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異界人と冒険者パーティーを組むことになりました。

「…………はい?」


 エリスの発言を理解できず、思わず聞き返してしまった。世界が、なんて?


「ですから、私、異世界から来ちゃったみたいなんです。今まで私が暮らしてた世界に魔法だとかモンスターだなんて存在しなかったんですもの」


 異世界、異世界。そうきたか。

 確かに伝承なんかによれば、この世界とは異なる普通なら行き来できない世界が存在する、なんて話はあったりする。異世界から来た人間が現れた、という話も聞いた事がないわけではない。そういった人間の事を異界人と呼ぶのだったか。


「自分が異界人だって言いたいのか?」


「異界人! そんな風に呼ぶんですね。はい。私、異界人みたいです」


「魔法やモンスターが存在しない、って、なら何で存在しないものをお前は知ってるんだよ」


「や、存在しないと言いますか、現実にはありませんでしたけど空想とか創作物にはあったんですよ。時代によっては存在するって信じられてた頃もあったらしいですし」


「この世界の言葉、西大語が話せる理由は?」


「それはわかりません。というか、私からするとシオン君が私の知ってるニホンゴを話してるようにしか聞こえないんですけど」


 言語の件はともかく、それを除けばなるほど、先程の会話の噛み合わなさ具合にも納得ができる。魔物や魔法が存在しなかった世界。信じ難いがエリスがそんな世界から来たのであればシオンが冒険者である事や魔物の存在等を疑っていた事も納得がいく。


「異界人が来るのって、こっちだとよくある事だったりするんですか?」


「いや、眉唾物の話だったよ……そうだ。話の続きは移動しながらにしよう。ここに留まってたらまた魔物に襲われるかもしれない」


 まだ話の途中だったが、ゴブリンが現れた理由を思い出した。そもそもシオンがこの場所に来たのも、奇妙な光が目に入ったからだ。あの光を見たのがあのゴブリン達だけとは限らない。


「っと、その前に……」


 この場を離れる前に、取る物は取っておかないと。シオンは鞄からナイフを取り出すと、足元に倒れているゴブリンの遺体の前にしゃがみ込み、その胸元あたりに刃を入れ切り開いていく。


「……何してるんですか?」


「魔石を取るんだ。せっかく魔物を倒したんだ。少しはその労働に見合った報酬が欲しいからな」


「あ〜、ドロップアイテムですね!」


「……お前、異世界から来た割に妙にこの世界の理解が早いよな?」


「いえいえ、元の世界の創作物と照らし合わせているだけですので」


 魔物はその体内、主に心臓の部分に魔力の結晶を精製している。魔石と呼ばれるそれは魔術の触媒等に利用でき、魔物からしか入手できない為に売り払えばそれなりに金になる。強力な魔物ほど有用な魔石が精製されるが、ゴブリン程度の魔石でもシオンにとっては良い収入だ。

 倒した魔物から得られる金目の物は魔石のみではなく、それらの総称をドロップアイテムと呼んでいる。その事を知っているあたり、本当にエリスが異界人なのか疑わしいところだが。


 取り出された魔石は、予想通り親指程度の大した大きさもないありふれたものだった。布切れで血を拭い、一緒に鞄にしまう。


「待たせたな。さっさと離れるぜ」


 鞄を背負い直し、コンパスを確認し歩き始めるシオン。エリスも大人しく従い、シオンに着いて行く。


「ところで、オレがお前を見つける前、ここで妙な光を見たんだが……心当たりはないか?」


「光、ですか? いえ、シオン君に起こされるより前は私、元の世界の記憶しかないですよ」


 一応、謎の光の原因を聞いてみたが、やはりエリスに心当たりはなさそうだ。シオンが見つけるまで彼女は寝ていたのだから当然か。


「多分、私がこの世界に召喚された時の光なんですよ。それ以外考えられません! ……考えられませんよね?」


「……まあ、お前が本当に異界人だってんならその理屈で良さそうだな」


「もー、ホントですってば〜」


 疑いを解かないシオンに憤慨しながらついて来るエリス。謎の光の原因はもうこの際どうでもいいか。


「ところで、自称異界人さんはこれからどうするんだ?」


「自称じゃないですってば〜……えっと、元の世界に帰る方法って知ってたりは……」


「知るわけないだろ」


「ですよねー」


 エリスが異界人かどうかはさておき、身寄りがないのは明らかだろう。ついでに見たところ文無し。帰る手段もないとなると、今後どう生きていくつもりなのか。


「とりあえず街まで連れて行ってはやるよ。信仰魔術が使えるんだから、教会にでもお願いすれば職もどうにかなるんじゃないか?」


「えっ……これからも色々助けてくれるんじゃないんですか?」


「馬鹿言うなって。こちとら明日の飯にもありつけるか不安なくらい貧乏冒険者だぜ? オレに何期待してたんだよ」


 どうやらエリスは今後の事をシオンに頼ろうとしていたらしい。だがこちらを当てにされても困る。主に資金面で。

 実際はある程度蓄えがあったりするが、それをここで言う必要はない。魔物が闊歩する街の外から保護してやるだけ温情だと思って頂きたいところだ。何せシオンには何のメリットもない慈善活動なのだから。


