とい・ぴあの
別に投稿しています、「トイ・ピアノ」とのセットストーリーです。
こちらは、子どもの視点からになります。
「天才かもしれませんね…………」
初めて会う女の人の前でママに言われてピアノを弾いた。
ママの顔がお日様みたいに輝いた。
そうか、これをやればいいんだ。
「あいちゃん、ピアノ好き?」
「うん、大好き!」
だってママが喜ぶから。だってママが好きだから。
…………それに、家にあるちっちゃなピアノ、だーいすき。
ポロン、ポロン、ピンピン、チャンチャン、ダーンダン!
パパもいるけど、ママが好き。ママが大好き!
「なんで、ドッジやんないの?」
体育のドッジボールを見学してたら奈々ちゃんが呼びに来た。
ママから先生に『球技は見学します』って言ってあるから。
ピアノのため、指のため。
『万が一にでも、突き指でもしたら責任はどなたに取っていただけるの?!」
ママはモンペというらしい。奈々ちゃんのママがそう言っていた。
ドッジやりたい、ドッジやりたい、ドッジやりたい、ドッジやりたい、ドッジやりたい……………
友達と遊びたい、友達と遊びたい、友達と遊びたい………………
学校休んでコンクール行きたくない行きたくない行きたくない……………
この頃、飾ってある、トイ・ピアノから、女の子が出てくる。
その子は、自分のことを外国から来た魔法の使える妖精だといっていた。
「この頃私と遊んでくれないのね」
その子はそういったけど、会ったことがあるかしら?
私は『ドッジがやりたい』とその子に泣きながら言ったら、『友達だから、私がやらせてあげる』と約束してくれた。
『私の国に伝わる、[月とオオカミの魔法]を使う』と言っていた。
『でも、その代わり、』
その子は言った。
『あのピンクと青に星の散らばったきれいなドレスを頂戴な』
学校から帰ったら、家には知らない大人がたくさんいた。私は黒い服を着せられて何日も学校へ行かないことになった。
大人の人たちが、階段の下に、誰かがすごい顔で落ちていたって噂してたけど、何のことかわからなかった。
その人たちは、『あいちゃんのピアノも、これでおしまいね。ご自慢だったけど、送り迎えをする人がいないのだから』と言っていたけど、ピアノがおしまいって、なんだろう。
その間中、何日もピアノは弾かなかった。
そしてそれからもずっと。
ママがいないのに気が付いたのはだいぶ経ってからだった。
何年か経って新しいママが来てすぐ妹が生まれた。
また何年かして、ピアノの音が鳴るようになった。
それで、私はやっと、思い出した。
私の帰る家がない。
――――――――-私はあの、トイ・ピアノに住んでいたのだ。
お読みいただきありがとうございました。