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File 2 幽霊の死因を探ります


「浮遊霊を発見。捕まえろ」

「了解です!」



 先輩と地上をパトロール中、ふわりと町中を漂っていた二十代くらいに見える男性の幽霊を見つけた。本日三人目だ。先輩が非常に目ざと……目がいいので結構な頻度で発見できている。

 鎌を出して背を向けている男の人に近付く。しかしあと一メートルというところで不意に男が振り返り、私を見てぽかんと口を開けた。



「……何だこの子」

「死神です」

「死神ぃ? ……って」



 さっさと魂を回収しようとしたのだが、男はまじまじと私の姿を凝視した後……突然ぱああ、表情を明るくして私に抱きついて来た。



「ひいっ、な、なに」

「俺が見えてるんだよな! それに会話も出来てる!」

「は、離して下さいい!」

「誰にも見えないし聞こえないしずっと心細かったんだよー!」

「そ、そうなんですか。分かりましたから離してくださ」

「早く捕まえろ」



 一向に抱きついて、というか子供のようにしがみついて離れない男に困っていると、その瞬間私の鼻の数ミリ先をぶん、とものすごい勢いで先輩の鎌が通過した。



「ひえ、先輩何するんですか!」

「あっぶねえな何するんだよ!」



 私と男の声が被った。先輩のあの速度の鎌を咄嗟に避けたらしい男はようやく私から離れてくれた。しかし先輩に警戒しているのか近付こうとするとじりじりと後退していく。



「っていうか死神って何なんだよ!?」

「あなたの魂を回収しに来たんですよ。大人しく捕まって下さい」

「回収? ……嫌だ!」

「え」

「俺にはまだやることがあるんだ!」

「死んだやつは皆そう言う」

「……一応聞きますけど、やることって?」


「俺を殺した犯人が知りたいんだよ!」









 気がついた時には体が半透明になっており、自分が死んでいることに気が付いた。その時にはもう自分の記憶にある日付よりも一ヶ月以上過ぎており、葬式はとっくに終わってしまっていた。

 しかしいつどうやって死んだのか、誰に殺されたのか何も覚えていなかった。他の人間に聞こうとしても声を掛けても気付いてもらえず、他に自分と同じような幽霊もいなくて一週間ほどずっと孤独だったのだ。



「だから俺がどうして死んだのか知りたいんだよ! このままじゃ納得できねえ!」

「別に納得する必要はない」



 真剣に話す男の言葉を全てばっさりと切り捨てた先輩が再び鎌を振るう。「うおお!?」と驚いた声を上げながら再び神回避した彼は、すぐに私を盾にするように背に隠れた。やめて。

 しかし、なんか段々この人が可哀想になってきた。私は死因がはっきりしているからいいが――いや別に何もよくないけど――確かにどうして死んだのか分からないままだと気持ち悪いだろう。



「……あのー先輩、ちょっとぐらい調べてあげてもいいんじゃないですか」

「時間の無駄だ」



 一瞬も考えることなく断られた。



「同じようなケースがどれだけあると思っている。浮遊霊を見つける度に一々我が儘を聞いていたらキリがない」

「それはそうですけど……」

「お願いだ! 別に恨みを晴らそうとかじゃない、状況が知れたらすぐに成仏でもなんでもするから!」

「……先輩」



 私の後ろに隠れながらも必死に声を上げる男に釣られて私も先輩を見る。それにじろりと鋭い視線で返されて一度たじろいだものの負けじと目を逸らさないでいると、数秒後に先輩が大きくため息を吐いた。



「……一日だ。今日中に分からなかったらすぐに捕まえる」

「ありがとうございます!」

「お前が言い出したことだ。俺は手伝わんからな」

「ええー、この怖い兄さんけちだな」

「ちょっと黙っててくれますか!?」







 □ □ □ □ □







「あ、今更だけど俺、羽鳥朔真はとりさくまって言うんだ。よろしくな」



 男――羽鳥さんは友好的な笑顔を浮かべながらそう名乗った。体が透けていなければ死んでいるとは思えないほど普通の人だ。今日先に見つけた二人の浮遊霊がホントに幽霊らしくじめじめしていたので少し安心した。



