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ふぁんもん  作者: 馬場翁
4/15

ごぶりんすれいやー

 シルクを伴ってチョコは東の平原にやってきた。

 始まりの街の東の門から外に出れば、そこはもう東の平原である。

 ちなみに、街の中であれば移動はショートカットできる。

 ギルドや街の出入口など、プレイヤーがよく利用する場所には転移することができるのだ。

 これは街の広さがかなりあり、移動だけでも時間がかかってしまうからこその配慮。

 

 技術の発展に伴い、ゲームの中の街も、本物と見まがうばかりのものにできるようになった。

 そうなるとよりリアリティを出すために、人の生活において欠かせない施設や住宅などを配置していくことになり、さらに街の規模が拡大。

 ちょっとした観光ができるほどのものになっている。

 街の端から端まで、直線で移動してもかなりの時間を食うほどに。


 観光がしたい人はそれでいいかもしれないが、それはゲームの趣旨とは違う。

 早く冒険しろよと。

 そういうわけで、とっとと冒険に出れるように、重要施設には街の中ならどこからでもワープできるようになっているのだ。

 チョコもこの方法でギルドから出た直後に東の門までワープしてきている。


 東の門周辺には人が少なかった。

 それもそのはず、ゲーム開始初日のこの日はみんな大抵スライムを倒しに西の平原に行くからだ。

 ☆1のモンスターは相性の差はあれ、同レベルであればそのほとんどが互角。

 一対一であればサンドバック相手にレベルを上げたプレイヤーのモンスターなら勝てるだろうが、一戦するだけで満身創痍になり、一対二だった場合はほぼ勝ち目がない。

 ゴブリンは特殊なスキルこそ持たないものの、ステータスは平均的な☆1と互角。

 それが一体だけならまだしも、群れてくることもある東の平原は、ゲーム初日のプレイヤーには荷が重い。

 通常であれば。


「よーし! いっくよー、シルク!」


 意気揚々と東の平原を進み始めるチョコ。

 その肩に乗るようにして憑りついているシルク。

 見かけだけならとても強そうには見えない。

 むしろカモに見える。


「ギギー!」

「ギー!」


 そんなカモを見逃すモンスターではない。

 ゴブリンが二匹現れた!


「ふっふっふ! 私の前に姿を現すとはいい度胸! 行け、シルク!」


 チョコの指示に従い、シルクがその肩からフヨーッと前に出る。

 対するゴブリンたちは威嚇のつもりか手に持ったこん棒をぶんぶんと振り回す。

 ゴブリンの持つ武器は何種類かある。

 こん棒はそのうち最も所持率の高い武器。

 攻撃力の補正は低いが、それでも持っているのといないのとでは大きな違いがある。

 序盤でたった1のステータスの違いが勝敗を分けるようなこのクラスだとなおさら。

 まあ、それも、効けばの話。


「ギェ!?」


 ゴブリンの振り回すこん棒がシルクにヒット!

 しかしシルクには効果がない!


 シルクの持つ《霊体特性》は物理攻撃を透過し、無効化する。

 ゴブリンの持っている武器がこん棒だろうがナイフだろうがなんだろうが、物理攻撃である以上シルクにダメージを与えることはできない。


 そして、攻撃が当たったはずなのに空ぶったという、わけのわからない状況に混乱したゴブリンに、シルクがゆっくりと近づき憑りつく。

 そのまま《ドレインタッチ》を発動。

 ゴブリンのHPをちょっとずつ吸い取っていく。


「ギヤァー!」


 憑りついたシルクを取り払おうと、ゴブリンが暴れる。

 が、手で払っても、こん棒で払っても、振り落とそうともがいても、それらすべてを透過してしまうシルクが離れることはない。

 こうなってしまうと、対抗手段がないとどうしようもないのがゴーストの恐ろしいところ。


「ギギィ!」


 見かねたもう一匹のゴブリンが、シルクに向かってこん棒を振り下ろす。


「ギヘァ!?」


 もちろんそれも透過し、憑りつかれているゴブリンにヒットする。


「ギャッギャ!」

「ギ、ギギィー……」


 何するんだボケ!

 す、すまない……。

 そんな会話が聞こえてきそうだった。


「ァ」


 そんなことをしているうちに、憑りつかれているゴブリンのHPがなくなった。

 光の粒子となって消えていくゴブリン。

 それを一瞥し、次のターゲットにもう一匹のゴブリンをロックオンするシルク。

 恐れおののくゴブリン。

 ホラーである。

 ゴーストだもん、間違ってはいない。


「ギャー!」


 恥も外聞もなく逃げ出すゴブリンを、シルクが追っていく。

 しかし、AGIに差があるため、その差はどんどん開いていく。

 憑りついてしまえば勝ちは確定するが、そこまでが難しいというのがゴーストの弱点の一つ。

 ステータスが低いため、素早い敵には触れることすらできないのだ。


 ゴブリンは逃げ出した!

 しかし回り込まれてしまった!


「ギェ!?」

「逃がしはせんぞー!」


 ゴブリンの行く手を遮る、チョコ。

 プレイヤー、まさかの参戦。

 後門のシルク。

 前門のチョコ。

 シルクには物理攻撃が通用しない。

 チョコはプレイヤーなのでそもそもすべての攻撃が通用しない。

 そう、HP設定のないプレイヤーこそ、このゲームにおいて最強の存在。

 モンスターよ、人類をなめるなよ!


 いやいや。

 これそういうゲームじゃねえから。


「とう!」


 しかし、チョコにそんな常識は通用しない。

 威勢よくゴブリンに飛び掛かり、ゴブリンを羽交い絞めにする。


「ギヤァー!?」


 ガチ悲鳴を上げるゴブリン。

 ゴブリンの体格は小学一年生とかそのくらいの子供と同じくらい。

 小柄なチョコでも十分抑え込める。

 ジタバタとチョコの腕の中で暴れるも、そんなもの無敵のプレイヤー様には痛くもかゆくもない。


「シルク! 今だ! やれ!」


 えー、いいのかなー? と躊躇していたシルク。

 チョコの命令に従いしょうがなくゴブリンに取り付き、ドレイン。

 ジタバタ暴れるゴブリンの動きが、チョコの腕の中で徐々に弱弱しくなっていく。


「ガク……」


 そして、HPを全損させて力尽き、光の粒子になって消えていった。


「圧勝ではないか!」


 天に拳を突き出し、勝利のポーズをとるチョコ。

 シルクも控えめにチョコと同じように片手をあげる。


「よーし! この調子でどんどんゴブリン倒していこう!」


 味を占めたらしい。

 シルクは、いいのかなー? と不安そうにしている。

 しかし、チョコは勝てばよかろうなのだー、という精神で次なるゴブリンを探して駆け出した。


 この日、ゴブリンにとって東の平原は地獄と化した。


 翌日。


《アップデートのお知らせ》

 プレイヤーが戦闘中、敵味方のモンスターに干渉できないよう修正。


 よくなかった。


「なんで!?」


 なんでもなにも、当たり前の話だった。

ゴブリン

ファンタジーでおなじみのモンスター。LV1時点でHPMP100。その他のステータスはオール10という、☆1モンスターの平均ど真ん中の性能をしている。スキルこそ持たないものの、人型で装備の選択肢が多く、なんでもこなせる。

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