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皆さん食後はきちんとお皿を返しに来ました。感心、感心。鈴木がめっちゃ睨みをきかせてるからもあるだろうな。どうでもいい話だが、人魚は廊下で食べていたらしい。あの金魚鉢、食堂に入らないから。なので特例として人魚は並ばなくていいことにした。邪魔だし。
「皆さん、ちゃんとお皿を片づけてるわん…」
「奇跡だわん…」
「いや、姐さんがすごいんだわん」
キラキラした眼差しを向けてくる犬妖精君達。
「真生様、お嬢をスカウトしてくだすって、ありがとうございやした!!今後もお嬢がこの厨房で働いてくださるように努力し努力しやす!!」
鈴木に頭を下げるピガーさん。しかし、鈴木は戸惑った様子だった。
「あの………どちらさま??この厨房にハイオークコックなんていたっけ??」
悲しむかと思いきや、ピガーさんは嬉しそうに笑った。
「お嬢のはんばぁぐで進化したんでさぁ。真生様も進化してるじゃないですか」
「…………………は?」
無言で自分の羽根と耳と尻尾を確認し、涙目で私を見る鈴木。進化したくなかったとか?首をかしげる私に、恐る恐る近寄る鈴木。
「あの、ミチルちゃん」
「うん」
「気持ち悪くない?」
「何が?」
「耳とか、尻尾とか、羽根とか……」
「綺麗だよね」
白く淡く輝く毛皮と羽毛は美しい。触っていいなら触りたいが、汚しそうな気もするから触れない。綺麗だな、とお世辞抜きで思う。
「本当?」
「うん」
「人間って、こういう魔族の特徴を嫌うんじゃないの?」
「私個人の意見としては、むしろ好ましいかなぁ。犬猫が好きな人は忌避感もあまりないんじゃない?あれだよ。普通は嫌がる不細工を好む人や太った人が好みって人もいるし。うまい例えがなくて悪いけど。あ、巨乳好きか貧乳好きかとか…」
鈴木は瞳を輝かせて私の手をとった。ひざまづいて、まるで王子様がお姫様にするみたいに手の甲にキスされた。
「!??」
「じゃあ、俺はミチルちゃんの恋愛対象になれる?ミチルちゃんは俺を嫌いにならない?」
好みのど真ん中をストライクですよ!大好きじゃあああああ!!
「いや、まあ、うん。す、鈴木の耳とかで嫌いになったりしない」
「何をしてますの、この泥棒猫!!」
「姫様!!」
「ご主人様!!」
「うぇ、うぇい??」
一瞬の間に悪役令嬢っぽい美少女が私に襲いかかり、小文吾に攻撃を防がれ、桔梗の猫パンチで吹き飛んだ。私は慌てるばかりである。皆が速すぎてついていけない。
「くっ……やりますわね!しかし、わたくしは負けなくてよ!!」
あれ、この美少女見覚えが……と思ったら、聞き覚えのあるBGMと見覚えがある背中。その背中はとても逞しく、どこかの彫像かってぐらいに美しい。背も高く、顔も整っており、美しいと言えるほどだ。ただし、女子の制服を着て、ラジカセ魔具を背負っているから台無しだ。相変わらず服がピチピチである。
「ははははははははははは!!」
そう、我が校きっての問題児である天堂乱が、天井をぶちやぶって登場したのである!!急展開過ぎてついていけないよ!
「お、お兄様!?」
おにさま?おにいさま…………お兄様!?うええええ!?天堂先輩、妹いたの!?なのになんで女装……あ、妹さんがお母さんに似てないからか。美人だが、天堂先輩とはタイプが違う。なんというか、妹さんの方が悪役顔なんだよね。
「妹よ!いきなり我が後輩に襲いかかるとは感心しないな!」
「は?この貧乏丸出しの地味が染み込んだ娘が、お兄様のご学友!??」
「天井突き破ってくんなっつってるだろうが!!こんの馬鹿乱が!!お前は何回同じことを俺に言わせれば気が済むんだ?お前の頭は飾りか?いっそ頭に物理的に刻み込んでやろうか?お前もミチルちゃんが貧乏丸出しの地味が染み込んだ娘だぁ?よく見ろ!ミチルちゃんは可愛いだろうが!お前みたいな見た目だけの残念な生き物とは違うんだよ!!可愛くて柔らかくて、いい匂いがするんだよ!性格も優しくていい子なんだよ!!俺に殺されたくなかったら、ミチルちゃんに誠心誠意謝罪しろや!このカスが!!」
す、鈴木ご乱心!天堂先輩には痛烈なボディーブロー。悪役顔なお嬢さんには踵落としをきめてしまった。なんか鈴木の耳や羽根が黒く染まりだしちゃったよ!?気配もよくない感じ!しかも鈴木からボディに痛烈な一撃をくらった天堂先輩は、うずくまっていて多分聞いていない。悪役顔なお嬢さんも、気絶してて聞いてない。
「す、鈴木ぃぃぃぃ!私は気にしてないから大丈夫だよ!よ、よしよーし。鈴木、落ち着けー。ビークール、ビークール」
あ、耳モッフモフ。こ、これは…!絹糸みたいにサラサラ!超触り心地いい!なでなで~。はわわわ、これは癖になる!ずっと触っていたいかも!
「………………………」
幸いにも鈴木のお怒りは鎮まったらしい。
「はっはっは。流石は真生。いいパンチだったぞ!ん?真生に北條君。こんな所で不純異性交遊はいかんぞ」
「はい?」
ふじゅんいせいこーゆー?なんとなく胸元に視線を落とすと、ささやかな我が乳の谷間に鈴木がいた。鈴木は真っ赤になってされるがままだ。耳や頭を撫でまわしやすいようにしていたら、鈴木を抱きしめていたらしい。
「俺、ミチルちゃんになら「鈴木いいいいいいいい!??いやいや!自分大事に!その、あの、ごめんなさい!鈴木いいいいいいいい!!」
そして、私は逃亡した。天堂先輩がなんで魔王城にとか、悪役顔なお嬢さんが誰なのかとか、全部どうでもよかった。
ママン!ミチルは破廉恥な娘になってしまいました!鈴木も一言言ってくれよもおお!鈴木いいいいいいいい!!