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やはりお馬鹿はいました。

 穂積の活躍により夕食はほぼ完成し、盛りつけるだけになっていた。逃亡したがバイト中だからとすぐに戻ってきた働き者の穂積は、翌朝と昼分の仕込みまで始めていた。


「働き者だわん…」

「料理もおいしいのわん…」

「兄さんとお呼びするわん!」

『それだわん!』


「いや、どれだよ。俺、すでに弟妹がたくさんいるから、これ以上は面倒見られないぞ」


 そう言いながらも兄気質な穂積は犬妖精達を優しくよしよししていた。


「そういう意味じゃないですわん。師匠とか、尊敬できる存在をそう呼ぶのですわん」


「あ~、まぁ好きにしな」


「お手伝いありますかわん!」

「お手伝いしますわん!」


 すっかり犬妖精君達に慕われた穂積を眺めてほのぼのしていたら、事件が起きた。


「オラァ、チンタラ働いてンじゃねぇぞ!メシよこせ!!」


「めが「ミチル、私の出番を取らないでくれ。まだ食事時間ではないと聞いている。何か特別な事情があるのか?」


「あ?へー、いい女じゃないか。お前が酌をするってんなら…」


 馴れ馴れしく陽菜ちんの肩に触れようとしたバカは、穂積が放った掃除用モップに顔面直撃されて倒れた。


「陽菜ちん、やっておしまい!バカはとりあえず、ぶん殴ってから話すと早いから!」


「承知した!」




 剣スキルカンストの勇者様に雑魚がかなうはずもなく、全員一撃で倒れていた。


「ひ、ひいぃ…」


「ミチル、戦意喪失した相手まで殴るのか?」


 陽菜ちんは怯えた相手を殴るのはちょっと…と言いたげだ。


「戦意喪失したなら不要です。食事時間はきちんと守ってください。さもなくば、私たちにボコボコにされます。時間に不満があるのなら、上司にでも相談しなさい!」


「す、すいませんでしたああ!!」


 あ、仲間を置いていっちゃった。


「気絶したやつらはどうする?」


 小文吾にお願いして、廊下に捨てていただきました。あれだけ暴れても、やっぱりバカはいるんだなぁ。


「あの~、すんません」


 かなり大きい熊さん?の獣人さんが来た。敵意はなさそうだ。


「はい?」


「廊下のバカ、回収に来ました。なるべく今後はご迷惑をかけないようにしますんで…チーティス様にはくれぐれも内密にぃぃ!!」


 熊さん?はいきなり土下座した。ああ、なんだろう。この人、チーティスさんに似てる。部下って上司に似るのかな?下っ端の乱入が起きないよう、対策すると約束してくれたのでよしとしよう。

 陽菜ちんも戦闘力的な意味で犬妖精君達に認められたらしく、扱いが多少改善した。犬だからか、彼らの順位付けはかなりハッキリしていてたまに驚かされる。


「小娘、出てきなさい!」


 聞き覚えのある声がしたので、素直に出ていった。昨日桔梗に散々嚇かされたのに、懲りない金魚(にんぎょ)である。


「昨日はあの……あの恐ろしい猫にしてやられたけど、あの猫さえいなければ、あんたごときいつでも倒せるわ!」


 イラッとしたので、思いっきり金魚鉢に爪を立ててキィィィという不快な音を発生させてやった。あ、やべ。犬妖精君やピガーさんにもダメージが出てしまった。


「いきなり何をするのよ!」


「いや、ムカついたからやりました。後悔はしてない。昨日桔梗に尾びれをちょっとぐらい、かじらせてやればよかったかなって後悔はしています」


「あ、悪魔みたいな小娘ね!」


 いやいや、私はあくまでサポート眼鏡。悪魔っ娘キャラではなく地味キャラですから。


「いやいや、私みたいな小娘ごときに四天王様がかまうのはいかがなものですかねぇ?ただ、私は確かに小娘ですが、馬鹿にされて我慢してやる義理は無いのです。目には目を!歯には歯を!やられたら少なく見積もっても十倍にして返せがモットーです!!」


「最後、比率がおかしい!」


「やられたら、やり返す気力がなくなるまでやり返すタイプなんですよ。さて、そろそろいいかなー」


「は?」


 金魚(にんぎょ)は、気がつかなかった。こいつが私に危害を加えようとした一瞬で、陽菜ちんはすでに動いていたのだ。


「ミチルは私が守る!」


 チィン、という納刀の音が響いた瞬間、金魚鉢が綺麗にカットされた。


「………………え?」


 残されたのは、水を失った哀れな金魚(にんぎょ)と元金魚鉢だった台車。金魚(にんぎょ)を連れてきたゴブリン的なやつは金魚鉢が壊れた瞬間、水で流され、そのまま逃げた。まさに流れるような動きだった。


「干し人魚にするか?」


「い、いやあああああ!こっちの小娘も真顔で何を言い出すのよ!」


「……お前、先ほど本気でミチルを殺すつもりだっただろう。ミチルが機転を利かせて不快音を発生させていなければ、ミチルが死んだ可能性もある。ミチルを殺すつもりだったのだから、ミチルと私に殺されても仕方ないよな?ああ、人魚は利用価値があるから、研究機関に売ってやろうか?」


「ひ、ヒイイイイイ!!う、うわああああん!にんげんなんか、にんげんなんか嫌いよ!私達を捕まえて、研究だの、不老不死にしろだの、にんげんなんか、にんげんなんかだいっきらいぃぃ!!」


 人魚…四天王のグッピーが無差別攻撃魔法を展開した。や、ヤバい!私の眼鏡シールドは眼鏡型だから防ぎきれるか!??


「フンフンフンフンフンフンフン!!」


 あれは、かの有名なバスケ漫画の主人公、チェリーブロッサム君の必殺ディフェンス!?と一瞬意識が飛んだが、陽菜ちんが残像が残るほどの早さでグッピーの魔法を全て叩き落とした。勇者様(ひなちん)、超スゲー!!


「あ、ありえない……」


「陽菜、北條、そのぐらいにしとけ。おい、死にたくなきゃそれ飲め」


「水…?」


「魔力水だ。変化の魔法を溶かしたから、代わりの水槽調達するか池だか海に行く時間はかせげるだろ。あんたの境遇には同情するが、俺らはそいつらとは違う。そこだけ理解して、勝ち目がないケンカはすんな」


 穂積はそう言うと、厨房に戻っていった。


「王子様……?」


「!??」


 うっとりと厨房に戻った後ろ姿をずっと見つめる金魚(にんぎょ)。どうやら金魚(人魚)姫は王子様を見つけてしまったようだ。陽菜ちんにライバル出現だね。乙女ゲームにライバルキャラはつきもの。北條ミチルはいつだって陽菜(ヒロイン)ちんの味方だよ。こっそり陽菜ちんにエールを送るのでした。まあ、好感度マックスだから間に入りようがないけどね。

ようやく乙女ゲーム要素が出てきた気がします(笑)

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