サポート眼鏡の魔王城デビュー
鈴木の転移で(多分)魔王城にやってきました。めっちゃ暗雲がたれこめている。雰囲気がある。ここは危険だと本能的に感じた。
しかし、バックヤードは普通だった。これ、絶対見たらダメなやつである。関係者以外、絶対立ち入り禁止的なやつなのである。
どんでん返しな扉の向こうは別世界。普通に城の内装綺麗だし、歩きやすい。こう…いかにも朽ちた城って雰囲気が微塵もない。普通のお城だ。
「ミチルちゃん、俺の権限が有効な範囲はフリーパスにしておいたから。時間があったら、俺の部屋に遊びに来てね」
綺麗な腕輪を渡された。二の腕に絡まり、ユルユルだったのにぴったりになった。
「いや、仕事時間中は無理」
行ってみたいけど、仕事は仕事ですからね。私、バイトしに行くんだからね。
「…休憩時間は?」
「………ならいいけど」
鈴木に渡された、通行証だという腕輪をちょっと鑑定してみた。
【魔王城の腕輪】
【魔王に認められた者だけが身につけることができる。サイズは自動で調整される。認証機能があり、本人以外が装備すると爆発し、装備できない。魔王城やダンジョンの隠し通路の隠蔽魔法を無効化し、あらゆる扉を解錠できる魔法がかかっている。紛失対策として、持ち主の意思で召喚可能。この腕輪は特別仕様で、さらに転移魔法も刻まれている。本来魔王城への転移は不可だが、この腕輪を使った転移の場合は可能。現在の魔力での転移可能回数は六回】
「……………鈴木、この腕輪…」
「なくさないでね?仕事場に入れないと困るから」
「ソーデスネ…」
いや、召喚機能があるから無くしようがないよ。
鈴木に案内され、厨房に到着した。厨房ではあわただしく小柄なわんこが働いている。きゃわゆい。
「おい」
「へ、へい!真生様!?どどどどうなさいましたか!?」
責任者らしき豚の獣人が走ってきた。でかい。横にでかい。身長は私より少し小さいぐらい?すごい迫力だ。
「彼女は今日からここで働く。俺の食事は彼女が作る。彼女の機嫌を損ねるな。彼女が貴様のせいで辞めた場合…楽に死ねると思うなよ?」
「鈴木ぃぃぃぃぃ!!おま!ちょ!バイト初日から同僚というか、職場の上司を脅さないでよ!もう、私仕事するから鈴木は着替えてきなよ!」
鈴木を厨房から追い出した。ここ、制服とかあるのか豚の獣人さんに聞こうとしたら、後頭部が目に入った。
「なにとぞ、なにとぞこのチーティスの分も作ってください!!お魚が好きです!肉はもっと大好きです!!」
チーティスさんに了解しましたと返答して、厨房から出ていただいた。四天王なんだから、軽々しく土下座しないでいただきたい。厨房スタッフからドン引きされているじゃないか。めちゃくちゃびびられているじゃないか。
とりあえず、ちゃんとご挨拶することにした。もはやフォローしようがないが、私はちゃんと仕事がしたい。
「…初めまして。北條ミチルと申します。本日よりこちらで働かせていただきます。よろしくお願いいたします」
「ミチル様の従魔の桔梗ですにゃ!ミチル様のお手伝いしますにゃ!よろしくお願いいたしますにゃ~」
二人で頭を下げると、豚の獣人さんが慌ててやめてくれと言った。まあ…なんかあったら責任とらされそうですもんね。コレを着ろと服を渡された。豚獣人さん達と同じコックコートだ
「ここにある食材は好きなもんを使ってくれ。食料庫にもストックがあるから、足りないもんがあれば遠慮なく作ってくれ。解らないことがあれば俺に聞いてくれ。俺はピガーだ。」
「はい」
さて、何を作ろうかな。眼鏡を使えば見たことない食材でも問題ない。
チラッと周囲を見たら、せっせと皮剥きをするわんこさん達。彼らは獣人ではなく犬妖精と呼ばれ、魔族ではなく桔梗と同じ妖精族なんだそうな。
「おい、サボってんじゃねぇぞ!!」
ピガーさんがちまちま皮を剥いていた犬妖精さんを蹴り飛ばした。
「何するんですか!」
「あ!?こいつは他に比べて剥くのがおせぇ。サボってんだよ!真生様のメシをてめぇが作んのは真生様のお望みだからしかたねぇが、厨房のやり方に口出しすんな、小娘が!!」
うおお、怖い!けど、ここで負けるわけにはいかない!
「ですが、この子は他のところで活かせる子です!調理スキルがある子と差があるのは仕方ないですし、この子は剥くのが難しい野菜を剥いているから仕方ないですと思います!!」
そう、嫌がらせなのか剥くのが難しい野菜だと眼鏡が表示している。犬妖精君はしくしく泣き出した。桔梗も駆け寄り、犬妖精を癒しているらしい。
「…ご主人様、こいつブッ飛ばしていいにゃ?」
「駄目」
桔梗の強さがわかるのか、明らかに怯えた様子のピガーさん。うちの桔梗はなんでこう、血の気が多いのか。
「解決策を提示します。少しお待ちを」
そう言って腕輪で転移した。
「お待たせしました。まずはコレ!」
「きゅうん?」
「これは砥石っていって…」
犬妖精君に砥石の使い方を教えてあげた。彼は自分や仲間のボロボロな包丁を次々新品みたいに変えていく。
「この子には鍛冶スキルがありますが調理スキルはありません。他の子と同じように仕事できないのも仕方ないのです。そこで、さらに作業効率を上げるアイテムを持参しました!」
百円均一で購入した、ピーラー!これで不器用でもスルスル皮剥きできちゃうよ!
