016.ピピンのちにアットまたはマーク…その1
書いてたら長くなりそうなので分割
僕はピピン。
中堅の商会であるトルネド商会のトルネド会頭の息子だ。
よく間違えられるが、オヤジは生きているし、宿屋の息子でも、兵士でもない。
誰と間違えられているんだ?
中堅の商会と言っても会頭自らが行商に出ないといけないくらい厳しい経営状態だ。
これもオヤジの世界一の武器商人なるっていう夢があるため、世界一の武器を買うための資金を貯めながら営業しているので伸び悩んでいる。
世界一の武器を買うための資金が仕入れに使えたらなぁ…………。
ここ数日で、客の求める商品が変わった。
となりの国に嫁いでいったお姫様が文字通り飛んできて、エルフティア王国の戒律である菜食主義をぶっ壊したからだ。
王城ごとなのが信じられないが………。
僕の情報だとお姫様は病弱で余命が短く最後の夢になるだろうと一目ぼれした隣の国の近衛騎士と結婚したんだ。
確か病気で、魔法回路基板が壊れて魔法が使えなくなってたと記憶していたが?
エルフといえば魔法、魔法と言えばエルフというくらいの認知度なのに、お姫様は魔法を使えなかったんだ。
目に見えないが確かにある魔法回路基板に魔法回路を組み込むことで魔法が使えることになる。
魔法回路基板は万物共通で無機物に魔法回路を組み込めば魔道具になるんだ。
せっかく魔道具の勉強をする機会を貰えたんだから、魔道具を扱えるようになりたいな。
オヤジが役に立つかもしれないって、勉強のためのお金を出してくれたんだ。
「おう、帰ったぞ」
そのオヤジが戻ってきた。
「おかえり、オヤジ。長旅の後で疲れているだろうけど、早速で申し訳ないが、新しい商品を仕入れたいんだ」
「新しい商品?」
「ああ、肉だよ肉。お姫様によって戒律である菜食主義がぶっ壊されたんだ。で、今までの反動で、みんな、口に出来なかった食材を求めて買い漁っているんだ。今なら、どんなものでも高く売れるんだ。だから、肉を仕入れさせてくれよ」
「(エレインさまがこんなに早く動くとは予定以上だな……………。なら、ここの店を畳むのは愚策か………) おい、ピピン」
オヤジがエレインさまがどうのこうのってブツブツと呟いていたと思ったら、いきなり、僕の名前を呼んだ。
「な、なんだよ」
「お前、独立する気はあるか?」
今まで何度言っても絶対に許されなかった独立。
何簡単に許可してくれるんだ?
「ああ、この商会より大きい商会にしてやる。オヤジなんかよりすごい商会を作ってみせる」
オヤジを超えることが僕の夢だ。
小さいなんて言うなよ。
いつだって、親は大きく見えるんだよ。
「俺より凄いか……世界一の武器商人より難しいぞ。………分かった。この店とこれをやる。それから、店の看板は自分のにしろよ」
いや、世界一の武器商人より簡単だろ?
それより、オヤジがアイテム収納から取り出してくれたのは…………。
「お、オヤジ、これ、世界一の武器を仕入れるための資金じゃないのか?」
世界一の武器を仕入れるための資金については物心ついた頃から聞かされていた。
いや、きっと、それ以前からだろう。
聞き飽きたなんて言わない。
夢を語っているときのオヤジはかっこいいんだ。
だから、僕はオヤジを超えたいんだ。
「そうだ俺の夢の代金だった。そして、これからはピピン、お前の夢のための資金だ。無駄にするんじゃねぇぞ」
いかん、涙が出てきそうだ。
でも我慢だ。
聞かないといけないことがある。
「お、オヤジ、夢を諦めたのか?」
そうだ。
世界一の武器を仕入れるための資金を手放すってことはそう言うことだ。