「私はシュリと言います。羽鳥さんそれで、何か心当たりとかってないんですか? 覚えてることとか」

「うーん……これと言って。いつものように寝たはずなんだけどそっから何も覚えてないんだよなあ」

「誰かに恨まれていたりとかは?」

「殺されるほど恨まれるなんて……あ、そうだあいつ!」

「?」

「俺の可愛い彼女にやたらとちょっかい掛けて来たやつがいたんだよ! きっと由美を奪うために俺を殺したんだ! だって由美はあんなにも可愛くて女の子らしくて……」

「はあ……」



 怒っていたかと思えばすぐに惚気始めた。惚気が続くごとに私のやる気が削がれて行くのは正直仕方が無いことだと思う。就活が始まる前にあっさりと彼氏に振られた私の傷口に塩を塗られている気分である。



「……じゃあその男の人の所に行けばいいんじゃないですか」

「でもそいつどこの誰だか分かんねえんだよな。あ、でもきっと俺が死んだんだから今がチャンスって由美に近付いてるかもしれない!」

「じゃあさっさと彼女さんの所に行きましょうね」



 若干投げやりになりながらそう言っていると、近くに居た先輩にそれ見たことかというような顔で見られた。


 まあ何はともあれ私達はその由美という彼女の元へ行くことになった。そしてよく彼女が通っていたというショップの前まで行き、無事にその姿を見つけることが出来たのだが……。






「……」

「……嘘だ!」



 派手な格好をしているいかにも今時な女性。その由美さんとやらは他の男の腕に手を絡ませて、まるでこちらに見せつけるかのようにべたべたべたべたとイチャついていた。



「こ、こいつ俺が居なくなった途端に由美に手出しやがって……! ぜってえ俺を殺したのこいつだ!!」

「お、落ち着いて下さい羽鳥さん」



 やばい、何かどろどろした負のオーラ出し始めてる。これ下手したらこのまま悪霊だか怨霊だかになっちゃうんじゃ……。面倒くさそうにしながらも着いてきてくれた先輩が視界の端で鎌を構えているのが見えた。



「とりあえず聞いてみないと分からないじゃないですか」

「でもどうやって聞くって言うんだよ。話し掛けたって聞こえないだろうし……」

「それは……あ、そうだ」



 一つ、いい方法がある。

 私は少し考えてから、ポケットに入れていたあるものを取り出した。



「何だそのバッチ?」

「これを付けると、死神は人間に見えるようになるんです」



 取り出したのは研修時に課長から支給されていた黒く光る四角いプレートのバッチだった。私達死神がこれを付けると数分間の間だけだが普通の人間にも姿が見えるようになり、触れられるようになる。主に死者の調査のために使ったり、また死期ではない人間が死にそうになっているのを助けたりする時に使うものだ。

 しかしこれはあまり頻繁に使っていいものではなく、そして制約もある。



「新人、それを使うんなら守るべきことは分かっているな?」

「はい。生きている人間に危害を加えないことと、生前の知り合いの前に姿を見せないこと、ですよね」



 死神が絶対に守らなくてはならない約束事だ。研修時に何度も何度も耳にたこが出来るほど言われていたことなので流石に分かる。すらすらと答えてみせると、先輩は満足げに――と言っても表情は変わらないのだが――頷いた。


 早速鎌をしまった私は建物の影でこっそりとバッチを付ける。使うのは初めてなので少しドキドキしながら通りに出ると、その瞬間近くを通ったサラリーマンに肩をぶつけられた。



「すごい、本当に生きてるみたい」



 じろっと睨み付けられたがまったく気にせずに人との接触に感動してしまう。しかしすぐに本題を思い出した私は、由美さん達がどこかへ行く前に急いで彼女達の元へと近寄った。



