褒めてくれるなんてお化けより怖い。

 『何を威張っている、これくらい出来て当然だろう』……うん、こっちだな。いつもの上から目線でそう言うに違いない。


 怖い先輩を思い出していたら何だか少し落ち着いて来た。しっかりを鎌を持ち直して廊下の角を曲がると、目の前にある襖が少しだけ隙間を開けていた。

 この中に居るかもしれない。そう思って緊張しながら襖の隙間から部屋の中を窺う。



「……っひ」



 その瞬間、私は悲鳴を上げそうになって慌てて口を押さえた。

 その部屋は私が居たのと同じような和室。ただ違うのは、畳を埋め尽くさんばかりにみっしりと部屋中に詰め込まれている日本人形達があったことだった。

 それらは、どれもこれもどこかが壊れていた。片腕が取れているもの、足が途中でおかしな方向に曲げられているもの、ざんばらに髪を切られているもの。そしてその欠損した残骸も人形達と同じように部屋の中に散らばっている。


 何なんだこの部屋。思わずよろよろと数歩後ずさりすると、床がぎしぎしと嫌な音を立てた。

 その直後、部屋の中央にあった片目の人形の目がぎょろりと動き、私を見る。



「ひ、ひやあああ先輩助けて!!」



 途端にどたどたと騒がしい音がして部屋の中から人形達が雪崩れ込むように廊下に出てきた。慌てて逃げ出すとそれらは一様に私を追いかけて来て、背後からけたけたと笑う声も聞こえて来た。

 やばいやばいやばい! どうすればいいんだ! 絶対に捕まったら殺される……いやもう死んでるから殺されはしないけど何か取り込まれそう!! 

 

 混乱しながら全速力で走っているとすぐに笑い声は遠くなった。やっぱり足が早いって大切なんだ。先輩は間違っていなかった、今までごめんなさい。


 そろそろ何も聞こえなくなって来た頃、この辺りまでくれば大丈夫だろうかと速度を緩めて角を曲がろうとした。



「うわあっ」

「え」



 しかしその直後、私は誰かにぶつかって思い切り尻餅を付いてしまう。



「お、女の子……?」



 ぶつかったのは高校生くらいの女の子だった。ん? 私とぶつかったということは生身の人間ではない? だけど寿命が見えるから生きている?

 そう思ってよく見てみれば被害者の写真で目にしていた人物だった。課長が意識不明の状態だと言っていたし、恐らく今は魂が体から抜けてここにいるのだろう。

 彼女は私を見ると酷く驚いたように目を見開いて「もしかして私と一緒で迷い込んだ人……?」と窺うような顔をした。



「ま、まあ迷い込んだと言えばそうだけど」

「お願い、助けて! 追いかけられてるの!」

「え」



 と、女の子が走って来た方からダンダンと大きな音が聞こえて来た。途端に私の後ろに隠れて服を強い力で掴んだ女の子は「もうやだよう……」涙声で呟いている。



「……大丈夫、私が守ってあげるから」



 その姿が不意に妹とダブって、私は気付いたらそう言っていた。この子はただの人間なのだ。死神である私が守らないと。

 どんどん音は近付いて来て大きくなるが、私は勇気を出して悪霊に立ち向かうために鎌を強く握りしめた。

 曲がった先にそれはいる。あと三秒、二秒、一秒――。



「くらえっ!」



 悪霊が来るタイミングを見計らって不意を打つように鎌を振り下ろす。タイミングは完璧だった。しかしだというのに現れたそれはいとも容易く私の鎌を受け流した。

 女の子の悲鳴が響いた刹那、私の首に何かが突きつけられる。それはまるで虫取り網に似た……よく使い込まれた、鎌だった。



「新人、こんなところにいたのか」

「……先輩かよ!!」



 思わず突っ込みが飛び出す。滅茶苦茶ドキドキしたというのに、現れたのは相変わらず暗闇に溶け込む先輩だった。私の覚悟を返せ……。

 力が抜けてへたり込むと、そんな私を見下ろすようにして頭上から冷たい声が降って来る。



「勝手にどこかに行ったかと思えば何をしている」

「最初に置いていったのは先輩じゃないですか! それに急に何かに引きずり込まれて……っていうかここあの屋敷なんですか? 外から見た時より広いし綺麗だし」

「ここは異界だ。例の悪霊が屋敷に来た人間の魂を閉じ込めるために作った空間だろう」

「異界、ですか。戻れるんですか?」

「原因を断てばいいだけのこと」


「……あの、お姉さん。この人、悪い妖怪とかじゃないんですか」

「ぶっ」



 背中に隠れていた女の子が恐る恐る先輩を見上げて言った言葉に思わず噴き出す。それと同時に先輩の眉間に皺が寄って余計に凶悪な顔になってしまった。



「障子を吹き飛ばして出てきたかと思ったら急に追いかけて来て、ホントに怖くて……」

「ああうん、それは逃げるね。間違ってない……ったあ!」



 真顔で頷くと無言で頭を叩かれた。課長には早急にパワハラを訴える場所を作って欲しい。



「先輩、なんでこの子のこと追いかけたんですか」

「被害者を見つけたから話を聞こうとしただけだ」

「だったらもう少し愛想良くして下さいよ」



 というかこの子よく先輩から逃げられたな、と呟くと先輩が道中を破壊しながら来たからなと頷く。この空間を維持する力を少しでも削ぐためとのことで、ちゃんと理由があって障子も吹き飛ばしたのだという。



