いつの間にか外堀が埋め立てられていた件
鈴木の花嫁選定は、ガチで難航していた。とりあえず、魔族からは無理だ。人間……か亜人……エルフとかかなぁ。
「ミチル様、諦めて私を侍女として雇いましょうよ」
「私もぉ、立候補しまぁす」
「…………同じく」
「今ほしいのは鈴木の嫁候補で、私の侍女候補じゃない!しかも、侍女を持てるような身分でもないから!」
「「「ミチル様が魔王妃になれば、雇えます」」」
「ネバーギブアアアアアアアップ!!」
しかし、魔族以外かぁ。ツテがないわけじゃないけど……気が進まないなぁ。
「ミチル様!」
「オウルド……ノックぐらいしようよ。追加の仕事?」
オウルドはカラフルな写真を持ってきた。チャペルに、神前式………私はそっとオウルドにウェディングパンフレットを返却した。
「私が考えたプランがお気に召しませんでしたか!?」
「それ以前の問題!私はまだ、負けてない!つーか仕事しろ!学校設立や、選挙制度はどうなった!?」
「はっ!こちらに!」
「よろしい。問題ないようね。闘技場については、どう?」
「かなり好評でございます。流石はミチル様!荒くれ者が発散する場までお作りになるとは……このオウルド、どこまでもついていきます!」
「いや、別にオウルドは私の部下じゃないから。鈴木の部下で同僚だからね?」
「はっ!」
こいつ絶対わかってないと思いつつ、書類に目を通す。長を失い、混乱した隙に新制度をねじ込んでいるのだが、色々調べていて解ったことがある。彼らは恐らく、定期的にいさかいを起こすように仕組まれていた。それが何を意味するのか。鈴木の黒染め、操られていた長達………まだピースが足りない。
「ミチル様、このオウルド、必ずやミチル様がお気に召すような最高のプランを作ってみせます!」
「だからそれ以前に、まだ私は負けてないっての!」
「しかし、真生様は大々的にミチル様との婚約を発表しましたよ?」
「鈴木いいいいいいいいいい!!!?」
机に頭を強打してしまった。なんちゅーことをしとるんじゃあああああ!!
「さらに、ミチル様の母君を拉致………ちょっと強引にお招きしております」
「鈴木いいいいいいいいいい!!?いや、ママン!ママぁぁぁぁン!!」
ほぼ反射で部屋を飛び出し、鈴木の執務室に突撃した。
「………そもそも、既に食堂じゃなく真生様の右腕として働いていると………いつになったらミチル様は気がつくのですかね……」
「真生様の隣室が執務室になっておりますものねぇ……」
「そこがまたイイのですわ。自分の功績をひけらかさない謙虚さも」
「仕えたい、主ナンバーワン」
私がいなくなったレンタル執務室でそんな会話がされているとは知らず、鈴木に詰め寄る。すでにママンはいなかった。忙しい人なので、さっさとまたどこかへ行ったのだろう。
「鈴木……酷い…………酷いよ……………」
涙がボロボロとこぼれてきた。
「み、ミチルちゃん!?ご、ごめんなさい!何がいやだったの!?勝手に婚姻届を用意したこと!?先に根回しして関係各所に結婚式の日取りを伝えちゃったこと!?保証人をミチルちゃんのお母様にお願いしたこと!??」
鈴木は予想以上にやらかしまくっていた。しかし、私が今泣いているのはそこじゃない。
「私もママンに会いたかったあああああああ!!」
「え」
「うわあああああん!!五年も会ってないのにいいいいい!!鈴木ずるいいいいい!!ずるいいいいいいいい!!」
「えええ!?お、オウルド!」
「はっ!」
「もう一回頼める?」
「…………………難しいですが、ミチル様がお嘆きになっているのです。四天王の総力を結集してもよろしいですか?」
「許す」
「はっ!」
秘書眼鏡が消えてから、鈴木に苦情を申し立てた。
「鈴木や」
「は、はい………」
「だいぃぃぶ、勝手が過ぎるよね?」
「は………はい……」
「これは、契約違反だよね?」
「は…………はい……………」
私が怒っているからか、違反していたという引け目があるからか、鈴木は素直だった。
「契約破棄されても仕方ないレベルだよね?」
「待って!ミチルちゃんと結婚できると思って先走ったのは謝るよ!でも、いつまで?いつまで待てばいいの!?ミチルちゃんはそんなに………俺が嫌なの?」
「ぐはぁっ」
涙目の鈴木+上目遣い=尊い。
「………尊み秀吉……」
「だから秀吉って誰!?むしろ質問の答えは!?」
「いやまあ…………鈴木は理想的なイケメンだけど、イケメン過ぎて釣り合わないというか………」
「じゃあ、顔に大怪我でも……「鈴木いいいいいいいいいい!??それは世界の損失だから!!絶対にダメ!!」
「じゃあ、どうしたらミチルちゃんと結婚できるの?」
「そもそも普通はいきなり結婚じゃなく恋人としてお付き合い期間を経てからだと想う……」
なんか論点がずれたような……いや、鈴木が私と付き合ってみて『この女、思ってたんと違う』と思えばいいのか?
「うん!ミチルちゃん……じゃなかった、ミチル!俺の恋人になって!」
キラキラとした瞳で自分の最推しに告られて、否と言える人間はいるだろうか。いや、いまい。
「よ、よろしくお願いいたします」
ママン、ミチルは生まれてはじめて好きな人とお付き合いする事になりました。流されている気がするのは、気のせい?
追伸・日本に来たなら会いに来てよ!酷すぎるよ!!
北條ミチルが『魔王の恋人』にクラスチェンジしました。