「わああ、スゴいですわん!スルスル剥けるわん!」
ピガーさんも試してみて、納得したようだ。
「料理長…ボク、サボったりはしてませんでしたが皆より手が遅いです。ですが、頑張りますわん!」
「そうか。俺も悪かったな。嬢ちゃん…あんたにも謝罪する」
ピガーさん、わりといい人っぽいな。自分の非を認めるのってなかなかできない。後で、実は『鍛冶』と『家事』の聞き間違いのせいだった事を教えてもらい、犬妖精君を別部署に移す話も出たが彼は厨房の調理器具メンテ担当として居場所を獲得したのでお断りしていた。
ついでに彼らのスキルと熟練度を考慮して割り振りをしたら、彼らの仕事が終わったらしい。
「俺ら、後は焼くか茹でるだけだ。手伝うか?」
「人間の料理、興味があるわん!」
「お手伝いするから、味見したいわん!」
「いいよ~」
と言いながらもまだメニューを決めてない。お肉にしようかなぁ。チーティスさんが肉アピールしてたし。私が肉を手に取った瞬間、激しく厨房のドアが叩かれた。
「おい!メシよこせ!!」
「ひいぃ…ま、まだ時間外で……」
犬妖精君達は怯えて丸くなり、ピガーさんもかろうじて対応しているが明らかに怯えている。相手は5人。スキャンで確認。ふむふむ、下っぱの兵士か。
「ああん?てめぇらが平穏無事に過ごせてんのは、俺らが守ってやってるからだろうが!!」
「ひいぃ!?」
「ご主人様、今度こそアチシの出番にゃ?」
「桔梗と小文吾はフォローよろ~」
私もただ黙って眺めていたわけではない。魔力をためていたのだ!!飛び出した瞬間に、速攻で決める!!
「メガ☆ビーム!!」
一撃でした。
固まってたし、三下だしね。
「ねえねえ、おじさん達ぃ。私、真生様のお気に入りなの。だから、人間なのに腕輪もらったの。私の機嫌を損ねたら……どうなっちゃうかなぁ?」
首をかしげてぶりっこしながら嫌みたっぷりで話しかけた。黒焦げアフロな三下達が逃げようとするが、桔梗と小文吾がそれを許さない。
「ご主人様の仕事を邪魔するにゃんて……ゆるさにゃい!!」
「ご主人様への謝罪を要求します」
そっち!?繋がってるから通じたのかなぁと思ったら、そっち!??まあ、いいけどさ。まだ用事があるからね。
うちなラブリーモフモフズに土下座させられている三下達に用件を伝えた。
「用件は三つ。食事時間を守れ。調理スタッフに手を出した馬鹿はあんたらみたいに私が倒す。以上二つを兵士全員に伝達しろ!さもなくば、貴様らの食事はない!!」
「わ、わかりましたああ!!」
特に異論はないらしく、彼らは逃げていった。うまく伝わるといいけど。最悪鈴木にお願いしようかな。
「ありがとうございました、ミチル様!!」
「!?」
ピガーさんや犬妖精君達がキラキラした瞳で私を見る。
「人間なのにあんなにお強いだなんて…しかもお優しい!真生様が惚れちまうのも無理もねぇ!」
「いやいや、友達だから!」
「おお、ご友人でしたか!あっしとしたことが、早とちりしちまいましたよ!!」
ピガーさんの態度が違いすぎるんですが!?戸惑う私に、桔梗が魔族あるあるを教えてくれた。
「ご主人様の偉大さがよーやく伝わったのにゃ!魔族は強いのが偉いのにゃ。弱いやつはダメなのにゃ。だからピガーもご主人様が超スゴいって認めたのにゃ!」
「ええええええ…」
なんですかい、その脳筋的方程式は。文化の違いってやつかねぇ。
「ミチル様、あいつら機嫌が悪いといつもぼくらを殴るわん!」
「ミチル様、ありがとうございましたわん!」
私に尻尾をフリフリしながらお礼を言うきゃわゆい犬妖精君達を見て、もっとやっとけばよかったと思いました。
「…ミチル様はやめて」
とりあえず、うちの桔梗はともかく職場の同僚にまでミチル様はやめていただきたい。
犬妖精君達は相談し、決定した。女王様?アマゾネス様?と却下したい単語が出ていた。やめてくれ。
『じゃあ、姐さんで』
「鈴木いいいいいい!?」
部下にどういう教育してるんじゃあああい!!残念なことに、犬妖精君達の中で姐さんは確定してしまった。
ママン、ミチルは今日魔王城デビューして犬妖精君達から姐さん呼ばわりされるようになっちゃいました。




