―秋を越えたその先で―
小さい頃はずっと楽しい事が続き、その終わりはあっても果てはない。一つの輝くような『楽しい』が終われば次の『楽しい』が待っていて、それは延々と続くものだと信じて疑わなかった。
しかしそんな幼心に芽生えた希望は呆気なく崩れ去り、きみが僕の元から消え去ってからは驚く程全てが色褪せて映って見えた。
もういない筈なのにいつもの待ち合わせ場所で待ったり、もうひとりしかいないのに自販機で二本缶ジュースを購入したり。それを見てきみ以外の友達や仲の良い人からは『何やってんだよ』とよく笑われていた。僕はそれに合わせて『本当にな』と笑ってみせた。
その人たちは僕に彩りある世界を見せてくれる人ではない様で、依然として失われた色彩は何もかもを覆いつくしてしまった雪の様に冷たかった。
それでも自然と僕はその人たちとの関わりの中で、集団を生きていくうえでその時の状況環境にあった『優しい』『正しい』を使い続け使い分けて、時には心に微塵もない『美しさ』を生み出して彷徨い続けていた。
きっとここではこう言うのが一番『優しい』だろう、ああ今のこの場ならこういう反応が多分『正しい』のだろう。この人にはこう見せるのが一番『美しい』のだろう。そうやっていつしか押し殺す事すら忘れ、どこに埋もれたかもわからない本心を忘れてずっと。
気がつけばもう何度目かのあの季節になり、それをまた過ぎ去って何時間何日何年と経っていた。僕ももう子供という歳ではなく、もう直ぐ世間でいえばおじさんと呼ばれてもおかしくない年齢になってしまった。筋肉痛が遅れてくるし髭も一日剃らなければ顎がざらつく。本当に、おじさんになってきた。
それなのに今日の僕は何故かスーツに着替えたにも関わらず会社を休み、ふらりふらりと寂れて映る世界からはみ出す様に歩きだす。
その足取りは決して軽やかなものではなくだろうと感じる足音、その音だけが耳に届き頭を刺激するがどうにも焦点合わないまま歩き続け気がつけばいつかのあの場所に。
おそらく二十年ぶりくらいに訪れたあの時の待ち合わせ場所は、雰囲気こそはそのままであったものの木枠は朽ちベンチは半壊。
「……ここは本当に寂れたな」
その状態を前にほぼ無意識に随分と低くなった声でぼそりと呟いてた。
「でもちゃんと残ってたね」
そんな僕の声に対して少し幼さの残る高い声が背中に届く。
一瞬目を見開き、幻聴だと疑い、それでも一つの淡く輝く希望を抱いて振り返る。
その瞬間、世界の雪は溶け彩が踊り再び春が芽吹きだした。
寒くなってきたので暖かい話をかきたかった、そんな午前三時のなんつって文字列。