023.それはボクのおいなりさんだ…その4
お父さまを睨みつけていたヴィヴィアンが話を続けた。
「お嬢様は、ランスロットさまが、完全回復魔法で病気を治してくれた後に、魔法回路基板も治っているんじゃないかと魔法が使えるか試したんですけど………、やっぱり使えなかったようで……」
あれれ~、おかしいぞ。
見た目上は魔法回路基板も治っていて、魔法回路も綺麗だったのに……。
「お母さま、試しに魔法回路に起動用魔力を込めてもらえませんか?」
確認のためにお願いした。
よく分かんないけど、魔法回路解析魔法や転生特典の魔法創造の影響もあるのか、魔法回路基板や魔法回路の知識は一般常識以上に持っている。
「うん、ダメだと思うけど……」
お母さまの、魔法回路基板と魔法回路をチェックすることにした。
【魔法回路解析】
お母さまが、魔力を流す前に発動させる。
いやあ、魔力が流れた後でチェックしても無駄ですからね。
再チェックが必要かも知れませんしね。
実際、もうちょい早く発動させた方が安全だった……まぁ、いまさら遅いんですが……。
魔道具を作るために長いものだと数か月も記憶だけを頼りに目隠し状態で魔法回路を組み込んでいる付与魔法士が欲しがるだろうオリジナルの適当魔法で確かめてみる。
おっと、お母さまが、魔力を込めたようだ。
その魔力の流れを……って、止まってるじゃん。
デバッグ用のステップモードにするまでもなかった。
魔法回路の入り口が詰まってるようで、魔法回路の方に流れていない。
長い間、魔法回路を使っていなかったので劣化した魔力が詰まってたようだ。
まるでカ○サキのフューエルインジェクションクオリティ。
キャブレターじゃないんだから、詰まらせるなよ……。
「お母さま、ちょっとちくっとするかもしれませんけど、我慢してくださいね」
実際に痛いかどうかは分かりません。
だって、ボク、一般常識の不足している3歳児だし………。
ごめんなさい。
実際に、治療と言うか修理と言うか、初めてやるんですからね。
と言うか、初めてだから痛…………な、なんでもないです。
「ランスロットがそう言うのなら、ママはうーんと我慢しちゃう」
痛いとしても、そこまで痛くはないと思うんですけど……。
【魔法回路修復】
魔法回路修復魔法で映し出された網膜走査ディスプレイのツールボックスから、歯医者さんが使う超音波スケーラーのような効果を持つ魔法を選んで詰まった魔力を削っていく………。
さすがに制御しないまま魔法を起動させるのは危ないので魔法はキャンセルさせておく。
【魔法回路最適化】
ついでに最適化を行っておく。
豪快すぎる魔法回路はお母さまらしいけど、魔法回路基板のスペースが勿体ないですからね。
おかげで小さい魔法回路なら3つ分のスペースが空いた。
「お母さま、どうですか? 魔法が使えるようになりましたけど……」
キョトンとした表情のお母さま。
崇拝するような表情でボクを見つめるヴィヴィアン。
無表情で身動きしていないお父さま。
「ふぇ? もう出来たの? そんなに痛くなかったけど、ママはまた魔法が使えるように治ったの?」
肩透かしを食らったような表情だ。
「はい。長い間、魔法を使っていなかったので、劣化した魔力が目詰まりしてたようです」
お母さまの顔が徐々に感極まった表情に変わってきた。
「う、う、嬉しいよぉ。ママ、嬉しいよぉ」
泣きながら、ボクに抱き付いてきた。
同じく泣いているヴィヴィアンと一緒に………。
あ、あの、ボクはブレストプレートで痛いです。
ヴィヴィアンも力が入り過ぎです。
お豆腐どころか、包丁すら入らないもぎたての南瓜も潰れそうです。
「ぼ、ボクに抱き付くより、魔法を試して見て下さい。狙うなら、あっちの方を…………、そうです。そうです。魔法回路基板にスペースが出来たので、被害が出ないような安全な魔法を組み込みましょう。お母さま、どんな魔法がいいですか?」
火魔法で周囲の食材を焼かれたくありませんし、体幹強化をかけたまま抱き付かれるのは勘弁して欲しいので、ボクにも安全な提案をしました。
「「「な˝っ?」」」
なんかボク拙いことを言いましたか?




