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ふぁんもん  作者: 馬場翁
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せいしきばん

「会いたかったよー! シルクー!」


 正式版稼働初日。

 早速ログインしたチョコはシルクに向かってダイブし、すり抜けて後ろにいた人にタックルをかました。


「ごふっ!?」


 そして哀れな巻き込まれ犠牲者とともに地面にビターンする。

 その様子をシルクはやれやれとでも言いたげな表情で眺めていた。


「うわあ! ごめんなさい!」


 慌てて立ち上がり、タックルをかました人に謝るチョコ。


「い、いえ。痛覚はないから大丈夫よ。……ちょっとびっくりしたけど」


 起き上がったその人は、一言で言うとエロいねーちゃんだった。

 長身でボン、キュ、ボンを体現したようなスタイル。

 左目の下にある泣きぼくろがやたら色っぽい。

 露出が激しいわけではないが、醸し出す雰囲気がもう大人の色香がむんむんだった。


「おー。色っぽいですね!」


 そして思ったことをそのまま口にする正直者がここに一人。

 おねーさんは困ったように苦笑を浮かべながら眉を寄せた。

 フルダイブVRのアバターは現実の姿のままにするか、作られたものかの二択になる。

 が、アバターを一から作るのは大変なので、現実の姿からいじくって、理想の自分を作る人が多い。

 アバターを褒められて悪い気はしないだろうが、だからといって現実の姿とは異なるものを褒められても微妙な気持ちになる人は多い。

 ましてや色っぽいって、それ褒めてるのか?


「ありがとう。あー、一応あらかじめ言っておくと、私ネカマだから。そこのところよろしくね?」

「ええ!?」


 両手を上げて驚きのポーズをとるチョコ。


「……で、ネカマって何ですか?」


 やり取りを見ていたプレイヤーの何人かがカクッとこけそうになった。

 ノリのいい連中である。


「ネカマっていうのは現実では男なのに、女のアバター使ってる人のことよ」

「ええ!? ってことはおねーさん、男なんですか!?」

「そうよー」


 チョコがネカマという単語を知らなかったのも仕方がない。

 今やネカマは絶滅危惧種なのだ。

 なぜかと言うと、それはフルダイブだからとしか言いようがない。

 画面を見てコントローラーでキャラクターを操作していればいいだけだった時代と異なり、フルダイブ型のゲームでは実際にアバターを自分で動かさなければならない。

 そうなると、脳はアバターを普段の自分の体と同じように動かそうとする。

 するとどうなるか?

 男は男の、女は女の動きをしてしまうのである。

 男女では動きが違う。

 そもそも骨格からして違うのだから当たり前なのであるが。

 ぶっちゃけるとアバターを本来の性別と違うものに変えると、歩くだけで「あ、こいつは……」とばれる。

 それくらい違いが出る。


 そういったわけで、昔ほど気軽に性別変更をすることはできなかった。

 メーカーが現実の体や精神への影響を考慮して、プレイする際は性別を変えないことを推奨していることもあって、ネカマやネナベは激減した。

 それでも性別を変更するのは、強い希望でそうしている人や、演技に気合の入った人、ばれてもいいから楽しむ人、といった具合だ。


 で、このおねーさんの場合、演技に気合の入ったばれてもいいから楽しむ人だった。

 やたら色っぽいことを除けば、動きに違和感がない。

 だから言われるまでチョコはネカマだと気づいていなかったし、周囲のプレイヤーもそうだった。

 自称ネカマで中身普通に女なんじゃないの? という疑いがあるくらいには自然だ。


「私ハナビよ」

「チョコです!」


 流れでネカマおねーさんことハナビさんとフレンド登録。

 正式版から始めたハナビさんは、これからギルドに登録しに行くということで、一緒に行くことに。


「チョコちゃんはβ版からやってるのね。羨ましいわ」

「えっへん!」


 β版のデータは正式版にすべて引き継ぎができる。

 なので、シルクのレベルは10だし、所持金はたっぷりある。

 β版は一週間稼働していたので、β版をプレイしていたプレイヤーは一週間分のアドバンテージがあることになる。

 とは言え、β版ではモンスターは一匹まで、進化もできない、フィールドは東西南北の平原だけと、いろいろと制限があった。

 なので、正式版から始めたプレイヤーが追い付けないということはない。

 課金すれば経験値ブースターアイテムも手に入る。

 β版をがっつりプレイしたチョコとて、うかうかしていると後続にすぐ追いつかれてしまうのだ。


「たのもー!」


 チョコが大声を出しながらギルドの扉を開け放つ。

 隣にいたハナビさんが思わず耳をふさいでいた。

 その仕草も違和感がない。

 あんた本当にネカマか?


