お給料をもらいました。
片づけを終えて、今日はもう解散ってとこでエレファス…さんが話しかけてきた。
「嬢ちゃん、魔石をカンキンしたいんだろ?よくわかんねぇが、俺今暇だから行ってやるよ」
身長が二メートル近くあるエレファスさんは私が提示した条件にぴったりだ。
「お願いします。穂積も一緒に来る?」
「あ~、思ったより早く終わったし…手持ちヤバかったから行くわ」
陽菜ちんは穂積あるところ陽菜ちんありだからわかるとして…何故か鈴木もセットでついてきた。冒険者ギルドに興味があるらしい。
というわけで、家からやや遠方にある冒険者ギルドに到着した。私も穂積もあまり強そうに見えないため、よく絡まれる。絡まれるだけならいいが、後日後をつけられて家の前で待ちぶせされたり穂積は兄弟を人質にされたこともある。なので近隣は基本選ばない。ただ、今は鈴木の腕輪があるので、当面尾行を心配する必要はない。鈴木様様である。
「換金をお願いいたします」
魔石を渡して身分証としてギルドカードを提示する。
「あら、珍しい魔石ね。サービスしちゃうわよ」
大体、魔石は小指の爪大が五百円程度、握りこぶし大なら数百万。サイズと価格が比例する。私が給金として貰ったのは小指の爪大の魔石が二十個。単純計算で二万ぐらい。今回は二回分だから四万ぐらいかな。
「はい、四十万八千円ね」
はい??
相場の十倍…………だと?
別のカウンターで穂積が私と同じ顔をしていた。陽菜ちんは金銭感覚がおかしいから気にしていない。
ギルドのお姉さんによれば、稀少な属性魔石だからとのこと。
「鈴木」
「ナニカナ?」
絶対レア属性だって知ってたな!?とぼけやがって!でも可愛い!いやいや、可愛さに騙されてはいかん!!
「でも、こっちで換金するとかなり額が違うなぁ。すいません、これも換金をできますか?」
鈴木が無造作に置いたのは、扉サイズの規格外な魔石。例のお店が作った収納ポーチに入れてたらしい。
「ほ、本物!?し、しばらくお待ちください!!」
あれよあれよと、別室に連れてこられた私達。責任者らしきムキムキなおじ様が応対を変わっている。穂積の帰りが遅くなると可愛い弟妹がお腹を空かせて待つ羽目になるので、桔梗を護衛にして陽菜ちんと先に帰らせた。
「俺ぁここの責任者だ。あのとんでもねぇ魔石を獲ってきたのは…ボウズだな」
疑問ですらなく、断定。何らかのステータスチェックスキル持ちと見た。普通このメンツならエレファスさんがやったと思うだろう。
「そうです」
「申し訳ないが、ギルドの有り金を全額出しても正当な買い取り価格に満たん。有り金全額出しちまったら他の冒険者達が困る。だが、できればこんなレアもんそう出てこねぇから買い取りたい」
「つまり?」
「提案をさせてほしい。手付け金を支払い、残額は後日にする。こちらの職員が出向いて買いつけに行く…額が額なもんで、かなりの大人数になる。または、小切手か口座に送金。一番のおすすめはオークション手続きだな。手数料が高額になるが、それでも通常買い取りより間違いなく高い」
鈴木は笑顔だ。絶対これ、よくわかってないな。ただ、オークションはギルド登録が必須なはず。
「彼は冒険者ギルドに登録していません」
「マジかぁ………どぉぉすっかな…」
頭をガシガシ掻くギルドマスター。
「ええと…姫宮陽菜と友人でして、彼女名義でやるのはダメですかね。彼、わけありでして」
「…魔族、だろ?上手く化けちゃいるがな。あいつは確かに気にするタマじゃねぇわなぁ…丁度今日来てたし、記録をちょいちょいっと改竄しちまえば問題ないか。よし!ボウズ、それでいいか!?」
「え?あ、はい」
ギルドマスターさんはテキパキと手続きをする。ここのギルドマスターはいい人。覚えておこう。陽菜ちんと連絡を取り、書類を書く。
「よし!じゃ、金は指定口座に振り込み…連絡先もオッケーだな!」
「あ、あの…」
「なんだぁ、ボウズ」
「貴方は、俺達が嫌いじゃないんですか?」
ギルドマスターはキョトンとした。
「んあ?ああ。そらぁ、魔族が気にくわねぇって奴はいるが…俺個人の意見としちゃ、気にならねぇ。魔族だろうといいやつもいるし、やなやつもいる。魔族だからどうこうとは思わねぇ。俺の飲み友達には魔族もいるぞ。だから、お前も気にすんな。あと、冒険者ギルドは魔族と接する機会が多いせいか俺みたいな考えの奴は多いぞ」
ギルドマスターは、カラカラと笑った。
「あんな人、いるんだね」
帰り道、鈴木がポツリと呟いた。
「そりゃあ、いるでしょ。人の数だけ常識と正義はあるからね」
自分の常識や正義が、必ずしも正しいとは限らないのだ。私は、それを知っている。少数だからって間違っているとは限らない。
「………そっか」
エレファスさんと別れ、二人で家の近くに転移した。どちらともなく手を繋いでちょっとだけ遠回りして帰った。
そして、お給金を下げてもらう交渉を忘れたミチルであった。