うちの子、可愛いです
さて、じゃあ帰るのはいいけど地面に倒れたままの猫科獣人をどうしようかと考えていたら、セクシーなチーターっぽい獣人のお姉さんが駆け寄ってきた。
「真生様、ご無事でしたか!」
なんか見覚えあるなぁ…。誰だっけ?
「無事だよ。こいつら適当に魔族領に転がしといて」
「流石は真生様!足手まといが居ても猫マオ族の精鋭相手に無傷なんて!」
うん、こいつ私の敵だな。誰が足手まといだ、誰が。確かこのチーター女、四天王のチーティス…今日鈴木に生肉を渡した馬鹿だ。
「アチシのご主人様を馬鹿にするにゃああああ!!」
人間サイズに巨大化したうちの可愛い猫妖精さんが強力な猫パンチをチーティスにかました。チーティスが吹っ飛んだ。
チーティスが、吹っ飛んだ!??
うちの猫妖精ちゃん超強えええええ!!
「ここに転がってる馬鹿はご主人様がやっつけたのにゃ!しかも優しいご主人様は怪我まで治してあげたのにゃ!ご主人様に謝るにゃ!!」
「貴様……」
チーティスが戦闘態勢になる。いざとなれば、私が猫妖精ちゃんを守らねばなるまい。いつでもビームを撃てるように魔力を練り上げる。
「チーティス、お前が悪い!」
鈴木の拳骨がチーティスの頭に炸裂した。うわあ、超痛そう!
「いったああああい!?」
「そこの猫妖精ケットシーの言った通りだ。非礼を詫びよ。お前が今後も俺に仕えるつもりなら、な」
鈴木がめっっちゃ怒ってる!頭をおさえて涙目だったチーティスは、即座に私の足元に来て土下座した。
「大変申し訳ありませんでした非礼を心からお詫びいたしますどうか許していただけませんでしょうかお願いいたします」
ノンブレスで言い切った。流石は早さのチーティス。
「ええと…うちの猫妖精ちゃんが殴ったし、それでおあいこってことにしましょうか。私は北條ミチルです。よろしくね」
「…………天使か……」
「人間です」
むしろ、暴言に対し暴力で報復したこっちに問題があると思うよ。
「ご主人様、アチシ頑張ったのにゃ!」
子猫サイズで私の足にスリスリする猫妖精ちゃん。きゃわゆい……きゃわゆいけど、ちゃんと言わなきゃだね。猫妖精ちゃんを抱き上げた。
「私のために怒ってくれたのは嬉しいけど、いきなり暴力はダメだよ。ちゃんと最初は言葉で文句を言わなきゃ」
「うにゃ…ごめんにゃさい…」
「いいのよ~。わかってくれれば」
可愛いうちの猫妖精に頬擦りする。あや?さっきと違って毛がパサパサしてないぞ?
「にゃふ~、くすぐったいのにゃ~ん」
と言いながらも尻尾はゆったりパタパタ揺れているからご機嫌なのにゃん!
「……羨ましい」
可愛いにゃん…猫妖精ちゃんに夢中で、鈴木が悲しげなのには気がつかなかった。
「そんなに可愛がっておられるのに、名をつけてないのですか?」
「名前?そういえば聞いてなかったね。私がつけるの??」
猫妖精ちゃんは頷いてキラキラと期待した様子だ。後でチーティスから従魔に名前を与えるのは、主が従魔を認めた証で大切なものなんだって教えてくれた。
「隷属の首輪をつけた馬鹿は名前なんてくれなかったにゃ。アチシ、ご主人様に名前をつけて欲しいにゃ!」
「んんん……」
真っ黒な毛並みに、青と緑を溶かしたような不思議な色あいの瞳。
「桔梗…はどうかな?」
花の名前でもあり、青色の名前でもある。女の子だし、いいんじゃないかな?
「桔梗…アチシ、桔梗にゃん!」
本人も気に入ったらしく、うちの猫妖精ちゃんは桔梗ちゃんになりました。
「ミチルちゃん、せっかくだから桔梗に首輪を買ってあげたら?野良だと勘違いされると誘拐されかねないし」
「買う!」
即決だった。うちの子が誘拐されるなんて耐えられない!
鈴木の転移魔法で従魔グッズの専門店に連れていってもらった。倒れてた猫科獣人達は鈴木の部下?が適当に運搬するらしい。
従魔グッズの専門店……そこは、夢の世界でした。
「うああああ!桔梗可愛い!これ着て!あとこれも!」
「ご主人様…首輪は?どんだけ買う気にゃ!?アチシ、こんなに着れないにゃ!」
「ミチル様、こちらはいかがですか!?」
チーティスさんもやはり女子。買い物が好きらしい。そして、桔梗が可愛いから仕方ないの!
「に、にゃああああ!?さらに増えたにゃん!?」
首輪は白いレース付きリボンに青い雫型の石がついたやつに一目ボレ。自動浄化作用と主認証魔法付きだって。
「ご主人様、アチシ作業着が欲しいにゃ」
桔梗がメイド服を持ってきた。当然お買上げ。リアルシル□ニアファミリーです。
桔梗のお洋服はお出かけ用が三着、普段着五着。寝巻きはいらないらしく買わなかった。
「あ、支払いどうしよう」
「俺が「わたくしが!本日無礼を働いてしまいましたし、真生様のお弁当の残りもありますから!」
鈴木を遮って猛アピールするチーティスさん。
「いや、流石にあの程度の暴言ではたかるわけには……」
「だから俺「いえいえ!わたくしも色々勧めてしまいましたから、是非払わせてください!」
困った。どう考えても高額だからなぁ…。チーティスさんは二度も遮られたことで怒ったらしい鈴木にコブラツイストをされてしまった。この隙になんとか支払ってしまおう!ごめんね、チーティスさん!
