表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふぁんもん  作者: 馬場翁
15/15

やっぱりひやかし

「たーのもー!」


 バーン!

 扉を開け放ち、現れたのはご存じチョコ。

 装備屋の店主はその突然の来襲に驚き、同時に納得した。


 ああ、来やがった、と。


 β版の時にゴーストの装備を求めてやってきたお客、ならぬひやかしだ。

 ゴーストの装備はこの店になかったため、結局何も買わずに出ていったのだ。

 それは別にいいのだが、やたら濃いキャラクターだったために店主の記憶にしっかりと残っていた。


「正式版になったぞ! さあ、ゴーストの装備をよこすのだー!」

「山賊かおめーさんは。よこせじゃなくて買え」


 さあさあと迫りくるチョコをいなしながら、店主はゴーストの装備が載ったカタログを取り出して見せる。


「ゴーストの装備となるとー、ここらへんだなー」

「おおー!」


 挿絵付きのカタログを店主から受け取り、じっくりと眺めるチョコ。


「……なんかかわいくないのが多い」

「そりゃ、ゴーストだからなぁ」


 ゴーストの装備はおどろおどろしい見た目のものが多く、かわいいものは少ない。

 ていうかない。


「一応性能はそのままにして、見た目だけ変えることもできるぞ」

「本当!?」

「ああ。ただしその分追加で金がかかるけどなぁ」


 見た目にこだわる層というのは一定数いる。

 そんな人たちのために、装備の見た目を変更できる機能があった。

 ただし、それには追加で料金が発生する。

 装備そのものや必要な素材を持ち込んだ場合は安く済む場合もあるが、それでも追加料金は取られる。

 だというのに性能は変わらず、見た目だけが変わるため、本当にお遊び要素だった。


「じゃあかわいくしよう!」


 しかしチョコは即決。

 かわいいは正義。

 異論は認めない。


「どんな風にできるんですか?」

「好きな風にできるぞ。元の見た目から離れてれば離れてるほど追加料金がかかってしまうがなぁ。あと、剣を斧にしたり、兜を上着に変えたりはできんぞ。要は武器種は変えられず、装着する部位とは別のものには変えられんってこっちゃ」


