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とある男の独白

とある男性視点です。

 その出会いは、たまたまだった。取引先で見かけた未亡人。ものすごく美人、というわけではないが、とても惹かれた。今にして思えば、一目惚れだったのだろう。だが、誰が好き好んで裏家業の人間の女になりたがるだろうか。相手はカタギの人間だ。

 しかし、諦めるという選択肢はなかった。ならば、そう選択せざるをえないように仕向ければいい。そう、欲しければ奪えばいい。あくまでも、本人の意思で選んだと錯覚させるのだ。女には子供がいた。まだ学生だ。なに、ちょっと借金を作ってやればいい。子供のためなら女は頷くだろう。



 簡単な仕事のはずだったが、冒険者達の横槍が入った。あの家の死んだ亭主も未亡人も、冒険者との関わりはなかったはずだったが…どういう事だろうか。

 それから、奇妙な事が続いた。仕事が上手くいかない。冒険者と馬飼野組が手を組んだようだ。馬飼野組は昔気質の組で、うちにもシマがどうだの喧しい。冒険者を率いているのは勇者を名乗る小娘。普段なら勇者気取りの小娘など気にもとめないが…的確に仕事を邪魔してくるのでそうもいかない。勇者の小娘は、女の長男と婚約していたらしい。

 そんな時、魔王から話が来た。


 こういう仕事をしていると、相手の素性なんかをキチンと調べることが重要になってくる。こちらはあくまで騙す側だと胡座をかいていたら、すぐに足元をすくわれてしまう。相手は正確には魔王ではなく魔王候補。ただし、最有力候補だった。ほぼ魔王を名乗ってもさしつかえないだろう。


 魔王は艶やかな銀色の男だった。一見するとどこにでもいる学生だが、纏う雰囲気が異常だった。頭を下げずにいるので手一杯だ。


「こちらとしても勇者が目ざわりなんだ。手を組もうじゃないか。なに、俺達はあくまでも利害が一致した対等な立場だよ」


 対等なと言いながら、断れば殺されるのは想像に難くなかった。


「…よろしく、お願いします」


 そう返答するしかできなかった。


「ああ、ついでに部下達を置いていくよ。何かあればこの子達に手伝わせてくれ」


 魔王が置いていったのは、どこかあの女に似た娘とピンクブロンドの娘だった。特にピンクブロンドの娘は若いが妖艶で美しかった。

 どちらも有能で、すぐに俺の片腕として頭角を現した。どちらも俺に好意的で…あの未亡人など、どうでもよくなるほどにのめり込んだ。どちらも、頭がぼうっとするほどいい匂いだった。


「調子はどうだい?」


 魔王とも親交を深めた。さらにK財閥からも融資を受けられることになった。もはや、馬飼野組どころか世界を手中に納めたような気になっていた。全ての歯車が上手く噛み合っていた。





 しかし、世界は一変する。






「だから言ったんだ。欲をかきすぎると、失敗するってな。何事も、うまい話にゃ裏があるんだよ」


 かつて仲が良かった馬飼野組の組長の声がした気がした。


「う、嘘だ……」


 今まで積み上げて来たものが全て無になってしまう。警察が的確に隠し金庫も裏書類も探し当てていく。まるで、内通者がいるかのような動きだ。


「嘘じゃない。現実だよ。狙った相手が…というか、間が悪かったな。同情はしない。ざまあみろ」


 あの未亡人に似た娘が、私に何かを投げて寄越した。胸も無くなって………その顔は…どこかで見覚えがある…!男はこの場にそぐわないほど穏やかに微笑んだ。


「そうそう、名前を教えてなかったな。俺は穂積晃太。母が世話になったな」


 そう、あの未亡人の長男!女ですらもなかったのだ!!


「はい、これ返す。悪いけど、僕は女性にしか興味ないからぁ」


 ピンクブロンドの娘も男!??同じく胸がなくなった。髪は自前だったらしく、変わらない。


「逮捕協力、感謝する!」


 警察の一言で一気に頭が冷えた。そうか、裏切り者は貴様らだったのか!!


「やあ、首尾はどうかな?」


 銀色の魔王が現れた。


「貴様、どういうつもりだ!?貴様が手を組もうと言ってきたのだぞ!?」


 銀色の魔王に怒鳴りつける。もはや、魔王の威圧など気にしていられない。魔王は呆れたような表情でこちらを見た。


「そもそもさあ、晃太君ちにちょっかいかけてきたのは君だよ?生半可に手を出したら、また返り咲いて仕返ししようとするかもしれないじゃないか。だから、完膚なきまでに叩き潰してやろうってミチルちゃんが計画したんだよ。いやあ、流石はミチルちゃんだよね!こんなに上手く行くなんてね!ちゃあんと根回ししたから、お金を積んでも出てこれないよ。牢屋暮らし、頑張ってね」


 ミチルチャンとやらが誰かは知らないが、確かなのはそいつが首謀者だということだ。どうせ捕まるのだ。なら、罪がひとつ増えようと変わらない。


「お前の、せいでえええええ!!」


 隠し持っていたナイフで襲いかかる。魔王を刺せるなんて思っていない。狙いは…あの未亡人の長男だ。首謀者は別にいるようだが、あれがきっかけで間違いない!


「は~い、そこまで!眼鏡☆シールド!!」


「ぐふっ!?」


 何かに弾かれ…いや、壁のようなものに挟まれている!骨が軋み、身動きがとれない。


「ミチルちゃん!」


「ジーク眼鏡!」

「ジーク眼鏡!」

「ジーク眼鏡!」


 私が最後に視たのは、魔王と魔族達にかしずかれる平々凡々な三つ編み眼鏡娘だった。

……なんだこれ。

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