でも物々交換できそうなものなんて……あ、こっちで人族のお菓子って珍しいんじゃないかな?
「あの、これで支払いってできますか?」
ラッピングしたクッキーを出した。店主さんはクンクンと匂いを嗅いだ。店主さんは熊の獣人さんかなぁ。すごーくでかい。
「………こりゃ、なんだ?」
「人族のお菓子で、クッキーといいます。蜂蜜たっぷりのハニークッキーです」
「蜂蜜!??」
店主さんの瞳が輝いた。なんか可愛い気がしなくもない。めっちゃよだれが垂れている。そうか、熊さんだから蜂蜜好きなんだなぁ。
「確かに、これは蜂蜜の香り……」
めっちゃクッキーの匂いを嗅いでいる。
「いいのか!?こんな貴重な品、マジでいいのか!??」
むしろ、私のクッキーごときでいいのだろうか。材料費、数百円ですが。そして、むっちゃんの菓子の方が美味しいよ?
「味見してみて大丈夫なら、それと交換「うめええええ!よし!好きな商品持っていけ!!」
熊の店主さんは一枚クッキーを食べると気に入ったらしくうっとりとクッキーを眺めている。
「え、ええええ…」
どう考えても釣り合わないと思うんだけど。オロオロする私に気がついた熊の店主さんが話しかけてきた。
「嬢ちゃんがこれを作ったのか?」
「はい」
「魔力が強いやつが、優しい気持ちで作ったものよりうまいもんはねぇんだよ。俺はそこも含めてこれが価値があると判断した。これは、そうそう手に入るもんじゃねえ。店にも売ってねえだろ?」
「……そう、ですか」
「ほれ、包むからよこせ」
「お願いします」
品物を渡すと、鈴木にお願いして自宅に戻った。せめて、心をこめて作ろう!
「お待たせしました!」
「んあ?」
手にはホカホカのホットケーキ。私のお気に入りである、フルーツ蜂蜜がけ。フルーツ果汁入り蜂蜜も持ってきたよ!
「店主さんのために作った、特製ホットケーキです!クッキーだけじゃ足りないから、作ってきました!こちらでは珍しいんじゃないかなってフルーツ蜂蜜も持ってきましたよ」
「うおお……」
店主さん、手が震えすぎだよ!そして、ホットケーキを丁寧に切り分けて、ひとくち。
「うんまああああああああああああああああああああああああああああああああい!!なんだこれ、うますぎる!蜂蜜も果物の匂いで爽やかだし、なによりアツアツでフカフカで、うめえええええ!!うんめえええええええ!!」
熊から山羊になってませんかね、店主さん。確かにうまく焼けたけど、普通のホットケーキだよ。
「お茶どうぞ~」
ミルクティ(もちろん蜂蜜入り)を渡すと、また騒ぐ。大袈裟すぎというか…鈴木にも伝わっちゃっていたんだろうか。
『鈴木は何が好きかなぁ』
『おいしいって言ってくれるかな?』
『鈴木も食べるから、丁寧に作らなきゃ』
それ伝わってたら、すげぇ恥ずかしい。鈴木をチラ見したら、穏やかな笑顔でした。どっちだ!?どっちなんじゃい、鈴木いいいいいい!??
感激した店主さんは可愛らしいポーチをおまけでくれた。黒ベースで白いリボンとレースが大人可愛い。
「これは試作品でな。女冒険者に『可愛い大容量バッグ』が欲しいと言われて作ったやつだ。空間魔法、時間停止はもちろん自浄魔法付き!」
「そんなとんでもないポーチ、いただけません!」
しばらくの攻防の末…結局私は熊の店主さんに負けてポーチを受け取りました。お店を出てトボトボ歩く。そういや、家はどっちの方角なんだろうか。
「ご主人様、熊の店主さんは満足してたから、気にしにゃくていいと思うにゃ」
「うん……」
うちの桔梗が慰めてくれる。可愛いし、なんていい子なんだ。小文吾も影から姫のほっとけぇきにはそれだけの価値がありますぞと慰めてくれた。うちの子、優しい。
ふと地面を見たら、チーティスさんが土下座していた。どうしたのだろうか。まさか鈴木に絞められ過ぎてその姿勢で気絶!??
慌てて駆け寄ると、幸いチーティスさんは気絶していなかった。そのままの姿勢で叫んだ。
「ミチル様わたくしめにも、わたくしめにもほっとけぇきをお恵みください!わたくし、なんでも狩って参ります!なんなら昨日の肉以外にも狩って参ります!ですから、なにとぞほっとけぇきをお恵みくださぁぁい!!」
土下座して懇願する四天王に、皆さん興味津々ですね。泣いていいかなぁ…。
「チーティスさん……これからホットケーキ祭りです。鈴木!皆でホットケーキ食べよう!」
とりあえずチーティスさんを立たせて、鈴木に話しかけた。
「え!?いいの?やったあ!」
鈴木もホットケーキが食べたかったらしく、満面の笑みで我が家へ転移したのだった。