 ある程度の制限はあるものの、かなり自由度は高い。


「じゃあじゃあ! メイド服っぽくもできますか!?」

「うん? ああ、できるぞー」


 店主はチョコの連れているシルクを見て頷く。

 シルクはシルキーに進化したことによって、メイド服を着ている。

 しかし、それはメイド服とわかる、という程度のもので、細部は結構雑だ。

 言ってしまうと、ちょっとやぼったい。

 なので、もっとしっかりとかわいいメイド服を装備として作ってしまおうというのだ。


「となると、素体はこいつがいいかなぁ」


 店主はカタログからすり切れたローブ風の装備を指さした。

 見るからに禍々しい見た目の装備だ。

 そのローブが拡大表示される。

 どう見ても紙のカタログだが、そこはそれ、ゲームだから……。

 そしてタッチパネルよろしく、チョコがどこをどう変更したいのか操作していくと、その通りに見た目が変わっていく。

 禍々しいローブが、見た目を変更してしまえばあら不思議、メイド服に早変わり。


「いいですねー! あ! この杖! 箒にできませんか!?」

「箒? あー、できるなぁ」


 メイドさんには箒。

 なぜかチョコにはそんな認識があった。

 たぶん庭の掃除をしているイメージなのだろう。

 チョコはこれまた髑髏の意匠が施された禍々しい杖を、箒に変えようとしていた。


「カチューシャ!」


 そして、チョコは頭装備の三角布をカチューシャに変更。

 メイドと言えばカチューシャ。

 これは譲れない。


 そうしてシルクの装備一式を魔改造して作り上げたチョコ。

 次に取り掛かるのはコットンの装備だ。

 素体となる装備品はシルクのものと同じで、性能に変化はない。

 が、見た目はシルクのものとは別物に変更する。


「シルクがメイドさんだから、コットンはお姫様風で!」


 お姫様をコンセプトに、フリッフリのドレスチックな防具に、頭にはかわいらしい王冠、手には扇子。

 元が何だったのかもうわからん。

 満足のいく出来栄えにチョコはむふーと鼻息を漏らす。


「じゃあ、見た目はこんな感じでいいかぁ?」

「はい!」


 見た目の変更された装備一式を記録する店主。


「それで、取り寄せでいいんだな? 取り寄せる場合は追加料金が出るが、大丈夫かぁ?」

「はい!」


 そのお店にある商品を買う場合は取り寄せ料金などかからないが、遠くから仕入れる場合はその分追加料金がかかる。

 プレイヤーも街から街への移動ができるようになると、配達依頼などを受領することができるようになる。

 追加分の料金はそうした配達者への報酬を含むのだ。


「じゃあ、ざっとこんなもんだな」


 店主はそう言って料金を示した。


「たっっかっっーー!?」


 チョコの悲鳴が店内に響き渡った。

 キーンと鳴る耳を押さえ、そりゃそうだよなー、と内心で思う店主。

 装備の見た目を変更すると、元の見た目とかけ離れているほど追加料金がかかる。

 チョコのそれはもう元の見た目なんてほぼ残ってないくらいの魔改造っぷり。

 さらに言えば、ゴーストの装備はもともとが高めになっている。

 普通の装備じゃないからだ。

 そこにさらに配達料金がかかるわけだから、高いのもしょうがない。


「払えるかー?」

「うー。お安くなりませんか?」


 チョコのその言葉が返答だった。

 いくらチョコがβ版で荒稼ぎしていようとも、序盤も序盤の始まりの街でのこと。

 依頼を受けてお金を稼いでも、その金額はたかが知れている。

 要するに足りなかった。


「こっちも商売なんでなぁ。すまんが安くはできん」

「がっくー」


 口で効果音を言いながらその通りに肩と頭を落とすチョコ。

 うっきうきで装備の見た目を変更していただけに、それが手に入らないとなると気分も落ち込むというもの。


「見た目を変えなければそこまで高くはならないんだがなぁ」

「でもかわいくないのはや!」


 見た目を変えなければチョコの予算内で買えることは買える。

 しかし、見た目を変えないということは、元のおどろおどろしい禍々装備だ。

 そんなものをシルクとコットンに装備させたくはない!


「そうだなー。あと安く済ませるとしたら素材持ち込みでここで作るっていうのも手だぞ?」


 人のいい店主、チョコの落ち込みっぷりを見て解決策を模索していく。

 店に素材を持ち込んで装備を作ってもらえば、その分安く済ますこともできる。

 さらに配達ではないので配達料金がかかることもない。

 素材は複数あるが、必要な素材を持ち込んだ分だけ料金は安くなっていく。

 必ずしも全部の素材を集める必要はない。

 ただ、元の装備を作るのに必要な素材と、見た目を変更するのに必要な素材は別となる。


「素材! それがあれば安く作れるんですね!」

「そうだー。まずゴーストの装備を作るには、ゴーストのカードが必要だー」

「なんと!」

「ゴーストは北の平原を抜けた先にある洞窟で出現するぞー」

「ほほう!」

「そのほかの素材もメモしておくから、集められるようだったら集めてこーい」

「いえっさー!」


 店主から嬉々として必要素材の書かれたメモを受け取るチョコ。

 メモはそのままメニューボードにあるメモ帳に移植される。


「じゃあ行ってきます!」

「おーう。気をつけてなー」


 元気よく去っていくチョコ。

 それを見送る店主。

 そして思う。

 やっぱり何も買って行かなかったな、と……。

 ま、まあ、ほら、あれだ。

 素材持ち込めば買っていくから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
蜘蛛ですが何か読み終わったので他作品を読もうと思ったんです 更新されてませんでした シルクちゃんが頑張ってて可愛いので続き読みたいです。お願いします。
[一言] 蜘蛛が完結したから寂しさ紛らわせにきて見たらおもろい。ぜひ更新せてくだしゃい!(⚪︎▽⚪︎)!
[一言] 次の更新はいつですか、かれこれ3年くらい待ってます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