013.風が吹けば桶屋が…その6
その8あたりまでいきそう
「坊ちゃまから、伝言ですぅ。城郭内に退避しておいて欲しいとのことですぅ」
何言ってんだこいつは?
と口に出さなくて良かった…………。
なんだかんだ言っても、エルフティア王国のお偉いさんだ。
俺みたいな、なんちゃって男爵とは大違い。
患部っぽいくせに、軍の幹部を抜くと立場的に一番上にくるらしい。
実際、患部ならナンバーワンだそうだ。
軍じゃなくて、エルフティア王国全体でな。
「城郭と言っても、城郭って、どこにあるんだよ!」
口に出してはいけない言葉を飲み込んで、問題なさそうなセリフにしておく。
度重なるマーリンシールドのせいで、とうとう壊れてしまったのか?
最上級のの残念な娘が頭も残念な娘になってしまったようだ。
「後ろにあるますけどぉ? ほらぁ」
マーリンが指さした後ろを見ると、王都の城郭を遥かに越える大きさの城壁とそれを囲うように幅が20mはあるだろう水掘がそこに存在していた。
「「「「「「な˝?」」」」」」
いきなり、こんなもんが出来てたら驚くだろ。
エレインやトルネドやケイたちも同じ反応だ。
マーリンは残念な娘だけど、頭が残念な娘になっていなかった。
見た目では3層構造になっていて、城郭の上部は高さ2m、土台は見えている部分が高さ約1mの一枚岩で、真ん中が同じく1枚の高さ約20mの鏡で出来ている。
城門などを細かい部分抜いた大きな部分は3ピース構造になってて…………細かいって言っても、城郭の高さと変わらないくらいの城門の扉だからかなり大きいぞ。
もしかして、城郭は1枚の岩でできていて、鏡が埋め込んであるのかもしれない。
って、上は1枚の透明度の高いガラスのドーム状の屋根が付いていて城郭全部を覆っている。
なんじゃこりゃあ。
シーターさまの加護持ちはなんでもありだ。
この城郭一式はたぶん………絶対にランスロットが作ったんだろう。
それもジャイアントシーイールと闘いながらだ。
「この城郭は、魔道具になっていて、防御結界が張ってあるそうですぅ。中の温度も調整しているらしいですよぉ。信じられないですよねぇ」
シーターさまの加護持ちは、ここまで出来るものなのか……。
実際に出来ているんだよな。
数十年掛けて作ろうとしていた城郭が予定以上の完成度で出来上がっていた。
「とりあえず、みんな、城郭に中に……。エレイン、行こう」
今はそんなことを考えている余裕はない。
「はい、あなた」
みんなと水堀にかかった跳ね橋を渡り城門のところまで来た。
これを開けるのか………。
約20mの鏡の門、何人掛かりで開けないといけないんだ?
「ちょっと、離れて下さいですぅ。ブリタニアン卿はこちらに来て、えっとぉ……この開閉スイッチに触って下さいですぅ」
そう言って、城門横の小門のところにある言われた場所に触れると城門が自動的に開いた。
小門の扉も同時に開いた。
「登録者が触れると簡単に開くようになっているそうですぅ。さぁ、早く中に入って下さいですぅ」
近いから、小門の方から入ろうとしたら、一応領主なんだから、最初に城門をくぐれって言われた。
と言うか、一応は余計だ。
この状況に対応できているランスロットの方が領主に向いているかも…………向いているが、まだ、3歳児だ。
わんぱくでも…………これ以上、わんぱくは困るんで、もうちょっと大人しく子供っぽく伸び伸びと育って欲しい。
で、これは、どういう仕組みになっているんだ?
外からは鏡に見えたが、中からはガラスのように外が丸見えだぞ。
これも魔道具なのか…………。
魔法で作っているから、原価は0ペッタンだと思うが、実際に作ったとしたら、とてつもない金額になっているだろう。
小さい鏡で金貨10枚はくだらないのに、これだけ大きくて、精度が高く、魔道具の鏡だ、国、2~3国分……いや、値段なんかつけようがないな。
「坊主がやりやがった。ジャイアントシーイールが真っ二つだ」
ケイのセリフで、意識がランスロットとジャイアントシーイールに引き戻された。
城郭については後回しだ。
マジか、さすがは俺の息子。
あ、うん、事実だが、なんだかなぁって感じだ。
息子に越えられる日が来るとは思っていたが、早すぎるぜ。
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」
歓声が上がった。
ダメだと思っていた状況が一気に攻勢になったんだ。
俺だって、感極まって歓声を上げた。
「あ、ジャイアントシーイールが復活しやがった」
消えた下半身が現れて、ジャイアントシーイールは元通りに戻った。
なんだよ。
俺の感動を返せよ。
「どういうことだよ」
「チート過ぎんじゃねぇか」
「あ、また、坊主がジャイアントシーイールをやった………あー、また、回復されたぞ。無くなった部位まで回復とか反則だろう」
「こりゃあ、若とジャイアントシーイールの魔力・体力勝負になるのか?」
「そうなると、ボンの方が不利だな。魔道具の木剣の威力も落ちているみたいだし……」
「助けに行ってやりたいが……、規格外の3歳児を見守ることしか出来ねぇ」
遙か遠くの海上でランスロットとジャイアントシーイールの死闘が繰り広げられている。
ランスロットの優勢劣勢が幾度もなく繰り返されている。
「ランスロット……」
「ランスロットさま……」
「坊主……」
「ボン」
「若……」
3歳児に全てを任せて、一切手出しが出来ないジレンマ。
いつしか声援から手に汗握り各々の呼び方でランスロットを呼ぶだけになった。
「えっとぉ、坊ちゃま、きっと、遊んでますよぉ。木剣には魔法を使っていないようですしぃ。そもそも海をも割れる木剣に魔力を込めてたら、一振りで勝負ついてますよぉ。それに坊ちゃまがジャイアントシーイールに完全回復魔法を使ってますからぁ。なんか目的があって今の状況を維持してるようですよぉ」
そう、残念な娘がそう言うまでは……。




