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ふぁんもん  作者: 馬場翁
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ひやかし

「ゴーストかぁ。あー。すまんがうちの店にはゴーストが装備できるようなものは置いてないなぁ」


 ガーン。


 装備屋の店主はこれぞドワーフという外見のおっちゃんだった。

 その髭面のおっちゃんが、すまなそうにしている。


 モンスターにはそれぞれ適した装備というものがある。

 人型のモンスターであれば、人が使うような武器防具を装備することもできるが、獣型のモンスターではそうもいかない。

 そのモンスターに適した装備品でなければ、そもそも装備することができないのだ。


 そして、ゴーストはモンスターの中でもかなり特殊。

 それゆえに装備できる装備品も特殊なものになり、そうそう手に入らないレアものになる。

 始まりの街では気軽に購入できないほどに。


「取り寄せることになっちまうが、そうなると時間がちっとかかるな」

「え!? 取り寄せとかできるんですか!?」

「ああ」


 意外。

 それはお取り寄せサービス。

 在庫にはなくても客の要望に応える商売人の鑑。


「それで!? 取り寄せたらいつ頃手に入りますか!?」

「それはだな、正式サービスを待つがいい」

「ほへ?」

「うむ。お取り寄せサービスはβ版ではまだできないんだ。すまんな。というわけで、正式サービス開始を待ってくれ」


 メタい。

 THEドワーフな外見の店主からメッタメタな話を振られるというシュールな光景がそこにはあった。

 そして、結局希望を持たせておいて今は取り寄せすらできないと言う鬼畜の鑑。

 そのあんまりにもあんまりな店主に、チョコはビターンと倒れた。

 後ろ向きに。


「あんまりだー。この髭絶対ドSだよー」


 思ったことそのまんま口に出しやがったこいつ。

 そんなチョコを慰めるように、シルクがチョコの顔の前で懸命に励ますポーズをとる。

 いい子やー。


「あ、うむ、いやー。その、すまん」


 髭面の、ドワーフだから大ではないが、れっきとした大人が屈した瞬間だった。


「あー、嬢ちゃん。装備はないが、アドバイスくらいはできるぞ? そうだな、お、カードの装備はどうだ? これならゴーストでもできるぞ?」

「カードの装備ですか?」


 むくりと上半身を起き上がらせるチョコ。

 その反応にいい感触を得たのか、店主は説明を始める。


「そうだ。カードの装備はいいぞー。装備品の装備よりも場合によっちゃ、役立つ」

「ほう!」


 立ち上がり、カウンターに身を乗り出して興味を示すチョコ。

 好感触にほっと胸をなでおろす店主。


「ああ。装備品、たとえばこの剣なんかをゴブリンあたりに装備させたとするだろ?」


 そう言って、店主はカウンターの後ろに飾られている剣を示す。

 カウンターの後ろという目立つ位置に置いてあるだけあって、かなり立派な剣だった。


「こいつは切れ味抜群。頑丈な敵だろうと切り裂くことができる逸品だ。が、こいつを装備しても、その装備したモンスターのステータスが上がるわけじゃぁ、ない」


 普通、ゲームにおいて装備品というものは、装備すればステータスが上昇するものだ。

 が、フルダイブ型VRゲームが普及した中、よりリアルティを追求したゲームも数多く発売され、ステータスという概念を取り入れないものも多くなった。

 スッカスカのどこを守ってるんだこれ? というビキニアーマー装備してなんで防御力が上がるんだ問題である。

 リアリティを追求したゲームでは、防具を装備しても全体の防御力は変化せず、防具で防いだ分しかダメージが軽減されないというシステムを採用している。

 武器でも同じ。

 武器を装備しても本人の腕力などが向上することはなく、あくまでも武器の攻撃でその武器の性能分のダメージが加算される仕組みだ。


 歴代のファンモンシリーズではステータス上昇式を採用、というか、これまではフルダイブ型VRゲームですらなかったので、それしか選択肢がなかった。

 が、今作からはステータス式ではなく、リアリティ式に切り替えたのだ。

 ……なんでメタい発言をNPCに許してるのに、装備はそっちを選択したのか。

 それは運営のみぞ知る。


「と、いうわけで、装備すりゃもちろんその分強くなれるが、それは装備の強さでモンスター自身のステータスには影響しない。が、カードは違う」


 モンスターを倒した際に一定確率でドロップするモンスターカード。

 その使い道はいくつかあり、その一つはチュートリアルで説明された不思議な卵に使って、お目当てのモンスターを確実に入手するというもの。

 そしてもう一つが、モンスターに装備させるということ。


 カードを装備させると、ステータスの上昇や、そのモンスターカードの基になったモンスターのスキルなどが使えるようになる。

 あくまでも基になったモンスターの力の一部が使えるだけで、装備しても微々たる効果しかないが、するとしないでは雲泥の差となる。


「と、いうことだ。まずはメニュー画面からモンスターの欄を呼び出してやってみろ」

「おお! ラジャー!」


 さっそくメニューを呼び出し、モンスターの欄を呼び出す。

 するとそこには、ちゃんとモンスターカード装備という項目があった。


「これかぁ!?」

「それだ」


 まるでお宝発見とでもいうかのように叫ぶチョコ。

 こいつ声くそでけえな、と内心で思いつつもそれを指摘しない店主。


 チョコはモンスターカード装備の項目を選択し、次いで現れた所持しているモンスターカード一覧を見て動きを止めた。


「むむむ! どれを装備させればいいんですか!?」

「んん? どれどれ?」


 メニューボードを店主に見せるチョコ。

 メニューの画面は基本他人には見えないが、見せたいと思った時だけは他人にも見せることができる。


 そして、店主がそこを見ると、ずらっと並ぶカード。


 一度目を閉じ、もう一度目を開いてメニューを見る店主。

 しかし見える光景は変わらず。

 今度は目をこすって、もう一度目を開いてメニューをまじまじと見る店主。

 しかし見える光景は変わらず。


 ええー? この子なんでこんなにカード持ってるん?