「あのーすみません、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「はあ? うちらに言ってるの?」

「そうですそうです。あの、羽鳥朔真さんという男性をご存じですよね?」

「……え、誰それ?」

「は?」

「嘘だろ由美!? もしやその男に洗脳されて俺のこと忘れさせられたんじゃ……!」

「あ、ちょっと待て由美。俺何か知ってるような……そうだ、ちょっと前にしつこくお前にちょっかい掛けてたやつじゃん」

「あー、そういえばいたかも」

「……ええ?」

「確か一度遊んだくらいで彼氏面してきて鬱陶しかったんだよねえ」



 何か聞いていた話と大幅に違う。というか真逆だ。



「……その方が亡くなったんですが、死因とかご存じですか?」

「え、死んだの? ……ふうん」

「ストーカーにならなくてよかったな。ところであんた何なんだ?」

「え……ほ、保険調査員をしております」

「ああ成程」



 咄嗟に妙な嘘を吐いてしまった。まあ調査員なら死因ぐらい知ってると思うけど疑われなくて助かった。

 というかこの二人も人が死んだって言ってるのにホントに関心無いな。まあでも他人のことなんてそんなものなのかもしれない。……私の周りの人はどんな感じなんだろうと知りたいような知りたくないような。

 


「とにかく、そいつのことはちっとも知らないから」



 それだけ言うと、私が止める間もなく二人はさっさと歩き出してしまった。取り残された私は恐る恐る隣を振り返り……呆然とした表情を浮かべる羽鳥さんに何と声を掛けていいのか迷った。



「……」

「え、っと……あの、ご愁傷様ですけど……他に心当たりは――」

「うわああああん!」

「ひやっ」

「嘘だあ!! だってあんなに由美のやつ俺に優しかったんだぞ! これは何かの間違いに決まってる!」



 思い切り泣き出したかと思ったらまたいきなり抱きついて来たこの人!

 


「落ち着いて下さい! っていうかそもそも彼女だったことすら思い込みだったじゃないですか! 何ですか遊んだのたった一回って!」

「由美……由美ぃ……!」

「人の話聞けよ! っていうか離れて下さい!」


「おいそこの女。何を一人で叫んでいるんだ」



 その時、突然私の視界にぬっと二人の男が割り込んできた。



「え」

「警察だ。少し話を聞かせてもらおうか」

 


 二十代前半と三十代半ばに見える二人の男。彼らが目の前に突きつけて来た二つの警察手帳を見て、私は我に返って周囲を視線を配らせた。

 何人かの人が立ち止まり遠巻きに私を見ている。その目は明らかに不審者を見るもので、そこまで理解した時私はようやく自分の今の状況を思い出した。

 バッチを付けているため、今の私は普通の人間に姿が見える。しかし幽霊である羽鳥さんは誰にも見えない。

 ……つまり私は何もない場所に向かって大声でしゃべり、パントマイムのように何かをふりほどこうとしていた所を大勢に見られ、更に警察に職質される羽目になっているということだ。

 もう血が通っていない体からさっと血の気が引いたような気がした。



「い、いや私何も」

「うわああああん!」

「ちょっと黙ってて下さい! ……あ」



 依然として泣き続ける羽鳥さんにまたつい話し掛けてしまうと、余計に怪しまれたらしく二人の男の表情が更に厳しいものになる。覚醒剤とかやってると思われてたらどうしよう。



「いいからちょっと来い。すぐ近くに所轄がある」

「だから――」



 腕を掴まれてそのまま引っ張られる。しかしそれに抵抗しようとしたその時、ひそひそと私を窺う人混みの中を横切ったある人物を見つけて思わず息を呑んだ。


 香織。私の三つ年下の妹だ。彼女は私には気付いていないらしくそのまま通り過ぎようとしているが、この騒ぎでいつこちらを見られるか分からない。

 生前の知り合いに姿を見られてはいけない。しかしこのままだと非常にまずい。

 どうしよう、このまま妹に見つかったら……!



