表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふぁんもん  作者: 馬場翁
5/15

うんえいのちからをおもいしるがいい

本日2話目

 バグ。

 それはゲームにおいて最大の敵の一つ。

 どんなにレベルを上げようとも、どんなにやりこもうとも、バグの前では意味をなさない。

 プレイヤー、そして運営、双方の共通の敵、それこそが、バグ。


 しかし、ああ、しかし!

 そんな邪悪の権化のごときバグを、あろうことか利用するプレイヤーがいることもまた事実。

 人はなぜ、悪いとわかっていてもそれをしてしまうのか?

 邪悪からの誘い。

 そして、そんな誘惑に魅入られたプレイヤーがここに一人。


「運営対応はえーな」

「なんかゴブリン羽交い絞めにして乱獲したプレイヤーがいたんだってよ」

「なにそれウケル」


 プレイヤー二人組の会話を盗み聞きながら、ダラダラと冷や汗を流してるチョコとかいうのが、その犯人です。

 東の平原は初心者にはきつい狩場ではあるものの、まったく人がいなかったわけではない。

 つまり、チョコの蛮行を見ていたプレイヤーもいたわけだ。


「そいつBANだろ?」

「いやー。アナウンスではそういうわけじゃないらしい。βはそういう運営が想定してないバグとりのためってのもあるからなー。警告だけで済んだんじゃねーの?」


 BAN。

 それはオンラインゲームにおいて最も重い罰。

 ゲーム内で積み上げてきたもの、そのすべてを取り上げられる、恐ろしい罰。

 ゲームにおいて最も強いのはラスボスなどではない。

 運営。

 それこそが最強にして法たる存在。

 運営を怒らせてはならない。


 と、いうことをチョコは身をもって思い知った。

 というのも、ゴブリンを狩りに狩りまくったその翌日。

 ログインしてみると運営からのメールが届いていたのだ。

 その内容を要約すると、次のような内容になる。


「何してんのじゃ貴様は? おいコラ。ゲームは正しく遊びやがれコラ。今回はうちもこんなでかいバグ残してた責任があるから、そっちにお咎めはなしにしといてやるがなぁ。次は承知せんぞ。わかったな?」


 もちろん、このまんまな文章で送られてきたわけではないが、内容は大体こんなもんである。

 運営の怒りがヒシヒシと感じられる。

 プログラマーはきっと徹夜で修正にあたったことだろう。

 まさかβ版稼働初日にこんなことになろうとは。

 運営の落ち度ももちろんあるが、その原因を作ったプレイヤーに怒りもわこうというもの。


 運営にとっては不幸中の幸いというか、正式版リリース前のβ版でゲームの根幹を揺るがしかねない重大なバグを発見できた。

 チョコの行為はバグの不正利用に違いないが、ログを見る限り悪意があってやってるわけではなく天然。

 そして、モンスターの相性から、どっちみちゴブリンが倒されていたのは変わらず、討伐までの時間短縮しか影響がなかったこと。

 それらを総合的に判断して、お咎めはなしで警告だけにとどまった。


 また、モンスターバトルの最中に無敵のプレイヤーが介入できてしまうという、この重大なバグの修正に、チョコが役立ったというのも大きい。

 チョコが、というよりかは、チョコの使役するモンスター、ゴーストのシルクがと言ったほうが正しいが。

 運営がこの件で取り入れたのは、まさにゴーストの特性である物理透過の処理だったのだ。

 モンスターバトルが発生した時に、プレイヤーに物理透過を応用した処理を施し、何者にも触れることができないようにしたわけだ。

 チョコがやらかしたからこそ、その使役モンスターから得られた着想だった。

 まさに怪我の功名。

 おかげで、かなり大型のアップデートだったにもかかわらず、物理透過のプログラムを流用することによって、一晩で完成させることができた。

 プログラマーは頑張った。

 超頑張った。


 まあ、ぶっちゃけこんな事態になることは想定しておけよというツッコミが入るのだが。


 それもしょうがない一面はある。

 フルダイブ型VRゲームはゲーム世界に入り込んでプレイすることこそがその醍醐味。

 ゲームの世界を肌で感じること、それこそが最大の魅力。

 その魅力を触れさせないという制限を設けて損なわせるなんて、運営にとっては意識の外。

 というか、モンスターバトルをうたっているゲームで、プレイヤーがモンスターを率先して襲うなんて考えてなかった。

 一応プレイヤーには攻撃判定が出ないので、モンスターを殴ったりしてもダメージが発生することはない。

 なので、プレイヤーだけでモンスターを倒すことはできない、はずだったのだが、それだけの対応では不十分だったということが証明されてしまった。

 運営は無敵のプレイヤーという存在を過小評価してしまっていたのだ。


「むー」


 と、運営の話はこのくらいにして、諸悪の根源が今何をしているのかというと、掲示板をあさっていた。

 チョコはゲーム初心者。

 ただのゲーム初心者ではなく、ゲームというもの自体あまりやったことのないガチ初心者である。

 だからこそ、普通やらないようなゴブリン羽交い絞め事件を引き起こしたのだが。

 そう、チョコはゲームのルールをよくわかっていない。

 何がダメでなにがいいのか、そのセオリーを知らない。


 そこで、掲示板を使って情報収集をしているのだ。

 ゲームにおける常識というものを少しでもそこから学び取ろうとして。

 チョコはおバカでドジで天然だが、悪い子ではないのだ。

 おバカでドジで天然だが。

 過ちを繰り返さないようにしようと努力するくらいにはいい子なのだ。

 おバカでドジで天然だが。


 β版は参加人数が少ないこともあって、掲示板の盛り上がりはそこそこ。

 そもそもまだ二日目で、立ち上がっている板の数も多くない。

 なので、チョコがそのすべてに目を通すのにさほど時間はかからなかった。

 しかし、その少ない量でも得られるものは多かった。


 装備品はちゃんと装備していないと効果がないぞ!


 ゲームの基本中の基本。

 しかし、それすらチョコは知らなかった!

 というか、装備品というものがあること自体知らなかった!

 これは由々しき事態である。

 今まで、と言ってもたった一日だけだが、シルクは装備なしで戦っていた。

 つまりその分だけ損をしていたことになる。


「行くよ、シルク!」


 そうとなれば善は急げ。

 ゴブリン乱獲で稼いだお金もある。

 装備屋へ、レッツゴー!

運営

すべてを超越せし存在。かのものに逆らってはならない。ていうかルールは守れ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