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ふぁんもん  作者: 馬場翁
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はじまりのまち

 扉をくぐるとそこは雪国、ではなく、中央に少年の像が建っている広場だった。

 くぐったはずの扉は後ろを振り返っても存在していない。

 こここそが始まりの街。

 その中心広場。

 この広場がプレイヤーであるマスターの初期ログイン地点となる。

 ここからがゲームの本番と言えた。


 この広場の中央にある少年の像は、ファンモンシリーズの初代主人公をモチーフにしている。

 初代ファンモンの主人公はストーリーで邪神復活を企てる秘密組織をたった一人で壊滅させ、復活した邪神もたった一人で討伐するという伝説を残している。

 少年なのに!

 ファンモンシリーズは初代以降でも度々とんでもない事件を主人公が解決しているのだが、その中でも初代主人公のそれは語り草になっている。

 初代さんだったらもっとやばいの倒してるし。

 初代さんなら、それでも初代さんならやってくれる!

 というのはある種ファンモンシリーズでのお約束となっているほど。

 そして運営もそのお約束に乗り、公式に初代主人公を神格化してしまったのだ。

 

 まあ、そんな余談は過去作をプレイしていないチョコには関係ない。

 初代さん像には目もくれず、広場を見回している。

 広場は正式サービスがスタートした時の混雑を考えてか、やたら広い。

 しかし、今はまだβ版ということもあり、限られた人しかいない。

 が、β版稼働初日とあってか、広場にはポツポツとチョコと同じようなプレイヤーと思しき人たちがいた。

 なぜわかるのかというと、彼らはみんなモンスターを連れているからだ。


「かわいい!」


 チョコはそんなプレイヤーさんたちを見て思わず口にした。

 プレイヤーの連れているモンスターはかわいいのが多い。

 というのも、☆1のモンスターはやはりというかなんというか弱いので、貫禄のあるモンスターがいない。

 初々しい、そして弱々しい外見のモンスターがほとんどだ。

 サイズも小さいのが多い。

 総じてかわいめのモンスターが多くなるのである。


「ああ、ごめんね! もちろん一番かわいいのはシルクだよ!」


 他の子に目移りしている主人に、シルクが抗議するように目の前をクルクル舞う。

 プンプンという擬音が聞こえてきそうな態度だ。


「ああもう! かわいいなあ!」


 シルクのかわいい態度にハートを撃ち抜かれるチョコ。

 感極まって飛びつき、すり抜け、そしてビターン。

 大地はとても冷たかった。


「んんん!? クエスト?」


 視界いっぱいに地面が広がったことで、その端に浮かぶクエストの文字が目に入る。

 そこには「ギルドに行こう!」と書かれていた。

 ガバッと起き上がり、辺りを見回すと、これ見よがしに矢印のポップアップが浮かんでいる建物があった。


「あそこかー! 行くよシルク!」


 チョコはそのままその建物に向けて駆け出した。

 シルクが慌ててチョコに憑りつき、くっついていく。

 ゴーストは移動速度が遅いので、こうしないとマスターについて行くこともできないのだ。

 そして、嵐のように過ぎ去っていったチョコを、他のマスターたちは呆然と見送っていた。


「ごめんくださーい!」


 バーン!

 そんな効果音が聞こえてきそうな勢いで、チョコは扉を開け放った。

 受付にいる美人なお姉さんが、浮かべていた微笑みを消して真顔になった。

 しかし、そこはプロ。

 真顔になったのは一瞬で、すぐにまた優し気な微笑みを浮かべる。

 俗にいう営業スマイルである。


「いらっしゃい。ここはマスターが集うギルド。ギルドに来るのは初めてかしら?」

「はい! 初めてです!」

「では、このギルドについて説明しますね」


 と、言いつつも口で説明するわけではない。

 チョコの目の前にボードが出現し、そこにギルドについてのヘルプが表示されていた。

 まだβ版で人は少ないが、これが正式版になれば混雑が予想される。

 数の少ない受付でチンタラ説明をしている暇はないのだ。


 で、ヘルプの内容を要約すると、ギルドとは様々な依頼をもってきて、それをマスターに解決させる、いわば仕事の斡旋所。

 マスターの主な金策はこのギルドの依頼をこなすことになる。

 ファンモンシリーズではモンスターを倒してもお金をドロップしてくれないのだ。


「これがあなたのギルド証よ。なくさないように注意してね」


 そう言って受付のお姉さんから渡されたのは、チョコの顔写真が貼られた免許証のようなカード。

 こんなものいつの間に作ったんだとか、世界観的に写真あるのかよとか、そういう突込みは厳禁である。

 ちなみに、なくすなとは言うが、このカードはアイテムの大事なもの扱いとなるため、落としても自動的にストレージに回収されるのでなくしようがなかったりする。

 なので、他人が悪用することもできない。


「依頼はこのギルド内にいればメニューから確認できます。そして、そのまま受注することもできるの。完了の報告も、依頼内容を達成してギルドに戻ってくれば自動でできるわよ」


 つまり、別に受付を介さなくても依頼の受注から完了報告まで全部できるということだった。

 受付の意味とは?

