狙われたみたいです
挙動不審でも帰りは一緒なわけで、ひっついたら上半身裸な鈴木を思い出して鈴木と叫び出したくなった。鈴木に全神経が集中しまくっていたから、気がつかなかった。
鈴木が道を逸れたことに。
鈴木の様子がおかしかったことに。
いつの間にか周囲の音が消えていたことに。
そもそも鈴木の半裸に動揺しすぎて、返り血が誰の血かって確認すらしていなかった。
鈴木がこぐ自転車が止まった。そこで、私は初めて見知らぬ場所に到着したことに気がついた。
「ミチルちゃんは俺が守るから、大丈夫」
「うん?」
そこでようやく自分が包囲されていることに気がついた。見た目からして、私たちを包囲しているのは全員魔族らしい。魔族とは、この世界で獣や幻獣の因子を持つ人に似た存在を言う。
「鈴木真生!今日こそ貴様を倒S「メガ☆ビーム!!」
馬鹿め!最後まで喋れると思うなよ!?どこの誰だか知らないが、鈴木の敵なのは間違いない。つまり全員ブッ飛ばぁぁす!!
「メガ☆ビーム!」
「ぐはあ!」
「メガ☆ビーム!!」
「ぬああ!」
「メガ☆ビーム!!」
「ま、曲がるだとおおお!!」
メガ☆ビームは追尾式なんですよ。残念でしたね。避けても曲がります。
そんなわけで、全員倒しました。
「…以前も思ったけど、ミチルちゃん強いよね?」
「ふっ、ママンのせいでトラブルに巻き込まれ続けていたからね!運動は苦手だけど、修羅場は何度もくぐってるよ!」
毎週誘拐されていた時期もあるぐらいである。毎回自力で逃げたり、護衛さんに助けてもらったよ。こっちのペースに乗せさえすれば、超☆眼鏡で解決できるしね。
「そうなんだ…」
「鈴木~、魔族の人って人族の公用語わかんないよねぇ。猫科獣人が多いから、猫語で大丈夫かな?」
「え?うん」
猫語でお手紙をしたためる私。ちなみに内容は『お前の恥ずかしい秘密を知っている。例えば……だ。他にもネタはたくさんある。全世界に公表されたくなければ、鈴木真生と私に関わるな』である。
猫科獣人はわりと好きだが、鈴木に害意のある奴は私が成敗してくれるわ!
「……流石はミチルちゃん。頼もしすぎる」
「え?そうかなぁ」
正直女子として頼もしすぎるってどうよと思うが、鈴木がご機嫌だからいいことにしよう。
昼の返り血は彼らが原因だったらしい。よく見たら、確かに怪我してた。苦痛を与えるやつにしといて良かった。確か魔族って人より少ない出血で死ぬし、傷つきにくいけど治りにくいんだよねぇ。
何人か酷い怪我して血が滲んでいたから、持ってた自家製傷薬で治してあげた。作るのがハイパー面倒くさいのでめったに使わないが、酷い怪我だし今回の事が原因で死んだら寝覚めが悪いから仕方ない。
当然膝の怪我もこの薬で治せたが、この程度で使うべきではないと思っている。この薬の作り方を教えてくれたむっちゃんママも、重症か使わざるをえない状況か、あるいは怪我した魔族に使ってあげてって言ってた。
でも、そうか。鈴木は多分魔族として生きてたから私の怪我に焦ったんだね。魔族って丈夫だか脆いんだかわかんないなぁ。
「にゃあ………」
魔族の下から黒い子猫が出てきた。生きているのが不思議なほど傷だらけな猫だ。
「おいで、治してあげる」
差し出された手に、子猫はビクリと震えた。んんん…ぶっかけるわけにもいかないし……と考えながら固まっていたら、力尽きた子猫が倒れた。慌てて薬を使う。幸い傷が塞がったから、まだ生きてる。この薬は死んだものには効果がない。
「…………………」
しばらくして子猫が起き上がった。にゃあと鳴くと、私の側にきてスリスリしていた。首輪が嫌なのか、めっちゃ後ろ足で蹴っている。
「隷属の首輪か」
鈴木の言葉にスキャンしてみると、確かに首輪は『隷属の首輪』であるらしい。鈴木が無造作に破壊した。い、いいのかな?まぁ、字面からもいいアイテムではなさそう。
詳細を確認してみた。
【壊れた隷属の首輪】
【首輪を装着された者は装着させた者に服従しなくてはならない。今は壊れており、ただのゴミ】
うん。いいアイテムではなかった。グッジョブ、鈴木!!
「お前は自由だ。どこへなりと行くがいい」
「にゃーん」
「可愛い可愛い子猫さんや。もう好きな所へ行きなさい」
ナデナデしたら、毛がパサパサしていてかわいそうだった。なぜかにゃんこは私を見て必死に何かを訴えている。
「にゃーん」
「………ミチルちゃんは命の恩人だから、お仕えしたいって」
猫語がわかる鈴木、素敵。
「いやいやいや!せっかく自由になったんだよ!?」
「にゃう、にゃーん」
ぐうっ!やめて!私、捨て猫とかうっかり拾っちゃってちゃんと引き取り先を見つけたものの、情が移って後で号泣しちゃうタイプだから!そんな捨て猫みたいな瞳で私を見上げるのはやめてくれ!
「どうしてもミチルちゃんに仕えたいって。せめてご恩を返したいって言ってるよ」
なんと健気な猫さんなんだ!可愛い!可愛すぎる!
「………うちの子になるかい?三食昼寝とブラッシング付きだよ」
「にゃう!?にゃああ!?」
「嬉しいですが、ナゼ!?恩返しにはなりませんよね!?だって。まあ、ミチルちゃんがその気になったんだから、契約しちゃえば?」
「にゃお~ん!」
私と子猫ちゃんが柔らかな光の粒に包まれる。子猫ちゃんと『繋がった』という感覚があった。
「ご主人様!アチシ、これから頑張ってお仕えしますにゃ!」
あれ?子猫ちゃんが何故か直立している。そして、背中に妖精さんみたいな羽がある。
「うん?よろしくね??」
この子は猫じゃないの?戸惑う私に鈴木が説明してくれた。
「わりと高位の猫妖精の幼体だね。ミチルちゃんの護衛兼メイドにぴったりじゃない?」
「す、鈴木いいいい!おま、わかってたんなら教えてくれてもいいじゃんかあああああああ!!」
「ご、ごめん。ミチルちゃんなら見ればわかるのかなと思ってた」
「毎回毎回なんでもかんでも自動でスキャンしないから!プライバシーとかあるし、説明が表示されっぱなしは色々見えにくいし!!」
昔は表示されっぱなしで顔が見えなかった人なんかもいた。今は視界がうるさくなるのも嫌だから見たいときだけ見てるのである。
「そうなんだ」
鈴木によると、猫妖精はどちらかというと猫より妖精に分類される生き物で、知能も高く手先も器用であるために高位の魔族が従魔にしたりするらしい。
本来は私みたいに互いの同意の上で契約するが、近年では捕獲して無理矢理隷属の首輪で奴隷として使う輩がおり魔族の社会問題としてとりあげられているらしい。だから鈴木的に破壊しても問題ないんだそうだ。
「さて、結界割るね」
ガラス食器が割れたような音と共に世界が一変した。見知らぬ場所からいつもの通学路に戻ったのだった。気がつかなかったけど、途中から結界に入っていたそうだ。簡単に割るとか、流石鈴木。無駄にチートである。




