身分詐称……だよ、ね?
お疲れ様パーティも無事終わり、私は秘書眼鏡から報告書を受け取っていた。
「ご苦労。よくまとまっているね」
「はっ。ありがたき幸せ!」
秘書眼鏡の報告書には、魔王についてが記されていた。
「ただ、これはあくまで『私が調べられる範囲』の情報でございます。魔王候補にしか知らされない情報があるようです」
「……………ふむ」
魔王候補は現在四人いるらしい。
第一候補、鈴木真生……その圧倒的な強さにより選定された。
第二候補、マルホウ=オタルク、……高い魔力があるため選定された。
第三候補、キルチーク=メガルネ……戦闘力は前二人に劣るが、知識や人望により選出。
第四候補、天堂乱………割愛。
第五候補…………不明。
そう。第五の候補だけはいつも発表されず、他候補にだけ知らされるのだという。
「……………蠱毒……」
何故か、そんな言葉が頭に浮かんだ。ママンと違い、微塵も予知の才覚がなかった私だが……それが正解のような気がした。
「ミチル様?」
「いや、なんでもない」
頭を振って思考を整理する。
「候補者を選出しているのは?」
「元老院、と呼ばれる者達ですね。各種族の族長達です。魔族は人に比べて長寿な者も居ますが……彼らは結成当初から同じ人物であるという噂もございます。流石に噂、ですが」
「………………ふむ」
公表されない五人目に、元老院……黒くなる鈴木。情報が足りないな。
「ミチル様、候補者しか知り得ない情報が欲しいのであれば、この私に考えがございます」
「………………聞こうか」
そして、私は何故か全身をピカピカに磨きあげられ、ドレスを着せられ、鈴木にエスコートされている。
「ミチルちゃん、いつも可愛いけど今日はさらに可愛いね!ふふ……オウルドに特別ボーナスあげなきゃ。はあああ、ミチルちゃんが俺の婚約者……ニセ婚約者でも嬉しい……ミチルちゃん、ほっぺにチューまではあり?ありだよね?いいよね??魔族のラブラブな婚約者なら普通なんだよ。ね?いいでしょ?ミチルちゃんの身の安全のためでもあるから!」
「………………ほっぺ、なら」
なんか鈴木がグイグイ来るんだけど!鈴木いいいいい!?いや、ニセ婚約者だからね!?推しにほっぺチューされるなんて………ニセ婚約者最高!ごっつぁんです!
元老院や候補者しか知り得ない情報を知る方法……それは、候補者………つまり鈴木の婚約者になることだった。魔族は情が深いので、婚約者=家族。結婚したも同然なんだそうだ。そのため、本来ならば候補者達しか知る事ができない情報を例外として開示してもらえるらしい。
「うん、わかった。責任をとって幸せにするから」
「鈴木いいいいい!?おま、何言っちゃってんの!?」
鈴木は頬を赤らめながら、穏やかな笑顔で言った。落ち着け!なんでそうなった!?
「え?むしろこのまま既成事実にしちゃって、外堀を埋めて結婚したいなって」
「鈴木いいいいいいいいいい!?」
「はあ………俺の婚約者……ミチルちゃんが婚約者~」
雄叫びをあげる私を気にせず抱きついてスリスリしてくる鈴木。あばばばばばば!!
「いや、ちょ、鈴木いいいいい!?」
「婚約者らしくしないと~。ミチルちゃんは俺に溺愛されてる婚約者って設定なんだから」
「くっ………いや、溺愛されてる設定はいらなくないかな!?」
「すごーく必要だよ。ミチルちゃんの安全のためだよ。よからぬ事を企む輩への牽制にもなるから。それにしても、役得だなぁ……ミチルちゃん、このまま俺と結婚しない?」
「鈴木いいいいいいいいいいいいいいい!??」
慌てる私に、鈴木は楽しそうだ。か、からかわれたのか!?
「………なんて、プロポーズは冗談半分でするものじゃないよね。今日は時間もないからここまでにするけど、次はちゃんと口説くから」
「鈴木いいいいいいいいいい!??」
ここでほっぺにチューだとう!?あばばばばばば!?
「お手をどうぞ、俺の婚約者様」
「ふぇい………」
そこから先、私の記憶は非常に曖昧になっている。上機嫌な鈴木から『最愛の婚約者』として紹介され続け……私のメンタルがゼロになったからである。
鈴木いいいいいいいいいい!!ドキムネムネするんじゃああああああああああ!!惚れてまうやろおおお!!
この熱い衝動のままに叫んで悶えて転げておむすびコロリンしなかった私を、誰か誉めてください。




