推しメン様はスゴいのです
次は図書室に移動した。
「うわあ、すごいね!」
ここの図書室は、とても広くて二階建てになっている。普通の学校より広くレトロで洒落た造りになっており、私のお気に入りスポットでもある。
手芸系の本を借りに来たらしい八木睦…むっちゃんに会った。見た目こそワイルドイケメンだが、むっちゃんはとても所作が美しく女性的だ。恋愛対象は女性だが、可愛いものを好む。いわゆるオネエなむっちゃんである。
ゲームでは必死にその嗜好とオネエの本性を隠していたが、何故か今はオープンにしている。
「あ、えと……こんにちは」
「ああ、鈴木君だったかしら。アタシは八木睦よ。よろしくね」
「うん、よろしく…」
若干むっちゃんに怯んでいたが、鈴木は頷いた。流石は我が推しメン。いいやつである。
「ミチル、今日は家庭科部でクッキー作るから後でいらっしゃい。分けてあげるわ」
「マージーで!?むっちゃん大好き!むっちゃんありがとう!!」
むっちゃんのスイーツはめちゃウマなのである!しかも気前がいいむっちゃんは、いつも私に分けてくれるのであ~る!
「じゃ、アタシも家庭科室に戻らなきゃだから。後でね、ミチル」
「絶対寄るから!」
むっちゃんはクスクス笑いながら優雅に図書室を後にした。
鈴木に図書室の使用法を教えてから中を案内することにした。人が少ない図鑑コーナーを通ったときに事件が起きた。
「あ、危ない!逃げろ!!」
逃げろ、という言葉にふりむいたら、本棚がこちらに倒れてきた!とっさに逃げようとしたが、コケてしまう。
ヤバイ!!避けられない!!
「鈴木ぃぃ、逃げて!!」
せめて鈴木よ!我が推しメンよ!君だけでも逃げてくれ!!そう願いを込めて叫んだが、鈴木はのんきな声を出した。
「よいしょ」
「鈴木ぃぃぃぃ!!?」
なんと鈴木は倒れてきた本棚を軽々と止めてみせた。本棚はドミノ倒しみたいに複数が倒れており、相当な重量がかかっているはずだが、平然としている。桁外れの腕力…。
そして鈴木の裏の顔を思い出した。この程度、なんともないだろうな。流石は我が推しメンである!
「えええええ!??」
当然他の生徒達も驚いていた。
「…とりあえず、戻せばいいかな?」
鈴木から淡い光が溢れ、ドミノのように倒れた本棚がすべて元通りになった。ただし、本棚から落ちた本達はそのままだ。
「魔法…?」
「あいつ、何者なんだ??」
遠巻きに鈴木を見つめる生徒達。その視線には、少なからず嫌悪があった。
この世界には魔法がある。人間と魔族がいる。魔法が使えるのは魔族か魔族と人間のハーフである。ざんねんながら私には使えない。数年前に魔族の国と平和条約が結ばれたので敵対関係ではないが、差別は根強く…魔族は人間から恐れられているのだ。
「…………あの、北條さんごめ「鈴木すげええええ!!」
「は?」
「鈴木すげええええ!!助けてくれてありがとう!!死ぬかと思ったよ!」
「え?う、うん」
鈴木は何故か俯いているが、私は気にせず鈴木に話しかける。魔法なんて初めて見たから大興奮だ。鈴木すげぇ!手をつかんでブンブン振る。あ、つい手を握っちゃったよ。でへへ。
「鈴木スゴいね!本棚ももとの位置に戻してくれたし!ありがとう、鈴木!!」
「…………うん。北條さんが無事で……本当によかった」
ふにゃりと微笑む鈴木は、照れているみたい。そして少しだけ瞳が潤んでいた。
手を握るなんぞというセクハラをした私に、天使だ……。
「………尊み秀吉…………」
私はその尊さに、自然と鈴木を拝んだ。
「だからなんで拝むの!?」
「発作みたいなものだから、気にしないで」
「どんな発作!?しかも秀吉って誰!??」
こっちの世界にはこっちの世界の偉人がいるので、向こうの偉人は存在しません。しかし鈴木はそこをそれ以上追求せず、何かに気がついたような表情になった。私の膝辺りを真っ青になって見ている。
そして、何故かいきなり鈴木が私を抱き上げた。乙女の夢、お姫様抱っこってやつである。
「ぎゃあああああああ!??」
推しメンによるお姫様抱っこ…本来ならば喜ぶべきご褒美シチュであろうが、私は微塵も喜べなかった。なぜなら、私重い!重量が気になる!!いや、本棚を軽々支えていたから大丈夫?いやいや、無理!やっぱ重いよ!!
