油断していました
清々しい朝。いつもより1時間早く目が覚めた。今朝は鈴木と朝食の予定だから、早く作ってしまおう。我ながら楽しみすぎて目覚ましより早く起きちゃうなんてと苦笑する。
「お早いお目覚めですな、姫」
肩に白い小鳥姿の小文吾がとまる。小文吾は姿こそ小鳥だが、鳥目ではないらしい。
「なんか早く目が覚めちゃった。あ、鈴木が来てないか後で見に行ってくれる?」
「承知。マスターが来たらすぐ姫にお伝えいたします」
「あ」
今すぐじゃなくてよかったのに、小文吾は窓をすり抜けて出ていった。
そしてすぐ戻ってきた。
「小文吾、鈴木もまだ来てないだろうしあと30分ぐらいしたら見に行ってくれる?」
「姫、その必要はありませんぞ」
「………ま、まさか………」
いや、そんなはずはない。現在朝5時。そ、そんなはずはない。
「マスターはすでに来ておりました」
「鈴木ぃぃぃぃぃぃ!??」
「姫、早朝から近所迷惑ですぞ」
「ごめ、でもどうしよう!!私着替えてすらいないけど!??」
小文吾が首をかしげた。
「問題ありません。マスターが勝手に常識外の時間に来ただけでございます。ゆえに、姫に非はございません。ゆるりと支度をなさいませ。マスターは姫の朝食が待ちきれずに来たそうですぞ」
「き、着替えたらご飯はまだだけど、呼んできてくれる?」
「かしこまりました」
素早く着替えて髪は面倒だからささっとひとつにまとめポニーテールにした。
昨日下ごしらえしてあるから、そんなに時間はかからないだろう。冷蔵庫から食材を取り出していると、インターホンが鳴った。
「小文吾、開けて~」
ん?いや、無理か。小文吾は鳥…と思ったらガチャリという音がしてドアが開いた音がした。
「お、お邪魔します…」
「そこ座って。ごめんね、今作るから」
小文吾は器用にも足で解錠したらしい。鍵に細かい傷がついてしまったと謝罪された。目立たないし問題はない。
「お手伝いありがとうね」
ひとさし指で撫でたら、小文吾は喜んでいた。さて、今朝は私の得意料理であるフワトロオムライス!スープはじっくり煮込んだ野菜スープ。それにサラダをつけた。
今日の私の弁当はチキンライス(オムライスの余り)と肉野菜炒め、サラダの余り。
やはりできたて熱々を一緒に食べたかったので先に弁当の用意をして冷まし、オムライスに取りかかった。
「………おいしい……」
鈴木が泣いた。いやまあ、あったかいご飯はおいしいけど、そんなにか?
ちなみにうちのオムライスはチキンライスにオムレツを乗っけるタイプ。オムレツを切るととろーりとチーズ入り卵が溢れてきます。それにケチャップをつけていただきます。母直伝の自信作である。
「おいしかった……」
幸せそうな鈴木に、確認した。
「おかわりは?」
「………え?」
「おかわりはいる?」
「い、いる!いいの?おかわりもあるの!?」
鈴木は暫く呆けていたけどすぐに頷いた。男子だから私より食べるだろうと4人前作ってあったが鈴木は完食した。
「おいしかった……」
幸せそうな鈴木を見ていると、私も幸せだ。
「あ、食器洗うね」
「別に大丈夫だよ?」
「ううん、ごちそうになったしこのぐらいはさせて」
鈴木は丁寧に食器を洗ってくれた。その間に洗濯が終わったので洗濯物を干す。
「ミチルちゃん、終わっ……………」
鈴木が固まっている。その視線は私の手元に固定されていた。手元に視線を落とす。そこには、可愛らしいぱんつがあった。
おう、ナンテコッタ。
私も硬直した。白いレースの可愛いぱんつ。よかった、綿ぱんつとかじゃなくてお見せしても大丈夫なぱんつだった……いやいやいや!きゃあとか言うべき?いや、今さらだよね。ま、まあ…はいてるとこを見られたわけじゃないし……
「ミチルちゃん、ごめんなさい!!」
「鈴木!?」
鈴木が土下座した。
「その、わざとじゃないけどミチルちゃんの下着を見ちゃうなんて…そもそも早く来すぎたのも問題だし……本当にごめんなさい!!」
「…いや、私も今気がついたし……別にわざとじゃないぐらい解ってるから、謝る必要はないよ。せっかくだし、テレビでも観てて。しばらくこっちは見ちゃダメだよ」
鈴木のおかげで私の硬直も解除された。下着類だけ浴室に干し、他はベランダに干してきた。
「おまたせ~」
鈴木は正座して待っていた。ぱんつについて、そんなに気にしないでいただきたい。私もいたたまれない。早急に忘れてくれないだろうか。
「…ミチルちゃん」
「は、はい?」
「ミチルちゃんを辱しめるつもりなんてなかったんだ」
「うん」
「責任をとるよ」
「うん?」
「結婚しよ「鈴木いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!??」
今世紀最大の鈴木が出ました!!
結婚んん!?まだ未成年だよってか、私は洗濯物のぱんつを見た程度で結婚を迫ったりはしませんよ!
私は鈴木に発言の撤回を求めた。そもそも洗濯物のおぱんつを見ただけなのに責任が重すぎる。不自然だ。私たちはまだ出会って数日である。結婚は一生ものなのだから、簡単には決めてはいけないのだ。とにかく思いつく限りの反論を全て鈴木にぶつけた。最後に、ぱんつが理由で結婚したくないと言ったらようやく納得された。私は多分勝利した。
それから鈴木と登校したのだが、鈴木の声がぼそりと聞こえた。
「……焦りすぎたかな…次はもう少し…う~ん……」
鈴木の呟きが気になったが、確かめることはできなかった。それよりもとんでもない爆弾が投下されたからだ。
「ミチルちゃん、そういえば言いそびれたけど」
「ん~?」
「その髪型もすごく可愛いね」
今日の髪型は、珍しく三つ編みではなくポニーテールでした。そういや、直し忘れてたわ。
いや、そこはどうでもいいわ。
「鈴木いいいいいいいいいいい!!」
サラッと褒めんな、この無自覚イケメンがああああああ!!惚れてまうやろうがああああああああ!!こちとら喪女歴長いんじゃあああああ!!コロッと落ちたらどうすんじゃああああああ!!
私は鈴木の背中にしがみつき、悶えまくっていた。鈴木が無意識イケメン過ぎて辛い!!
「…可愛いなぁ……」
全力で悶えまくっていた私は、鈴木の呟きを聞きのがしたのだった。




