変身する眼鏡
皆様こんにちは。北條ミチルでございます。現在はむっちゃんに連行されて行きつけの喫茶店なう。本日はバイトが無いのでこのまま帰宅予定です。何度か脱走を試みたけどだめだったよ。
「ミチル、洗いざらい話しなさい」
渋々話したところ、むっちゃんが重たいため息を吐いた。
「ミチル、確認するわよ」
「うん?」
「いいから」
「うん」
「朝、マオマオが迎えに来て朝食を食べるから一緒に登校」
「うん」
「昼、ミチルの手作り弁当で一緒にランチ」
「まあ、うん」
「夕、バイト先にマオマオが送り、一緒に夕食。そして、家までマオマオが送る」
「うん」
「最初から付き合ってるようなモンだったんじゃないの?」
サイショカラツキアッテイルヨウナモンダッタンジャナイノ?それは何?呪文??
「休みは買い出しにマオマオがついてきてたんでしょ?」
「まあ、うん」
食材は休日に買いだめしていると知った鈴木が、荷物持ちとして来てくれるのだ。自分も食べるからと、鈴木は大変協力的だ。
「ただ買い出しなの?映画観たりとかは?」
「あ、こないだ一緒に映画観たよ」
たまたま観たかった刑事ドラマの映画がやっていたので、鈴木が映画に付き合ってくれた。
「買い出し以外はないの?」
「たまにクレープ食べたりとか、お茶したりとか、服とか雑貨を一緒に見たりしてる」
ただ買い出し、というのも味気ないから最近はよく寄り道をしていた。鈴木は嫌がらずに付き合ってくれるので、とても楽しい。鈴木からしても、人間の娯楽やお店が楽しいらしい。今度カラオケに行く予定だ。
「それは、デートではありませんの?」
な ん だ と?
デート………それはリア充にのみ許されたイベント。
デート………それは禁断の甘い果実。
デート…………だったの??
「そう、なのかなぁ………」
「そうですわ」
「そうでしょ」
「そうだな」
蓮ちゃん、むっちゃん、陽菜ちんが肯定した。あれはデートだったのか。知らなかった。
「というか、私と晃太より恋人らしいぞ。私は晃太と出かける場合は狩りだからな」
家計を助けるべく、せっせと狩りに勤しむ二人が容易に想像できた。ワイルドだぜえ。穂積の手作り弁当付きなので、ピクニックと言えなくもないかもしれない。
「ま、まあ、陽菜はともかく!そもそもミチルとマオマオが付き合ってなかった事の方が不自然だったのよ。ミチルはマオマオと付き合いたくないわけ?」
「………釣り合わない、から」
あれ?何故むっちゃんはニヤニヤしているんだい?蓮ちゃん……は穏やかに笑っている。陽菜ちんもなんかこう……微笑ましいと言いたげな表情だ。
「釣り合うようになりたいって事ね!アタシに任せなさい!プロデュースしてあげるわ!」
「は?」
「微力ながら、お手伝いしますわ」
「うむ」
「嫌だ!フリフリは嫌だああああ!!」
むっちゃんはセンスがいい。しかし、私とは方向性が違うのだ。むっちゃんの好みはゴスロリ。ナチュラル系を好む私とは相容れない。
いや、それよりも………私は鈴木と釣り合うようになりたかった?ああ………そうなのかもしれない。私は自分に自信がなくて、向き合わないようにしていたのだ。鈴木の意思すらも無視して。なんて奴だ。
「嫌あねえ。アンタに似合わないのはわかってるから、ちゃんと選んであげるわよ」
そんなわけで、女子達によるショッピングが開始された。自己嫌悪したものの、やはり鈴木に向き合うべき、と判断したので頑張ってみることにした。先ずは見た目だけでもどうにかしたい。
「はあ!?色つきリップしか持ってない!?」
口紅なんてつける機会がないのだよ。今でしょ!と叱られる。色がたくさんありすぎてわからんと言ったら選んでくれた。むっちゃんは口うるさいが親切だ。
「はあ!?マスカラはともかく、ビューラーもないですって!?」
前世でビューラーは使用経験があるのだが、肉を挟んじゃったりまつ毛が抜けるので使いたくなかった。しかし、むっちゃんに片側だけまつ毛をやってもらったら、差は歴然。マスカラとビューラー、すげえ!
「はあ!?スキンケアしてないですって!?若いからって手抜きはダメよ!」
「は、はい……」
化粧品を一式買い、使い方もみっちり指導された。
「ミチル、はみ出しちゃダメ!」
「はい、先生!」
「ミチル、面倒だからって適当に塗らない!」
「はい、先生!」
さらにむっちゃん先生は服まで選んでくれた。絶対に自分では選ばないタイプの服は落ち着かなかったが、陽菜ちんと蓮ちゃんが大げさなぐらいに誉めてくれたし気に入った。
「ミチル……まだまだ修行の余地はあるけど、とりあえず及第点よ。頑張りなさい!!」
「はい、先生!」
帰宅してからリア充が使いそうなメイクセットと服を眺めて、私は誓った。
「お洒落眼鏡に、私はなる!!」
ママン、ミチルは頑張って地味眼鏡からお洒落眼鏡になります!
追伸・リア充はお金がかかるということがわかりました。バイトしていてよかったです。