穂積はがんばった。
楽しいことがあれば、辛く悲しいこともある。ついに、この日が来てしまった。今日も女装している。準備の手際がよくなったのが、地味に切ない。今日はついに本番。魔王らしい格好をした鈴木と、首謀者の元へ行くのだ。
「晃太君…じゃなかった。えっと……」
「………コウです」
「いやぁ、化けたね」
「………アリガトウゴザイマス」
嬉しくない。嬉しくないが、魔王の鈴木からお墨付きをいただいたのは……多分、いいことなんだろう。多分。
「さあ、行こうか!もうすぐフィナーレだよ!」
そうだ。俺達に手を出したことを後悔させてやる。心をバッキバキに折ってやるんだ!
「センパイ、顔が怖いですよぉ。スマイル、スマイルぅ」
気合い十分の藤堂。すっかり可愛い系ギャルにしか見えない。
「……藤堂君、可愛いね」
「ありがとうございまぁす」
藤堂は最近エクステまでやりだした。本当に可愛い。いっそ性転換してはどうか。というか、こいつはどこに向かっているのだろうか。
「ミチルちゃんには負けるけど」
「陽菜の足元にも及ばないがな」
しかし、脳内可愛さランキングは陽菜がぶっちぎりだ。そもそも俺、ギャル系好きじゃねーし。
「アタシ、協力者なんですが?」
「すまんかった。超可愛いです」
「よろしい」
なんだかんだで藤堂とは仲良くなった。事情を話したら『わかりました。クズヤローをはめてやればいいんですね!』とイイ笑顔で協力を申し出てくれた。
「二人とも……今までよくぞ辛い修行に耐えたわね」
「先生!」
「睦…」
「二人とも、どこに出しても恥ずかしくない淑女になったわ!もし困ったことがあれば、これを……」
「……香水?」
「一時間以内の記憶を曖昧にするわ!バレたら使いなさい!」
地味にスゴい薬を出しやがった。藤堂が悪用するのではないかと不安になったが、睦はしっかりと対策をしていた。
「男にしか効かないからね」
「チッ」
やはり悪用する気だったか。藤堂が舌打ちして睦から制裁を受けていた。ざまぁ。
男の事務所で、先ずは真面目に仕事をした。怪しまれるとやりにくいからな。誘惑は藤堂に任せた。メロメロにして貢がせてやると言っていた。派手目な服装は、そのためでもあったらしい。巨乳好きは相変わらずで、今日も詰めものでムチムチしている。
「………少し休憩しろ」
気がつけば集中していたらしい。伝票整理はバイトでやったことがあるので、かなり進んでいた。
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
礼を言って休憩することにした。
「……かなり手慣れているようだが」
「あ、はい。以前アルバイトで経験がありまして」
「……そうか」
ジュースを買いに行ったら、藤堂に絡まれた。
「センパイ、誘惑はアタシに任すんじゃなかったんですか!?」
「いやいや、任せていますよ?」
念のため結界で遮音する。誘惑はとか言うな。怪しまれるだろうが。
「でも、ぶっちゃけアタシよりしゃべってた!」
「あ~、まあ、うん。向こうもギャルは好みじゃないとか?」
派手目は夜のお姉さんで食傷気味とか……よく考えたらあの男、うちの母狙いだったよな?
「地味系が好みなのではないですか?」
「それです!!」
そうと決まれば作戦変更!と藤堂はメイク道具を取りに行った。そして真面目に仕事をこなし、さりげなくお茶を出すなど、女子力を発揮した。俺は黙々と仕事をしていた。
最初はあからさまに迷惑そうだった男だが、帰りには藤堂と談笑していた。
藤堂さん、スゲェわ。パネェわ。
そして、トークスキルと洞察力が高すぎる。相手の様子を観察して、相手の望むように動いていた。それについて指摘したら、苦笑していた。なんでも、母の気を引くために習得したそうだ。しかし結局役に立たず、諦めてスキルも使って遊んでいたら……北條にこっぴどくシメられたらしい。
「あの人のやり方はどうあれ、取り返しがつかなくなる前に止めてくれたことは感謝しています。今の方が楽しいですよ。結局、スキルでいいように操ったって楽しくなんかなかった」
そう言って、また苦笑していた。
「んん……寂しかったらウチにこいや。寂しいどころじゃなくなるから」
「はい?」
「とりあえず、今晩ウチでメシな」
ウチの家族は適当なので、藤堂が男か女かなんて気にしない。お客様はだれであろうがおもてなしする。ウチの弟妹は皆おりこうさんだからな!
藤堂は必死に弟妹の相手をして……うちに入り浸るようになったのだが、それはまた別の話だ。弟妹により浄化されたのか、将来は保父さんになりたいとまで言い出した。
ま、いつまでもチャラチャラしてるよりいいんじゃねぇの?と思っていたら、妹が『レオン君と結婚する』と言い出して泣いた。陽菜が慰めてくれた。兄ちゃんは許しませんよ!!
ちなみに嫁に行くと言った妹は四歳でした。
翌日は陽菜ちんの嫁に行くと言っていたそうです。四歳なんて、そんなもんです(笑)