続・キャピキャピしている男子会
装備は整ったが、女になるためにはまだやる事がある。そう、無駄毛処理である。睦は容赦がなかった。
「脱毛クリームか、カミソリか、ガムテープ。好きなのを選ばせてあげる」
「「最後、明らかに罰ゲームじゃないか!!」」
決して理解しあえないと思った藤堂と心がひとつになった瞬間だった。
「先生、僕無駄毛薄いから脱色にしたいです」
藤堂の足を睦が確認した。確かに薄い。目立たないし、別に処理しなくてもいいんじゃね?色素も薄目だからさらに目立たない。
「そうねぇ。いいわよ。晃太は脱色しても濃いから目立つでしょうね。剃る?クリーム?ガムテープ?」
俺の場合、腕はあまりないが、足はそれなりだ。脇は処理しているから問題なし。
「だからさりげなく罰ゲーム混ぜんなよ!」
「個人的にはクリームがオススメよ。剃ると太くなるから」
と、いうわけでクリームを腕と足に塗りたくり、待つこと五分。クリームを洗い流すと、毛はクリームごと流された。なんか足が寒い気がする。脛毛は俺を冷えから守っていたに違いない。
「後はデリケートゾーンね」
「あ、僕はちゃんとしたから大丈夫です。下着から見えると萎えますもんね」
お前は萎えていた方が女性のためなんじゃないだろうか。
「じゃあ、晃太」
「ボクサーだからはみ出ない!そもそも、下着が見える想定をすんなああああああああ!!」
しかし、睦は真剣だった。
「あら、ある程度は対策しとかないとダメよ。年下ならともかく、相手は成人男性なのよ?しかもヤのつく自由業。チラッと見えて男とバレたら命に関わるわ。ミチルがカバーするとはいえ…万全の状態で行くべきよ。と、いうわけでコレ履いて」
なんかこう……スライム的な……肌色パンツ??
「……女性の下半身を模してますね」
流石はヤリ(トライアングル音)だな。わかるか、そんなもん。ためらいなく下着の上からスライム的なブツを履く藤堂。スライムは肌にフィットして、継ぎ目もわからない。とりあえず、睦にツッコミをした。
「これ着けるんなら、デリケートゾーンの処理はいらないよな?」
「テヘペロ」
「睦ぃぃぃ!!」
しばらく睦を追いかけ回した。陽菜に付き合って討伐しているため、体力がある俺は睦をアッサリ捕獲する。
「ロープロープ!身体はオッケーね!ちょっと違和感があるだろうから晃太も履いて!藤堂君も下着の中から履いてね!」
めっっちゃ違和感がある。でもこれ、パンツの上からでもわからんな。
「睦、これパンツの上からでもよくね?落ち着かないわ」
「ん~、下着部分だけ吸着しなくなっちゃうのよねぇ……フトモモ部分まで伸ばせば問題ないかしら?ちょっと聞いてくるわ」
睦はパンツからスパッツになった肌色スライムを持ってきた。これで、見た目は多分女だ。しかし、パンツスパッツパンツ。どんだけ下半身を守るのだろうか。いや、守らねばなるまい。尻ピンチは勘弁だ。
「さて、次はおまちかねのメイクよ!自分でも化粧直しができるようにならないとね!」
「わ~い。先生、僕可愛い系がいいです!」
「オッケー、オッケー。藤堂君の衣装に合わせて暖色がいいわね」
盛り上がる男二人についていけない俺。適当でよくね?眉を整える。確か、ファンデーションは肌に近い色。睫毛を上に向かせるハサミもどきで睫毛を上に向かせ、マスカラを塗る。アイシャドーは…無難にベージュ。服も地味だしな。塗り方は…新品だから書いてあった。ふむ…薄い方からグラデーションになるように眉から目へ。口紅は……あんまりどぎつい赤は浮くから……こんなもんか。
「さ、次は晃太…………」
適当にメイクをした俺に固まる睦。藤堂がアイドルになれそうなほど可愛く化けていた。詐欺だ。
「ちょ…あんた………」
地味すぎただろうか。しかし、藤堂が派手めだから俺はこれでいい気がする。
「適当にメイクしたくせに可愛いとかわけわかんないぃ!これだから顔のいい男はっ!晃太へのメイクを昨日から楽しみにしてたのに!酷い!酷いわァァァァ!!」
睦は泣きながら出ていってしまった。
「穂積~、むっちゃんが自信なくしたって号泣して……うあ…」
北條が俺を見て固まった。自分でも鏡を見るが、普通の顔だ。化粧したから女にしか見えない。喉仏も体型も服でカバーされている。
「これが…顔面格差というものか……」
北條が崩れ落ちた。意味がわからん。お前はナニをしに来たんだ。
「晃太君、ミチルちゃんしらな…いぃ?」
魔王みたいな格好をした鈴木が床に転がった北條につまづいた。
「ご、ゴメンね!怪我はしてない!?アザになってない!?」
「す、鈴木ぃぃぃぃ!!尻を揉むなァァァァ!!」
鈴木は丁度北條のケツにつまづいたので心配なのはわかるが…それは完アウトだ。北條のケツは鈴木が回復魔法を揉みながらかけていたから大丈夫だろうな。しかし、北條よ。よく止めた。止めなきゃ脱がされていた危険もある。北條も鈴木に色々とやらかしているらしいから、お互いさまなんだろうか。お前ら、さっさと付き合えばいいのに。
「み、ミチルちゃん、本当にごめんなさぁぁぁい!!」
鈴木が乙女みたいな所作で壁をぶち破って走り去った。ドアを使え…というか、次々に壁をぶち破っていく。これ、ヤバくないか!?
「す、鈴木ぃぃぃぃぃ!??ごめん、穂積!魔王城が崩壊しかねないから鈴木を止めてくる!!」
北條ミチルに魔王城の命運は委ねられた。そういえば、睦はいつの間に魔王城に馴染んだのだろう。俺みたいにバイトをしているわけではないだろうし…謎だ。
俺も普通に魔王城の部屋を借りるぐらいには馴染んでしまった。非日常が日常化してきて、普通とは何かと考えてしまう今日この頃である。