「馬鹿かお前は」



 内心パニックになっていた私を落ち着かせたのは、最近ずっと耳にしている冷静な罵倒の声だった。



「あ」

「人間界で騒ぎを起こすな」



 いつの間にか傍へ来ていた先輩が一瞬にして私のバッチをむしり取った。その瞬間私は実体を失い、掴まれていた手もすり抜けて自由になる。

 そうかバッチを外せばよかったのだ。突然消えたら怪しまれるが、妹に見つかるよりはましである。混乱していてちっとも思いつかなかった。



「先輩すみません……」



 仏頂面の先輩に頭を下げる。そして私がそんなことをしている間に、警察の二人組はというと非常に困惑したような表情を浮かべていた。



「あ、あれ今の人消えた……?」

「消えた? お前何を言っている。それよりそっちの男、なんだその格好は。お前もこの女の知り合いか」

「……え?」



 二人とも困惑している。しているが、その理由は違っていた。若い男の方はきょろきょろと私を探すように周囲を見回しているが、しかしもう一人の男は不審そうに眉を潜めて私の隣に立つ先輩をしっかりと見ていたのだ。







 □ □ □ □ □







 死神は本来人間には見えない。死ぬ寸前になると魂があの世に近付くことで見えるようになる人もいるが、基本的には見えない。

 ただ、ほんの一握りだが普通に生きている時でも死神が見える――死神と波長が合う人間がいる。



「……と、いう訳なんです」

「……」



 その稀少な人間、三十代くらいの警察官の男に自分達の事情を話し終えると、彼は難しい顔をして腕を組んだ。対照的に隣にいる若い警官は「ほえー」と気の抜けるような声を上げて納得したようなしていないような微妙な表情をしていた。


 生きている人間に事情を話すことは課長に連絡して許可をもらっている。見える人間で更に警官ならばまた他の魂を回収する際に出会う可能性もあり、今後同じような風に仕事を妨害されても困るとのことだった。「まあ信じない時はそれはそれで」と言われたがこれはどうなのだろうか……。



「……死神ねえ」

「信じてもらえません?」

「いや。実際触ろうとしても通り抜けるし幡多はたにそっちの変な男が見えてねえのは確かみてえだから、ただの人間じゃねえのは理解したが……」

「俺はバッチで消えたり見えたりするから流石に信じましたよー。ところで真島まじま先輩、ホントにもう一人いるんですかー?」

「ああ。これぞいかにも死神って感じの真っ黒な男がな」

「へー、この辺ですかね」

「あ、ちょ」



 若い方の警察官――幡多と呼ばれた彼がシン先輩のいる場所を……というか先輩の顔面をすり抜けるようにぶんぶんと腕を振る。いくら見えてないからってあああああ! ただでさえ低い先輩の機嫌が急降下しているのが嫌でも分かる。これ後から私が理不尽に怒られるやつだ……。



「……あ、今更ですけど私シュリと申します。こっちはシン先輩です」

「真島、見ての通り警官だ。こっちは部下の幡多」

「あれー? ちゃんとフルネームで自己紹介しましょうよ先輩」

「……お前はいいのか」

「俺はそこまで気にしてないんで。シュリちゃん、俺は幡多権蔵っていいます。よろしく」

「ごんぞう……」



 へらっと笑ったちょっとチャラそうな部下さんとは正反対の古めかしく堅苦しい名前だ。そんな幡多さんは何かを期待するように真島さんを振り返ると、「ほら先輩」と楽しげに彼に言葉を促した。



「……」



 真島さんが大きくため息を吐く。そしておもむろに先ほど見せてくれた警察手帳を再度取り出すと、それを開いて私に見せてくれた。そこに書かれていた名前は“真島星”となっている。



「ほしさん?」

「……すたあ」

「え?」

「星って書いてすたあって読むんですよ先輩の名前!」

「お前は黙ってろ!!」



 何度聞いても面白い、と今にも噴き出しそうになっている幡多さんに真島さんが真っ赤になりながら怒鳴る。真島さんの両親は随分時代を先取りした人だったらしい。人の名前に笑ったらいけないとは思うのだが真島さんのいかつい顔と名前がちっとも噛み合わなくて幡多さんに釣られそうになる。