「えーと、この人は私の先輩で……私達はあなたたちを助ける為にここに来た死神です」

「死神……? 死神が助けるんですか? 殺しに来たんじゃなくて?」

「死神はそんなことしないからね!? 悪霊の魂を回収しに来たの!」



 死神ってやっぱ悪いイメージがあるんだろうな、と落ち込みながら色々と説明をする。私達の事情を話した後に女の子の名前を確認すると、やはり被害者の名前と一致した。



「私、罰ゲームで友達に無理やり連れて来られて……一人で屋敷に入らされて、気付いたらここに居たんです。それで外に出ようとしたら沢山の人形に捕まって、十歳くらいの女の子の所へ連れていかれました」

「十歳の女の子……」

「この家に住んでいた娘だろう」

「そこには他の人もいたんですけど、皆人形みたいに動かないし喋らなくて……このままだと私もそうなるんだと思って必死にそこから逃げたんです。それで逃げてる途中でこの人が出てきて」

「追い詰められてる時に先輩に会うなんて不憫な……」

「また叩かれたいのか」

「すみません」



 おもむろに持ち上がった鎌に即座に謝る。鎌は止めて下さい、絶対に痛い。



「ともかく、さっさと元凶を見つけ……何か来たな」



 再び、どこかで大きな音が響いた。今回は勿論先輩じゃない。

 先輩の鋭い目が後方へ向けられ、私も女の子を庇うようにして鎌を構えた。先ほどとは違いここには先輩がいる。それだけで恐怖心があっという間に消えていくような気がした。



「おねえちゃん、みーつけた!」



 そう言って私達の前に現れたのは、日本人形だった。

 私と背中にいる女の子が同時に悲鳴を飲み込む。現れたのはただの人形ではなかったのだ。

 私達よりも、下手したら先輩よりも大きく、そして着物から出ている手足はいくつもの小さな人形の手足が継ぎ接ぎのように折り重なって作られ、不気味な挙動をしている。更にその体に乗っかっている人形特有の大きな頭は長い髪を振り乱し、左右の目がぎょろぎょろとそれぞれ別々に蠢いていた。

 そしてその目が、同時に女の子を捉えた。



「おにごっこはおしまい。おねえちゃん、つかまえた」

「い、いやああああ!!」



 いくつもの小さな手で構成された大きな手が私の背後にいる女の子に伸びる。守らなければと頭では分かっているのに体の震えが止まらない。


 現実ではありえない異形がすぐ目の前に迫っている。怖い、怖い怖い怖いこわ――



「もうぜったいににがさな――」



 その瞬間、先輩の鎌が人形の首を刎ねた。

 まるで本物の“鎌”に刈り取られたかのように、首が綺麗に胴体と切り離される。



「逃がさない、それはこちらの台詞だ」



 大きな首がごとりと落ちてごろごろと転がる。それが足に当たった瞬間、私は我に返って悲鳴を上げた。髪の毛が足に絡まるのにパニックになっていると、その間に先輩は無表情のまま、何の躊躇いも容赦もなく人形の胴体を完膚なきまでに破壊していた。

 背中の女の子がその様子を見て再び小さく悲鳴を上げて抱きついて来る。……うん、人形をここまで無慈悲に叩き壊す様は見ていて非常に怖い。


 更に転がって来ていた頭に目を向けるとそちらもまるでスイカ割りでもするかのごとく鎌で真っ二つにしてしまう。その瞬間人形の頭から逃げるように小さな女の子の霊が飛び出してきた。



「いやああああ、たすけておかあさーん!」

「逃がさんと言っている」



 先輩から泣きながら必死に逃げようとする女の子。それを容赦なく捕まえようとする先輩。どっちが悪いか分からない状況に思わず乾いた笑いが漏れた。







 □ □ □ □ □






 結局、女の子の霊は無事に……うん、無事に捕まり、異界から元の世界へ戻った私達は仕事を終えた。

 女の子は予想通りあの家に住んでいた娘で、病気がちでずっと家の中に閉じ込められた生涯を送っていた為友達が欲しくてたまらなかったのだという。それで幽霊になった後は家を訪れた人間を次々と異界へ引きずり込み、“おともだち”にしていたとのこと。


 まだ十歳の子供だ。悪気はなかったと思うのだが被害者の数も多いので一度地獄へ送られるらしい。

 ちなみにあの人形達もずっと家で療養している娘への両親からのプレゼントだったらしいのだが……あれだけ日本人形ばかりプレゼントする両親もどうかと思う。



「何だ」

「いえ、何でも……」



 前を歩く先輩をじっと見上げていると、その視線に気付いたのか訝しげに私を見下ろしてくる。首を振ると興味を失ったようにさっさと足を進める先輩の背中を見ながら、私は聞こえないように溜息を吐いた。

 今回は非常に心臓に悪いことが多かった。舞台からしてホラースポットだったし、いきなり一人になるし、沢山の人形に追いかけられるわ、不気味な巨大人形に遭遇するわ。

 ……だが、しかし。そんな恐怖体験よりも何より。



「やっぱ先輩が一番怖いわ」











「聞こえてるからな」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