 しかしそれも仕方のないこと。

 受付のためにプレイヤーを長時間並ばせるわけにはいかない。

 ゲームであるからにはストレス要素は少しでも排除しなければならないのだ。

 とはいえ、世界観を重視するのならば別に受付に並んでもちゃんと依頼の受注や報告はできる。

 そこはプレイヤーの好き好き。


「では、受けたい依頼がありましたら是非」


 営業スマイルで話は終わったと暗に告げる受付嬢。

 所要時間1分にも満たない早業。

 こやつ、できる!


 AIの進化によって、ゲームにおけるNPCもまた、旧来の決まったセリフしか言えない半オブジェクトともいえる存在から、人と寸分たがわぬ対応ができるゲーム世界で生きる住人になっている。

 そのため、ゲームによってNPCの取り扱いは分かれる。

 大別すると二種類。

 一つはそのゲーム世界に生きる住人として振る舞うAI。

 世界観を重視するゲームではこちらのパターンが多い。

 もう一つは、メタい発言も平気でするAI。

 こちらは前者と違い、ゲームの世界であることを認識して、プレイヤーを快適に遊ばせる手伝いをしている。


 ファンモンはこちらのパターンだ。

 なので、ゲームのシステム的な説明や扱い方などにも言及してくるし、平気でリアルについても必要とあれば口にする。

 世界観が壊れるとか言ってはいけない。

 すべては円滑なゲームプレイのために。

 え? 受付嬢さん、チョコのこと面倒で追っ払ってるじゃないかって?

 円滑なゲームプレイどこ行った?

 ……彼らも好き嫌いくらいあるんです。

 NPCだからといってないがしろにせず、人と同じように接してあげてください。

 受付嬢さんがチョコをないがしろにしてるじゃないかとかいうツッコミをしてはいけない。


 チョコは受付嬢の態度に怒るでもなく、メニューからヘルプを閲覧し、ギルドのルールを学んでいく。

 そして、一通りそれを読み終えると、受注できる依頼一覧を表示させた。



〈スライム退治〉推奨LV1~

 報酬:100G×討伐数

 西の平原に出現するスライムを退治しよう! スライムは非常に弱い魔物なので、初心者にうってつけです。


〈薬草納品〉推奨LV1~

 報酬:10G×納品数

 西の平原や東の平原で採取できる薬草をギルドに納品しよう!



 と、上から順に初心者向けの依頼がいくつか表示される。

 ファンモンに置いて無印のスライムは超がつく雑魚モンスター。

 西の平原にはそのスライムしか出現しないため、ゲーム開始直後の初心者の狩場として最適。

 ファンモンのモンスターは相性の差はあれ、☆の数とレベルが同じだと互角であることが多い。

 スライムのように例外的に弱いモンスターでもいなければ、初戦で敗北して死に戻りということも十分にある。

 だからこその救済措置としてのスライム。

 そして、スライムを初期モンスターに選んでしまったチャレンジャーが詰まないように、チュートリアルでサンドバックを倒すと無条件でレベルが2に上がる親切設計。

 レベル差があれば、同じモンスターでも勝てる。


 逆に言うと、レベル差がなければ同じモンスター相手でも危険だということ。

 ☆1のモンスターはそのほとんどが能力的に差がない。

 サンドバックを相手にしてレベルを上げたプレイヤーのモンスターならば、負けることはあまりないにしても、一戦だけでかなり消耗してしまう。

 二戦連続で戦えばそれだけで危ういし、二体以上の群れに襲われたらひとたまりもない。

 ゆえに、簡単に倒せるスライムを相手にしてレベルを上げるのがセオリー。


 しかし、チョコにそんなセオリーは存在しない。


「ねえねえ、お姉さん」


 チョコは再び受付嬢に話しかけていた。


「はい、なんですか?」


 受付嬢、内心では面倒だと思いつつも、それを完璧な営業スマイルで押し隠す。


「ゴブリンって魔法使います?」

「ゴブリンですか?」


 受付嬢はチョコの質問の意図を一瞬図りかねる。

 ゴブリンは東の平原に出現するモンスター。

 その脅威度は☆1の平均的なモンスターで、スライムの比ではない。

 しかも、ゴブリンは二体以上で行動することもあり、初心者が手を出すのは勧められない。

 依頼にもゴブリン退治はあるが、推奨LV5~となっている。

 はっきり言って、今日ギルドに登録したばかりの初心者が相手にするのは無謀だ。

 が、ここで受付嬢、チョコの連れているモンスターを見て納得する。


「いいえ。東の平原に出現するゴブリンは魔法の類は使わないわ。東の奥の森にまで行くと魔法を使う高レベルのゴブリンもいるけれど、そこまで行かなければ大丈夫よ」

「わっかりましたー! じゃあこの依頼よろしくお願いします!」

「はい。受注承りました。お気をつけて行ってらっしゃい」

「はい! 行ってきます!」


 元気に返事をしてギルドを後にするチョコ。

 受付嬢はその後姿を見ながら、もう少し声のボリュームを落としてほしいと願った。

 切実に。


 依頼を受注しました。


〈ゴブリン退治〉推奨LV5~

 報酬:500G×討伐数

 東の平原に出現するゴブリンを討伐しよう!

スライム

ぷるぷる。ぼく悪いスライムじゃないよ!

ご存じスライム。HP以外のステータスオール1という雑魚オブ雑魚。だけどそんなスライムを育てようという人が一定数いる。進化していくと強くなるのもお約束。

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