「俺を無視しないでくれよおおっ!!」

「あ」



 と、そんな時不意に隣から聞こえた嘆きの声に今まで羽鳥さんのことをすっかり忘れていたことを思い出した。いやさっきからずっと泣いていたのだが色んなことに気を取られていて完全に意識から外してしまっていたのだ。



「シュリちゃんどうしたの」

「えっと……今ここに幽霊の男の人がいるんですけど、真島さん見えます?」

「いや……」

「幽霊は見えないんですね。……とにかく、ここにいる羽鳥朔真さんという方なんですけど、自分がなんで死んだのか分かっていないらしくて成仏してくれないんです。何か知りませんか?」

「羽鳥朔真? ……ああ、そいつだったら少し前に担当したから覚えている」

「ホントですか! じゃあなんで死んだのかも」

「知っているな」



 よかった。これで羽鳥さんも納得できるだろう。泣き止んで真剣な顔で真島さんに詰め寄った羽鳥さんは期待と不安に揺れながら次の言葉を待っている。



「羽鳥朔真は――」







 □ □ □ □ □







 羽鳥さんはその日、ごく普通に会社に行き仕事をして夜に帰宅した。普通に夕飯を食べて風呂に入り、普通に布団に入って眠りについた。

 そして就寝後、寝相の悪かった羽鳥さんは寝返りを打ってタンスに思い切りぶつかった。それでもちっとも起きなかった彼の頭に、ちょうどタンスの上に置いてあった花瓶がぶつかった衝撃で落ち、彼の頭に直撃したのだ。

 ……つまり、彼は誰かに殺されたのではなく事故死だったのである。


 なんでタンスの上に花瓶を置いたのかと尋ねると彼は「風水的にそこが良いって言われて」と答えた。……なんだろう、解決したのはいいがものすごい脱力してしまった。



「でもありがとう、おかげですっきりした。誰かに殺したいほど恨まれてたらって思うと怖くて堪らなかったんだ。まあ由美のことはあれだけど……俺、来世こそは可愛い女の子とちゃんと付き合うから!」



 しかしなんだかんだ羽鳥さんは最後にそう言って笑顔で魂を回収されていった。だからまあ結果的によかったんだな、と私は一人納得して今日も死神の仕事をするために先輩の元へと向かっているところである。








「あれ、君あの時の!」

「ん……?」



 ところがその時、妙に聞き覚えのある声に呼び止められて私は背後を振り返った。



「羽鳥さん!?」

「シュリちゃんだっけ、この前はありがとな」



 そこに居たのは私と同じく驚いた顔をした羽鳥さんだった。どうしてここにいるのか尋ねると、彼もまたここへ回収された後死神に勧誘されたのだと言う。



「今は研修のために他の死神候補の魂が集まるのを待ってるんだ。あ、そういえば俺もう羽鳥じゃないんだよ」

「そういえばそうですよね、サクマさん?」

「いや、サクマは同じ名前がいたらしくってさ……クマになった」

「くま」

「くっそー、なんでサクじゃないんだよ! あの課長ってやつめ!」



 彼は羽鳥さん改めクマさんとなったらしい。……課長、サクって人も居たんですよね? そうですよね?



「……まあともかく、俺も死神になってシュリちゃんみたいに色んな魂を助けられるように頑張るな!」

「クマさん……」

「それとせっかく長い時間死神やるんだからついでにここで彼女も作ろうと思って。いい子がいたら教えてくれよな!」



 ちょっと嬉しくなったのに相変わらずだこの人。あの勘違いっぷりを見ると知り合いは正直紹介したくない。

 しかし何を思ったのか、彼は「あ」と何か思いついたかのように声を上げると、突如私の両手を握りしめる。



「シュリちゃん、これも何かの縁だし俺と付き合わな」

「遅いぞ新人、さっさと仕事をしろ」



 その瞬間、彼は何かの残像と共に遠くに吹き飛ばされて行ったのだった。



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