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肉を焼けば、いい匂いがする。香ばしい、素敵な匂い。匂いがすれば、誰かが気がつく。そして、先生にチクるまたは先生が気がつく。
「ゴルアアアアア!裏庭で焼き肉してやがる馬鹿は誰だあああああ!!」
「!??」
たくましきゴリラ……にそっくりの古里先生。アダ名はゴリ雄。そのゴリ雄が爆走していた。
「ミチル、こっちだ!」
陽菜ちんに手を引かれて走る。鈴木はゴリ雄を陽動しようとしたが、ゴリ雄は私たちをターゲットにしたらしく、一直線にこちらへ向かっている。
「くっ…」
「陽菜ちん、私を置いていって!」
「ミチルを見捨てるなんてできない!叱られる時は一緒だ!」
そんな時、背中にラジカセ的な魔具を背負った男性が現れた。その背中はとても逞しく、どこかの彫像かってぐらいに美しい。背も高く、顔も整っており、美しいと言えるほどだ。
ただし、女子の制服を着て、ラジカセ魔具を背負っているから台無しだ。ちなみにうちの制服は男子が学ランで女子はセーラー服だ。でかいからけっこうピチピチである。
「ははははははは!女生徒を虐める悪徳教師め!この風紀部部長、天堂乱が相手になるぞ!」
「げっ!?天堂!??」
ゴリ雄が逃げようとするが、時すでに遅し。
「先生はお疲れゆえにイライラしているのだろう。我が癒しの歌で浄化してくれよう!」
「や、やめ………」
多分ジャイアン並みの怪音波が流れ、ゴリ雄は泡を吹いて気絶した。幸い私は陽菜ちんの遮音結界に避難したので無事だった。
陽菜ちんのスキルは『全知全能』だったはずだが『器用貧乏』にランクダウンしている。本人にそれとなく聞いたところ『努力もせず習得ができるスキルなんて人をダメにするからどうにかした』とのこと。
「おや、先生は疲れていたのだな」
いや、あんたの歌がとどめだったんだよと思ったが、黙っておいた。
「こんなところで寝ていては、風邪をひいてしまうな」
先輩はスカートから毛布を取り出しそっと先生にかけてあげた。
以前先輩にスカートから出したジュースをもらったが、生温かかったので、きっと毛布も暖かいに違いない。
「二人とも、無事か?」
「ありがとうございました」
「礼を言う」
二人で頭を下げた。
「うむ。喉は乾いてないか?ジュースを……誰かが我が助けを欲している!さらばだ!」
先輩は走り去った。ジュースを渡されなくて良かった。以前は何も知らない穂積にあげたりしていた。穂積、ごめん。
天堂乱。彼もまた、攻略対象である。学年はひとつ上の先輩だが、1年留年している。
彼は他キャラとは逆で、素がおかしい。しかし関わるほどに案外普通であると思ってしまう、恐ろしいキャラである。
女装にもちゃんとした理由がある。彼の母が死去した際に、悲しむ父を慰めるため母に似た天堂乱が女装したのだ。父は彼の気遣いに元気になったが、今度は息子が女装にハマってしまい頭を抱えるのだった。
ちなみに彼は風紀『部』であり、風紀『委員』ではない。彼の物差しで風紀を乱すものを粛清している。
基本害はないが変人で変態…それが天堂乱である。
しばらく天堂先輩を見送っていたら、陽菜ちんがポツリと言った。
「ミチルは、豊臣秀吉を知っているのか?」
「…織田信長の家来」
「徳川家康」
「武田信玄」
「上杉謙信」
私と陽菜ちんは、ひたすらに『日本の偉人』を言い続けた。
「ミチルにも日本で暮らした記憶があるのか?」
「うん。まさか大好きなゲームの世界に転生するとか思わなかったよ」
「ゲーム?」
「うん?」
陽菜ちんはゲームを知らなかった。前世では剣道に全力で青春を費やしていたらしく、ゲームをしない子だったらしい。
穂積やむっちゃんが中途半端に攻略されていた謎がとけた。陽菜ちんはあくまでも普通に接して普通に仲良くなったのだ。
「…陽菜ちんにお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「鈴木がもし…万が一…いや、億が一魔王になっちゃったら…殺さないで止めてほしい」
「…わかった。鈴木は友人だからな。私も最善を尽くすと約束しよう。でも、ミチルが居れば鈴木は魔王になんかならんと思うぞ」
陽菜ちんは勇者なので、鈴木ルートは勇者と魔王が戦うことになるのだ。
陽菜ちんは気休めのつもりなのだろうが、とても嬉しかった。
「うん!鈴木を魔王になんかしないよ!」
「しかし、魔王を止める……か。ミチル、私のステータスを見てくれイケると思うか?情報撹乱を外したから見れるはずだ」
お言葉に甘えて、眼鏡☆スキャンを発動した。
【姫宮陽菜】
種族:人族?
職業:勇者 レベル無限
:女子高生 レベル50
称号:無敵の冒険者
:無敗の女帝
:穂積晃太の婚約者
:転生者
:神の愛し子
スキル:器用貧乏
(任意で全知全能に変更可)
光魔法:レベル無限
聖魔法:レベル無限
結界魔法:レベル72
剣術:マスター
他にも色々あったが、ナニコレすげぇ。
「…陽菜ちんはこのステータスで公務員になるつもりなの?」
「正直冒険者の方が稼げるんだが、晃太が許してくれなくてなぁ…」
「………そうね」
穂積は過保護だから許さないだろうね…。だから陽菜ちんが稼ぐのに反対なのかもしんない。このステータスなら魔王にも勝てそうだ。
「これなら鈴木にも勝てそうだけど、なんで光と聖魔法はカンストしたの?」
「ああ。最初は全知全能をつけたままだったし、私は穂積家の照明と救急担当だからな」
つまり、穂積家で光魔法を毎日使う。さらに穂積家のちみっこの怪我を癒していた。そこにチートスキルの全知全能が作動した結果、カンストしたわけだ。
剣については前世から才能があり、今も鍛えているそうな。
「お、おう…」
「ミチル、私はミチルの味方だ。困ったことがあれば、私に言うんだぞ」
「陽菜ちん、ありがとう!」
私達が友情を確かめあっていたら、鈴木が来た。
「す、鈴木いいいいいいいいいいいいいいいいいい!??」
何故か血塗れの鈴木。鈴木が怪我したのかと慌てて鈴木の服を剥ぎ取るが…傷はない。下か!?とズボンを除去しようとしたら止められた。
「み、ミチルちゃん!?嬉しいけどダメだよ!こんな所で脱がさないで!」
「ミチル、鈴木は怪我をしてないぞ。すべて返り血だ」
陽菜ちんが聖魔法の応用で鈴木についていた血を綺麗に浄化してくれた。
その結果、半裸の鈴木が私に押し倒されたあげく、ズボンを脱がされかけているという状況になっていたことを認識した。
「鈴木いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?ごめんなさああああああああい!!」
「えっ!?み、ミチルちゃん!?」
私は鈴木から逃げた。全力で逃げた。その日はずっと挙動不審となる私であった。