「じゃあ、ここで。いつか一緒に遊びましょ」

「はい!」


 ハナビさんとはここでお別れ。

 ハナビさんはこの後ギルドに登録し、スライムと戯れる通過儀礼をしなければならないのだ。

 チョコはやってないスライムとの心温まる交流を。


 で、チョコが何をしに来たのかというと、卵の購入である。

 β版では1匹しか持てなかったモンスター。

 しかし、正式版からは2匹目以降のモンスターも手に入れることができる。

 それにはギルドのランクというものを上げなければならないが、チョコはすでにそれはクリアしている。

 ギルドのランクはクエストをクリアしていけば上がる。

 チョコはレベル上げついでに動物系のモンスターの素材の納品依頼をこなしているので、ランクは2に上がっている。

 3も近いくらいだ。

 ランクが2に上がると卵を1個買う権利が与えられ、2匹目の手持ちモンスターをゲットできる。

 以降、ランクが1つ上がるごとに卵を買うことができる。

 つまり、ランク6になればフルメンバーの6匹編成にできるわけだ。

 そして7以降にも1個ずつ卵を買うことができるので、控えメンバーを充実させることができるようになる。


 そして、卵を買うことができる個数はこのランクによって固定。

 つまり、ランクが1上がるごとに1個のみ。

 そのため、モンスターを逃がすと、次に再度卵を入手するためにはランクを上げなければならない。

 わざとモンスターを逃がしたりすることはそうそうできないことになっている。

 例外はランク1の時にモンスターに逃げられてしまった時だけ。

 この時だけは手持ちモンスターがいなくなってしまうので、救済措置として卵を買うことができる。


 ちなみにこのランク、6まではかなり簡単に上がる。

 プレイヤー的にはとっととフル編成で遊びたいのだから、運営もそれを汲んでランクが上がりやすくしている。

 β版プレイヤーの中にはランク6に到達したプレイヤーもいるくらいだ。


 それなのにチョコがランク2止まりなのはなぜかと言うと、クマ狩ってたからだ。

 クマはギルドのクエストに一切触れていない。

 討伐依頼もなければ素材の納品依頼もない。

 ボスはその性質上、ドロップ品などを求めて周回するプレイヤーがいる。

 そのついでとばかりにクエストをこなされると、それだけしかしないプレイヤーが出てきてしまう。

 それを防ぐために、ボスはあえてクエストから除外されているのだ。

 そういったわけで、チョコのランクはシルクのレベルの割に低かった。


「卵くださいな!」


 まあ、そんなことチョコにとっては些細なこと。

 どうせクマ狩りは二匹目を手に入れればしばらくしなくなる。

 クマはゴーストであるシルクだからこそ、相性の差で圧勝できるのであって、そこに生まれたての☆1モンスターを連れていけばどうなるかは目に見えている。

 まずは新たな☆1モンスターのレベリングが先だ。


「はい、どうぞ」


 β版の時にチョコの大声に慣れたのか、受付のおねーさんは動じることなく卵をドンとカウンターの上に置いた。

 卵のお値段、1000Gなり。

 お金を全くと言っていいほど使わないチョコにとって、その程度のお値段は安いもの。

 ちなみにこの1000G、プレイヤーが初期に持たされる所持金。

 つまり、開始直後にモンスターに逃げられると、卵を買うだけで全財産が飛ぶ。

 そこから新たなモンスターの餌代などを稼がないといけないので、かなりきついスタートを切ることになる。


「ふんふふーん♪」


 鼻歌を歌いながら卵を受け取り、さっそく孵化させるチョコ。

 アイテムを何もあげないで。


 覚えているだろうか?

 卵を孵化するときには、アイテムを一つあげることができるということを。

 だいたいの場合モンスターカードをあげる。

 そうすると、そのモンスターカードのモンスターが生まれるからだ。

 そうしないと生まれてくるモンスターは☆1の中からランダムになる。


 そう、ランダムになるのだ。


「生まれたー! って! あれえー!?」


 卵が孵化し、新たなモンスターが生まれる。

 その姿は、シルクそっくりだった。


「かぶったー!?」


 チョコ、2匹目のモンスター、ゴースト。

β版から正式版へ

β版から正式版になるにあたって、バグやバランス調整などの修正で現実時間では少し期間が開いている。その間もちろんβ版プレイヤーはモンスターとお別れ。プレイヤーは寂しいと死んでしまうのでモンスターの皆さんは癒して差し上げましょう。

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