推しメン様に悶えました。
さて、下校しようとなったのだが…私と鈴木は揉めていた。
「北條さんも自転車なんでしょ?送っていくよ」
「いやいや、大丈夫だから!ちょっとすりむいただけだから、普通に自転車こげるし!」
鈴木は過保護だった。そして、鈴木に私は負けた。鈴木は我が推しメンである。つまり、好みにどストライクなイケメンに『心配だからどうしても送らせて?ダメ?』と悲しげに首をかしげて言われてみたらどうなる?普通に断れませんでした。くそう、イケメンめ!
現在、私は推しメンと自転車の二人乗りをしている。前世を含めてしたことないから手汗がすごい。そして、流石は我が推しメン。めっちゃいい匂いがする。
「鈴木君、めっちゃいい匂いする」
特に考えず感想を言ったのだが、鈴木が動揺したのか自転車がグラグラした。
「うわわ!?」
慌てて鈴木にぎゅっと抱きついた。
「北條さん!その、ああああああ当たってるから!」
「いや、当ててるのよと言いたいとこだけど、いきなりグラグラしたから仕方ないと思う!」
自転車がグラグラすんの、普通に怖い!二人乗りしたことないから知らなかったよ!
「うう、つまり俺が動揺したからか…ごめん…」
「いや、まあ変なこと言った私も悪いかも。悪気はなくて、思ったからペロッと出ちゃったんだよ。ごめんね?イケメンは匂いまでイケメンなのかと…」
鈴木はまた動揺したのか自転車がグラグラした。さっきから抱きついたままになっているので怖くない。
「に、匂いの話題禁止!」
鈴木は耳まで赤くなっていた。流石は我が推しメン。すげぇ可愛い。
あっという間に我が家に到着してしまった。楽しい時間はすぐに過ぎちゃうね。
「鈴木君、うちここだから」
我が家はマンションで母子家庭だ。ママンは世界中を飛び回っているのでたまにしかいない。実質独り暮らしなのである。
いつもなら自転車で買い物して帰るが、流石に鈴木を荷物持ちにはできない。昨日買い置きしたもので適当になんか作ろう…と油断していたら、鈴木からまさかの発言があった。
「明日の朝、迎えに来るね」
「え」
何故迎えに??私の疑問が表情に出ていたのだろう。鈴木が説明してくれた。
「自転車、学校だから不便でしょ?俺が無理言って二人乗りしてもらったし…俺の家近所だから明日は迎えに来るよ」
「いやいやいやいや!歩けるから!めっちゃ歩けるから!そんな気を使わなくていいから!」
なんといい奴なんだ、鈴木!そりゃ、自転車で行けないのはちょっと面倒だけど、雨の日は電車通学にしているから問題ない。駅二つ分だから歩いて帰る時もあるぐらいだ。別に支障はない。
「気を使ってるんじゃなくて、俺がそうしたいんだ。北條さん…だめ?」
推しメンにおねだりされて、嫌と言えようか。いや、言えまい。
「わ、わかった……」
そして、翌朝の待ち合わせ時間を確認した。
「あ、それから北條さんてたまに俺を鈴木って呼び捨てにするよね」
「ふへ!?」
脳内では言ってたけど、口に出してた!?
「仲良くなれた気がするから、鈴木君よりそっちがいいな」
くそう!このイケメン!穏やかに笑うな!惚れてまうやろぉぉぉ!!
「じ、じゃあ私は下の名前でよろしく。下の名前呼びは親友とむっちゃんしかしないから」
「え!?い、いいの?じゃあ…ミチルちゃん?」
「…………うん。じゃ、また明日」
私は全力で表情筋を総動員して笑顔を作り鈴木を見送った。
ダッシュで我が家に入り鍵をかけ、自室に入りクッションに顔を埋める。
「鈴木ぃぃぃ!!」
叫んでからクッションをはなし、息を吸う。そしてまたクッションに顔を埋める。
「イケメン過ぎるんじゃあああ、鈴木ぃぃぃ!!かっこよくて可愛いんじゃああああ!!鈴木ぃぃぃ!!鈴木ぃぃぃ!!」
しばらく全力で鈴木を叫び悶えた。あの最後のはにかみとか反則なんじゃあああああい!!
「ミチルちゃんとか…うぬおおお…自分グッジョォォブ!げほっ」
ひとしきり喉がかれるまで叫んで咳きこんで落ち着いたら、スマホ(やはり動力は魔力)にメールが来ていた。占術師として世界中を飛び回っているママンからだった。
『件名:ミチルの運勢
ミチルに運命の出会いチャンス!平穏な生活は終わりを告げるでしょう!こんなん出たけど大丈夫?頑張ってね、ミチル』
「ママぁぁぁぁン!??」
そして世界的にも有名な占術師であるママンの占い結果通りに、私は心休まらない日々を過ごすことになるのだった。