「うぅ〜、せっかくこうして会えたんですし、きっとここで会ったのも何かの縁だと思ってもうちょっと付き合ってくれたりなんて……」


「そんな事してオレにどんなメリットがあんだよ? さっきも言ったが、オレは他人を養えるほど裕福じゃないぜ」


「な、なら……そうだ! 私も冒険者になります!」


「は?」


  エリスの思い付いた言葉は、シオンの予想していなかったものだった。


「ほら、私って回復とかの魔法が使えるみたいじゃないですか! きっとシオン君の手助けになるんじゃないですか?」


「お前……わかってるのか? 冒険者ってすげー危ない仕事だぞ?」


 信仰魔術が使えるエリスなら、もっと安全な仕事を探そうと思えばいくらでもあるはずだ。それをわざわざ身の危険が高い仕事を自ら進んで行おうなど、正気を疑う。


「だって、シオン君に助けられましたので恩返ししたいですし……それに、異世界に転生とか召喚とかされた現代っ子はチート能力持ちなのがセオリーです! きっと私も無双しちゃったりするくらい凄いチカラが……あるのかな?」


「チートって何だよ? ……まあ、確かに聖術師が仲間にいるのは助かるが……」


「ですよね! そうと決まれば、街に着いたら早速冒険者登録です! ギルド? クラン? こっちだとそういう場所は何て呼んでるんですか?」


「待て待て、納得したわけじゃねーぞ。第一お前、冒険者としての知識とか何もないだろ」


「それはどんな仕事しようと同じですよ。て言うか、冒険者って仕事なら元いた世界の創作物から参考になりそうな知識もあるかもしれませんし!」


「あてにしていいのかそのにわか知識……」


 あまり乗り気ではないシオンだが、冒険者を志す事自体は、エリスの境遇を考えると決して悪い選択肢ではない。冒険者は実力が全てであり、その人物がどんな過去を持っていても基本的に関係なくありつける職業なのだ。異界人などを名乗る奇異な人物であろうとも。


 エリスが冒険者になる事は可能だろう。問題はその後だ。

 別にシオンはパーティーを組んで冒険がしたくないという訳ではない。というか、好きでソロ活動をしている訳でもない。自分があまりにも実力が乏しいので、パーティーを組んでくれる冒険者がいなかっただけだ。

 自分にできるパーティー内での役割を強いて挙げれば、索敵を主とした斥候役と言ったところだが、それに向いている能力も多少あれど、それ以上に戦闘技術の稚拙さが目についてしまう。他の冒険者からすれば組む利点は薄いと言わざるを得ない。パーティーを結成したいというエリスの申し出自体は、考えてみればシオンにとっても悪くない話なのだが……。


 とりあえずエリスと共に仕事を始めた場合の損得を整理してみるか。


 まず、暫くは新米冒険者であるエリスの教育になるか。

 いくら信仰魔術が使えるとは言っても、エリス自身は今までそれを扱った事がないらしいから、適した使用法を覚える必要もある。というかこいつ、どれくらいの信仰魔術を使えるんだ? ヒールとプロテクションだけなのだろうか? それだけでも有用である事は確かだが。


 また、報酬も当然二等分になる。そうなれば今までの収入が半分になってしまう……が、シオンがそれまで主にこなしていた仕事は野草採取と、たまに弱小な魔物の討伐といった程度。

 それはシオンの実力が低い事以外にも、一人で仕事を行なっていたが為にほぼ確実に安全な仕事しか受けられなかった事が理由だ。多少強くても今の実力でも勝てそうな魔物というのは存在しているだろうが、仮に討伐に成功したとしても、それで自分が怪我を負ってしまえば街まで帰れず道中で他の魔物に襲われ命を落としてしまう可能性があった。

 仲間がいればそれでもカバーしあう事で切り抜けられるかもしれないが、単独では危険が高すぎる。その為にシオンは今までは簡単な仕事しかできず、収入も大したものではなかった。

 だが、エリスと共に冒険するとなると話が変わってくる。


 例えエリスが戦闘の経験が一切ないにしても、共に冒険に着いてくる者がいるというだけで、そのうえその人物が治癒の魔術が使える聖術師となると、今まで以上の難易度の仕事にも手が届くというものだ。収入に関しては、例え二等分になろうとシオンが一人で冒険者を続けて行くよりも増えるはずだ。


 残る問題は、エリスとの信頼関係か。共に冒険する以上、気が合う者同士でなければ長くは続かない。そのあたりシオンとエリスはどうなのだろうか?


「まあ、お前が冒険者になりたいってのは別にオレがとやかく言う事じゃねぇだろうけど……だからって別にオレの手助けをする必要はないんじゃないか? 恩を感じてくれるなら後で金なり何なり稼いで渡してもらうだけでもありがたいぜ? 聖術師なら必要としてくれる冒険者パーティーも多いし、オレみたいなひよっ子冒険者と組む必要はないと思うぜ?」


「えー、そんな事言っちゃうんですかー? もしかして私、嫌われちゃってます? ショック!」


「いや、別にそういうわけじゃないが……むしろ何でオレなんだ?」


「や、だってすっごい優しくて良い人ですし、気が合いそうですし、一緒にいて楽しそうですし、顔も結構好み……あ、これは関係ないですかね?」


「何だそれ……別に優しくした覚えはないぞ」


「んふふー、そういうトコロですよもー」


 くねくねと奇妙な動きをしながら機嫌良く語るエリス。何だこいつ。


 とりあえずエリスはシオンの事を好意的に見ている事はわかった。まあ、シオン自身エリスの人柄というか、人物としては悪い印象は……まあ、ない、と、思う。少し……いや、かなーり変人だとは思うが、悪い奴ではない。

 エリスと冒険者パーティーを組んだとして、まあ、友好関係の面で問題にはならないと思う。会って間もないというのに何だかんだ打ち解けている事だし。


「……はぁ。まあいいさ。お前がそうしたいなら文句はねぇよ。仲間に聖術師がいるってのは心強いしな」


「やった! これから宜しくねシオン君!」


 結局は折れて同意したシオンの手を少し強引に取り、笑顔を向け握手するエリス。僅かに気恥ずかしさを感じながらも、シオンもその手を握り返す。


「ああ、宜しくな、エリス」

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