「す、鈴木ぃぃぃぐふっ!」
下ろしてもらおうとしたら舌噛んだ!鈴木が速い。速すぎる!絶対人類には出せないスピードで走ってるよ!無茶すんな、鈴木ぃぃぃ!!
「先生!」
鈴木は保健室に私を連れて駆け込んだ。なんでも私が初対面時に倒れた際にも運んだので覚えていたそうだ。すまんかった、鈴木!!
「あらあら~、どうしたのかしら?」
セクシーな保健の先生がニコニコしながら寄ってきた。
「か、彼女の膝から血が!」
「あら、本当だわぁ」
「え」
さっき倒れてくる本棚にビビってコケたからか。気がつかなかったのだよ。確かに私の膝から血が出ていた。
鈴木は必死だった。そして叫んだ。
「人間って、血が出たら死ぬんですよね!?」
「このぐらいでは死なんわ!」
思わずツッコミをしてしまった。どんだけ儚い生き物だと思われてんだよ!
「ん~、量によるわねぇ。北條ちゃんは足を出してねぇ。手当てするから~」
保健の先生に手当てをされ、保健室を出た。
「北條さん、今日はもう案内はいいよ。怪我もしちゃったし…」
鈴木のせいではないのだが、鈴木は申し訳なさそうに言ってくれた。
「ううん、家庭科室に行かなきゃ」
「家庭科室?」
「むっちゃんの手作りクッキーを食べずに帰れない」
むっちゃん、たぶん心配するしね。鈴木はキョトンとしていた。
「続きは明日。でも、せっかくだから鈴木君もむっちゃんのクッキー食べてから帰ろうよ」
「………うん!」
鈴木と家庭科室に行くと、むっちゃんがクッキーと紅茶を用意して待ってくれいた。
「あら、鈴木君もきたのね」
そう言いつつ、ちゃんと鈴木の分まで紅茶を用意してくれていたむっちゃん。クッキーは当然ながらめちゃくちゃ美味しかった。むっちゃんは多目に作ったらしく、他の部員さんと交換したりしている。
「んん、むっちゃん最高!」
「当然」
「あ、あの…本当においしいです。俺まで分けてもらって…ありがとうございます」
頭を下げる鈴木。むっちゃんが苦笑した。
「んもう、クラスメートなんだから気にしないの!それに、敬語もいらないわよ!さて、片付けしなきゃね」
「手伝うよ~」
むっちゃん達と洗い物をする。鈴木も手伝いを申し出たが…
「わっ!?」
「鈴木ぃぃぃぃぃ!??」
床が濡れていたのか、大量の皿を持った状態で転倒した。
皿はふよふよと浮いていたが、鈴木は顔面を床に強打した。
「す、鈴木ぃぃぃ!?大丈夫!?」
「平気だよ」
鈴木のイケメンなお顔には傷ひとつない。素晴らしき防御力である。
鈴木が指を動かすと、浮いたお皿は綺麗に棚にしまわれた。
「便利だねぇ!いいなあ!」
「そうねぇ。鈴木君は魔族のハーフなの?アタシも魔法なんて初めて見たわ」
私とむっちゃんが気楽に話しかけていたせいか、図書室の時みたいに嫌な雰囲気はなかった。和やかに話をしつつ片付けを終えて家庭科室を後にした。