説明を求めました
鈴木も落ち着いたから解散したかったんだけど、穂積が待ったをかけた。
「待て。北條、お前このまま有耶無耶にしようとしてるだろ」
「チッ」
「舌打ちすんな!説明しろ!!」
仕方ないので説明することにした。とりあえず、鈴木を指さす。
「魔王予定の鈴木真生きゅんでっす☆」
「説明が雑すぎるわああああああ!!」
穂積が即ギレした。これだから最近の若いもんは短気で困りますなぁ。
「ご、ごめん…」
「悪いのは真生じゃねぇ!北條だ!北條の説明が悪い!つーかお前、仮にも『全てを見通すサポート眼鏡』を名乗っておきながら勇者に魔王んちのバイトさせるってどーゆー了見だああああああ!!」
「あ、馬鹿」
「おや」
穂積自身がすぐその失言に気がついたらしく、顔面蒼白だ。
「勇者って陽菜さんでしょ?少なくとも、今の俺は陽菜さんと争うつもりはないよ。候補とはいえ、半ば魔王になった身だ。天敵が誰かくらいは解るよ」
『キミは俺が幸せにするからね』
ゲーム画面ではにかんだ鈴木。誰が勇者なのか、最初から知っていたの?彼女の幸せのために、死ぬ気だったの??グッピー以外の四天王を下がらせた鈴木は、何かを諦めたような表情だった。
「そうそう!陽菜ちんの聖剣がいらなくなるように私も頑張りますから、二人が争うことは未来永劫ありえません!!」
「ミチルちゃん…」
「真生様が浄化されている…。しかたありませんね。我らも次期魔王様のためです。多少は目をつぶりましょう」
「……いいのか?」
エレファスに問われ、秘書眼鏡は頷いた。
「ええ。他の魔王候補は問題がありすぎますし、長もちするならそれにこしたことはありませんからね。真生様以上の資質持ちがいないのも事実です。ただし勇者よ、貴女の力は強すぎる。ここで働くならば、力に制限をかけさせていただきますよ」
「かまわん」
「陽菜!?」
「陽菜さん、俺はしなくていいと思う。オウルド、余計なことはするな」
鈴木は止めようとしたが、秘書眼鏡は首を振った。
「いいえ、きちんとけじめをつけるべきです。勇者よ、貴女はどうしたいのですか?」
陽菜ちんは真っ直ぐオウルドを見た。凛とした女勇者。姫宮陽菜は、いつも誰よりカッコいい。
「鈴木は私を勇者と知りながら友になり、魔王城で働く許可までした。その信頼に、私も誠意を見せるべきだ。私は力の制限を受ける」
何故か、秘書眼鏡が溶けていた。おいぃ!?何故溶けた!??
「だ、大丈夫か!?」
「ぎゃああああ!?」
「うぎゃああああああ!?」
「久しぶりに溶けたな」
「ミチルちゃん、大丈夫だよ」
鈴木の発言通り、秘書眼鏡はゆっくりと形を取り戻す。
「申し訳ありません。動揺が限界を突破すると姿を保てなくなるのです。流石は勇者。天然純粋オーラにしてやられました。私の本体は眼鏡ですから、人間体が溶解しても問題ありません。眼鏡は顔の全部です」
明らかに動揺しまくっていらっしゃる。眼鏡が本体とか…し、知らなかったよ。でも、これ教えていい情報なの?眼鏡が弱点ってことでは??
「では、制限をかけます」
眼鏡☆スキャンで確認したが、これ陽菜ちんが破ろうと思えば破れるな。私が秘書眼鏡を見たら、秘書眼鏡が口元に人指し指を当てていた。彼は陽菜ちんの覚悟を試しただけらしい。それにけじめをつけているこの状況でも陽菜ちんに襲いかかる馬鹿がいるかもしれないから、この措置は妥当と言えるだろう。
「これでいいのか?」
「はい。貴女の覚悟と誠意を見せていただきました。貴女はこの魔王城で働く仲間である、と知のオウルドが認めましょう」
「はいはーい!早さのチーティスも認める!」
「同じく、力のエレファスも認めよう!」
「ありがとう、これからよろしく頼む」
こうして、勇者様は無事魔王城のアルバイトとして認定されました。
「で、穂積はどうする?口止め料や信頼込みのバイト代だから破格の報酬なのだよ」
「すげぇ納得したわ。まぁ…鈴木はいい奴だし、できたらこのバイトに絞りてぇ。報酬もだが…やっぱり俺が作った料理を笑顔で食べてもらえんのはすげぇ嬉しい。同僚もいい奴ばっかだし、ここが魔王城だって部分を差し引いてもプラスだと思う。つーわけで、当然続行だ。そもそも途中で投げ出すとかありえねぇ」
流石は律儀な男・穂積。犬妖精君達が尻尾をフリフリして大喜びしている。
「そんじゃ、これからもよろしくな」
「ああ」
ピガーさんと穂積が握手した。そして、その後ろには犬妖精君達の行列……と陽菜ちんが並んでいる。
「……………」
なんとなく、私と鈴木も並んだ。
「何でお前らまで並ぶんだよ!いや、そもそもこの行列はなんだ!?意味がわからん!!」
「私も晃太と握手がしたいからだ!」
「「なんとなく」」
しょっちゅう手を繋いでるけど手を繋ぎたかったなんて…陽菜ちん、可愛い!私と鈴木はなんとなくだけどな!
「僕ら、兄さんとよろしくしたいですわん!」「したいですわん!」
「よろしくなのですわん!」
犬妖精君達は純粋な好意らしい。律儀な穂積は全員と握手した。何故か四天王とも握手していた。穂積はつっこむ気力もなくなったらしい。頑張れ、穂積(笑)