008.風が吹けば桶屋が…その1
「トルネドの夢は、世界一の武器商人だったな。ランスロット、この木剣を本気で振ってみてくれないか?」
お父さまの従兄弟であり、ボクの叔父にあたるケイ叔父さんに剣の稽古のお願いが終わった頃を見計らって、お父さまがそんな事を言い、ボクに向けて木剣を投げてきた。
木剣とは言え、軍の訓練で採用されている刃引きされた普通の剣との違いは若干の重さくらいの魔法で圧縮された木で作られたモノなので、打ち合ってもそんな簡単に折れたりしない頑丈なモノだ。
【念動力】
くるくる回って飛んできたボクの背丈ほどの木剣の速度と回転を調整して束を握り締めた。
お父さま、普通の3歳児だったら、木剣を受け取れずに、当たりどころが悪かったら死んでますよ。
「トルネドさんに向けて振れば良いですか? それともお父さまに?」
念動力を併用して隙のない中段の構えをとってみると、お父さまの顔が一瞬で青ざめた。
「違う。違う。海の方だ。俺やトルネドに向けてだと、手加減してしまうだろ?」
いや、手加減なんかしませんよ。
今なら、思いっきり振れちゃいます。
それより、何が目的なんだろ?
トルネドさんの夢と木剣の本気での素振りの関連性が全く分からない。
言われた通りに振ってみれば。それもわかるだろう。
「お父さま、本気で振って良いんですか?」
念のために確認しておく。
「ああ、頼むぞ」
「はい、お父さま」
【体幹強化】
魔法で一時的にステータスを向上させる。
恒久的にやっちゃうと、普段の生活に支障がでるからね。
本当に実際に洒落にならないくらい、体幹が強化される。
ボクの本職は槍術だけど、刀術もそこそこやっていた。
前世のボクの名前は、有栖乃 槍。
恥ずかしいくらいの超DQNネームだ。
と言うか、ボクの周りにはDQNネームのヤツが多かった。
今世でも似たような名前だ。
でも、今世のほうは全く違和感がない。
慣れなのか、慣れなのか、慣れなのか?
普通に考えれば、容姿と名前が一致しているのだからだろうな。
話を少し戻すと、有栖乃|家は、古武道道場を経営している御鏡家の19ある分家の1つ。
うちの有栖乃|家は、槍と銃を極めることを生業としていた。
なぜ銃もかって?
火槍と書いて銃だからさ…………。
で、今回の得物は木剣。
【付与魔法:風属性:木剣】
対海なので、風属性をチョイス。
まぁ、影響度を考えてなんだが……。
雷や火属性で周辺の生物を全滅させるわけにもいかないしね。
岩なんか落として、ガッチン漁みたいなことをしてはいけない。
さて、一撃に力を込めるなら精神を集中してからの抜刀系か……。
さすがにこの身体では木剣を腰にさしてからの居合いは出来ない。
そもそも、鞘がない。
でも、居合いは手段であり、目的は本気で木剣を振ることだ。
膝を曲げて、木剣を肩に担ぐ。
身体の魔力を呼び水として、木剣に付与した風属性の魔法回路を起動させる。
付与魔法の付いた装備は高額で取引されているので、一応、セキュリティを考えて、起動用の必要魔力は多めにしてある。
そのため、ある程度の魔力がある人が1,000人いれば起動できる設定にしてあるので、付与魔法の付いた装備とはいえ、使い道のない装備に成り下がっている。
本来なら、空気中の魔力だけを魔法発動に使うのだが、サービスで体内の魔力も上乗せしてあげましょう。
魔力過多によって引き起こされる魔法回路のショートが起きないギリギリのところで魔力供給を止める。
最後にすぅっと息を吸い込んで、息を止める。
「スーパー・ランスロット・アタック」
膝を伸ばしつつ、背負い投げの要領で木剣の振り抜くスピードとパワーを上げていった。
遠心力任せに木剣を振り回すのではなく、木剣の剣先が対数螺旋のように計算された軌道になるように木剣をコントロールする。
剣術は本職でないけど、ボクにだって、これくらい出来る。
って、体幹強化してあったんだ。
ああ、これは、ハイパークリティカルヒットな予感。




