054.はがねの錬金術師(?)伝説…その15
2話に分けても良いくらいの長さ
貴族たちのダレにも向けることの出来ない心の阿鼻叫喚が……
「そこの宝物官、つっ立っていないで、さっさと大公さまのワインを鑑定して価格を教えないか」
えっ?
貴族は金額を気にせず、飲み食いするの?
ボクには無理そうです。
「………4,800」
ワインの価格を聞かれた宝物官がそう呟いた。
ボクの鑑定魔法の結果と同じだ。
でも、実際、これは売値、卸値、どちらなのか?
「1本4,800ペッタンですか。なかなか、いい値段がしますね」
「記念で送ったり、飲んだりするにはいい感じの値段ですね。さすがに恒例のパーティには出せませんが……」
「透明度の低いガラス瓶に入っているって、このアンティークさがいいですね」
「味もなかなかですよ」
「ほんとうに美味しいですね」
「はしたないですけど、ラッパ飲みも良いですね」
「4,800ペッタンとは思えない美味しさです。もう1本、いや5本貰ってきますね」
「私も貰ってこよう。無くなる前に確保しなくてはいけませんね」
ペッタン?
ペッタンって通貨単位だよな?
1ペッタン、約20円。
4,800ペッタンなら、96,000円………元いた世界でも超が3つ付くほどの高級ワインの価格だ。
ちなみに4,800円でも高級ワインだ
「なら、俺もひ孫の小遣いのために、25本ほど買っておくか」
ひいおじいさま、国王さまなんですから、もっと買っても良いですよ。
「(止めておけ、これは貸しだぞ。鑑定魔法が使えるようになってるんだから、日頃から使う癖をつけておけ)」
マッコォイさんが、ひいおじいさまに耳打ちをしている。
会話の内容は、途切れ途切れでよく聞こえないな。
「(何が貸しだ。ひ孫に小遣いくらい………………すまん助かった。こんなに高いのか? って、お前知っていたのか! と言うことは、あの利子は………………死の商人マッコォイは、まだ現役か…………)」
ひいおじいさまも、真似てひそひそと話しているので、会話が聞き取れない。
「(素行の悪いヤツらは全員借金漬けになるようにしておいた。これも貸しだからな。それから、ちゃんとひ孫に小遣いをやるんだぞ。ひ孫の稼ぎ以上にな。くくくく)」
「(く、無理言うな。マッコォイ、後で『王家御用達』の看板をやる。これで貸し借りはチャラにしておけ)」
「(いいや、『王家御用達』の看板は自動的に入るから、それではダメだ。貸しはまたの機会に返してもらう)」
「(自動的にって………)」
「(坊ちゃん閣下は手広くやりたさそうだ。でも、手は2つしかないからな。そして、足りない分はわしが貸し出す。国王さまは、坊ちゃん閣下に貸し出せるような優秀な手駒をお持ちかな?)」
「(………分かった。今回は借りにしておく。無理難題ふっかけて返せって言うなよ)」
「(さあな)」
「(くっ)」
ひいおじいさまとマッコォイさんとの、ここにいても背筋が凍るようなひそひそ話が終わったようだ。
「………4,800枚」
さらに、宝物官がそう呟いたが、みんなスルーした。
「ははは、本当に美味しいですね」
「私はもう1本貰ってきますね」
「待ってくださいよ。私も行きますから」
「飲みやすくていいワインですね」
「いくらでも飲めちゃいますね。私はもう5本目ですよ」
「私は7本目です。いままで飲んでいたワインに戻れませんなぁ」
「これなら、1本4,800ペッタンじゃ安いくらいですね」
「アロンダイト大公さまの『奇跡のワイン』、完売いたしました」
そう、マッコォイさんが叫んだ。
マジで完売か。
貴族の購入力半端ないなぁ。
そして、宝物官が叫んだ。
「そのワイン1本の価格………金貨4,800枚です!!」
「「「「「「ぶうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」」」」」」
みんな一斉に噴いた。
盛大に噴いた。
床に敷いてあるクソ高い毛氈がワイン浸しです。
「噴くな。噴くな。宝物官が言ったことが本当なら、それでいくらになると思っているんだ?」
「宝物官、今言った金額は確かなのか?」
「本当です。海底深くで、約600年間、木製の樽に入っていても、海水に触れることなく、超高級のワインが低温熟成されてとっても味が良くなった状態のレアなワインを海底から引き上げて、瓶詰めしたワインです。これだけの条件が揃っているんです。正直、金貨4,800枚でも安いと思われます」
そして、ボクの方に視線が集まる。
「はい、リヴァイアサンに海底深くから取って来て貰ったワインです。1本2本売れればいいなぁって思っていたら、200本も売れて感激です。みなさん、本当にありがとうございます」
可愛らしさを前面に押し出した3歳児スマイルで答えちゃう。
ボクに文句を言えずに、今度はひいおじいさまの方に視線が向かったが、ひいおじいさまは首を横に振るだけだった。
周囲の人たちの顔が青くなる。
「いつもニコニコ現金取引のマッコォイ商会でございます。ご不要になりました『お屋敷』『光物』『お姫様』など、お安いですが、必ず現金化いたしますのでご利用ください。また本日ご購入頂いた分は翌朝鶏が鳴くまでにお願いしたします。また、商品のキャンセルは、時価というわしの気分次第で、商品代金の半額から受付いたします。国王さまから直々に頼まれたこの仕事を邪魔する方はいらっしゃいませんよね? さて、『偉大なる太陽亭 』の食堂をしばらくマッコォイ商会の仮店舗として、借りれたようですので、お支払いの方はそちらでお願いしますね。また、支払いの順番待ちをしてる間に鶏が鳴いたとしても、きちんと利子は頂きますので、お早めにご来店ください。では、トルネド、ピピン行くぞ」
そう宣言して、お城を出て行った。
「はいよ」
「はい」
もちろん、トルネドさんとピピンさんも、それに続いた。
さらに周囲の人たちの顔が青くなった。
「く、屋敷に戻って、金を集めなくては!!」
「おれ、10本飲んじまった」
「諦めて、代金を払うんだな」
「ちょうど、扱いに困った娘がいるから、これを機会に………」
「屋敷を買ったとこだったのに………でも、ワイン、美味かったよな………」
「ああ、こんなことなら、もっと味わっておけば良かった」
「死の商人マッコォイの取立て………体験しないといけないのか」
慌しく、みんな出て行ってしまった。
こうして、残ったのは身内だけになった。
「坊主………いや、閣下」
ケイ叔父さんがやって来た。
「頑張って、ランスロットさまのお小遣いのために支払ってくださいね」
ヴィヴィアン、容赦ない。
「ランスロット………」
同じようにお父さまもやって来た。
「あなた…………」
「………………はい」
お母さまの一言で諦めたようだ。
「お父さまも、エクトル卿も働いて返してくださいね」
項垂れる2人のいい大人。
「ヴィヴィアン、一生の不覚……ワインを買って、この身体を代金代わりに払えばよかった。ランスロットさま。ランスロットさま。ヴィヴィアンにワインを売ってください。代金はこの身体です」
いや、出して欲しいならワインくらい食事時に普通に出しますよ?
さて、このサブタイのまま、1章ラストまで突き進みます。
だって、はがねの錬金術師がまだでてきてないしね。
なかなか、順番が回ってこないが、はがねの錬金術師云々ってところはある程度は書いてある。
【有栖乃流:(略)『世の中等価交換じゃないんだよ』】
いまから謝っておきます。
つまんないオチでごめんよぉ。