 店主の声なき声が聞こえてきそうな瞬間。

 それもそのはず。

 この日はゲーム開始からわずか二日目。

 初心者プレイヤーはまだまだスライムと戯れているはずの時期であり、こんなにたくさんのモンスターカードを所持しているはずがないのだ。


 モンスターカードはモンスターを倒した時、一定確率でドロップする。

 モンスターによってそのドロップ率は異なるものの、だいたい30%ほど。

 つまり三回に一回出ればいいほう。

 運が良くても、たった一日でずらっと並ぶほどのカードを集められるはずがない。

 普通ならば。


 ここで店主、並んだカードのほぼすべてがゴブリンのものであることに気づく。

 そして思い至る。

 あ、ゴブリン羽交い絞めにして乱獲したプレイヤーってこいつのことか。

 イグザクトリー。


 NPCにも一応アップデート内容は通知される。

 でないと、プレイヤーに古く間違った情報を伝えてしまいかねないからだ。

 そして昨日の今日でシステムの改変を余儀なくさせる事件を引き起こした、ゴブリン羽交い絞め事件。

 犯人が誰かはNPCは知らないが、察することはできてしまう。

 だって、動かぬ証拠が目の前にあるんだもん。

 店主はそっと、乱獲されてしまったゴブリンたちに合掌した。


「ふうむ。そうだなー」


 察してしまったもろもろの事情からそっと目をそらし、店主はチョコの所持しているモンスターカード一覧を眺める。

 ゴブリンばっかだけど!

 しかし、一覧をスクロールしていくと最後にゴブリン以外のカードが出てくる。

 チュートリアルでゲットした三枚のカードだ。


「ほう、☆3か」


 カードを装備した時の効果も、☆の数が多ければ多いほど大きくなる。

 そして、不思議な卵で☆の多いモンスターを呼び出した時と違って、モンスターカードを装備させてもモンスターが言うことを聞かなくなるということはない。

 つまり、デメリットなしで☆3のモンスターの能力の一部をモンスターに与えることができるのだ。

 これはスタートダッシュとしてはかなり大きい。

 が。


「ソードガルガントか。ゴーストとは相性が悪いな」


 チョコの所持している☆3モンスターカード、ソードガルガント。

 これをモンスターに装備させれば、STRとVITが大幅に上昇する。

 STRとVITが。

 そう、ゴーストにとってあんまり意味のない、物理攻撃と物理防御をつかさどるSTRとVITが。


「ゴーストに装備させて効果が大きいのは、INTだ。次いで敵に追いつくためのAGIってところだろうが、ソードガルガントのカードじゃ、どっちも上がらない。宝の持ち腐れだな」


 正直な店主の感想に、チョコ、後ろ向きにビターンと倒れる。


「やっぱこの髭ドSだよう」

「うっ! すまん。すまんって」


 店主は良心の呵責にさいなまれた!


「あー、他のカードは? ほう、バットとテンタクルか。バットはまあありふれたカードだが、テンタクルは面白いな」


 何とか話題をそらそうとする店主。

 のそのそと起き上がり、店主の話を聞くチョコ。


「テンタクルのカードは装備すると麻痺〈極微〉のスキルが追加される。攻撃を加えた相手を状態異常の麻痺にするスキルだ。極微とあって麻痺する確率は低いが、決まれば戦局を大きく変えることもできる」

「ほほう!」


 食いつくチョコ。

 話題そらしに成功してほくそ笑む店主。

 しかし、店主、ここで大きな失敗に気付く。


「あ、しかしゴーストは普通の攻撃手段がないから意味ねえわ」


 麻痺〈極微〉のスキルは通常攻撃に麻痺判定がつくというもの。

 ゴーストの使うドレインタッチには装備させても麻痺判定はつかない。

 つまり、宝の持ち腐れ。


 チョコ、後ろ向きにビターンと倒れる。


「この髭、私に恨みでもあるのか?」

「うん、その、すまん」


 もう謝るしかない店主だった。


 結局、チョコが選んだのはゴブリンのカード。

 全ステータスが1ずつ上がるという、とても汎用性の高い効果だった。


「お世話になりました!」

「おう。あんまり役に立てなくてすまんかったな」

「いえいえ!」


 元気よく店から出ていくチョコ。

 結局、店主がチョコにしてあげられたのは、モンスターカードのレクチャーだけ。

 あれだけ期待を裏切りまくっただけに、それだけしかできなかったことが心残りだった。


 しかし、そこではたと気づく。

 あれ? あの子、この店で何も買ってなくね?


 店主はしばし動きを止めた。

 そして再び動き出した時には、心残りなんてポイと捨て去っていた。

テンタクル

SKS。ステータスは軒並み低いものの、麻痺攻撃〈微〉で敵を麻痺させる。ファンモンは全年齢対象なので麻痺ってもエロ同人展開にはならないから期待しないこと。

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