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番外編:異世界人と海・後編。

番外編の後編になります。前編を未読の方は前話からどうぞ。

「肉ぅーー!」


「取りすぎだろてめぇ!」


「野菜も食えよー」


 シオン達が浜に上がった頃、同じタイミングでマサヤ達もイサミの元に集まった。イサミがバーベキューをしている横の簡易テーブルの上には、既に結構な量の料理が焼き上がっていた。その半分以上が肉。これは旨そうだ。

 皿を受け取ったマサヤが我先にと大量の肉をかっさらいユートと揉めている。テンション高いなぁ。


「で、どっちが勝ったんだ?」


 料理を皿に装う三バカに勝敗を尋ねた。勿論先程のビーチなんたらとかいう球技についてだ。


「とーぜん俺の圧勝だったぜ!」


「貴様が逃げるからだぞシオン!」


「正直に言うとシオン氏が参加していようがいまいが結果は変わりそうになかったがな!」


 結果はやはりマサヤの勝利だったらしい。うん、まあ、そもそもトモエもユートも術者タイプなのに運動系の勝負でマサヤに挑もうというのが間違いだろうに。


「マツリはどうしたんだ? 顔色が優れないが……おいシオン、何かやらかしたんじゃないだろうな?」


 マツリが意気消沈しているのに目敏く気付いたユートがシオンに突っかかる。言いがかり……と言いたいところだが今回ばかりは当たらずも遠からずなので少し顔が引きつってしまった。


「……オレが悪いわけじゃねーし」


「何があった。正直に言え」


 歯切れの悪いシオンの返答に何か察したらしいユートがさらに詰め寄る。いやいや、ここで言ってもマツリが恥ずかしがって怒るだろうし言うつもりは……


「実はマツリちゃん、ポロリしちゃいまして」


 と思って黙っていようとしたら横からエリスがバラしやがった。


「なにぃぃぃぃぃいッ!?!?」


「なんで言うの!? なんで言うの!?」


「ごめんなさい、皆さんどんな反応するのか見てみたくて好奇心に勝てませんでした!」


「お姉様のばかぁぁぁっ!!」


「見たのか!? しっかり見たのか!?」


「ぬおぉぉお羨ましい! こんな糞脳筋の相手なんぞせずに俺もそちらに行っておけば!」


「誰が糞脳筋だおい!」


「おかしいだろ! 何でマツリのハプニング見れるのが俺じゃなくてお前なんだよ!?」


「そういうとこだぞお前! お前もう黒騎士からエロ騎士に改名しやがれ!」


 案の定三バカはぎゃいぎゃい騒ぎ出した。ちなみにその様子をアユミは腹を抱えて大笑いしている。もうホントにこいつらは。


 そんなこんなで騒ぎながら食事を続ける。すっかりご機嫌ナナメなマツリをどうにか宥めようと奮闘するエリスを横目に、シオンも次の肉を皿に装う。ところで、シオン以外の皆はフォークではなく二本の棒を器用に使って料理を掴んでいるが、あれも異界人特有の道具なのだろうか?


 皆で結構な量の料理を食べ続けている、が、料理を乗せているテーブルにはさらに次々と料理が追加されている。調理をしているイサミは今尚料理を作り続けているのだ。一応時折出来上がった料理を口に運びながら。


「なあイサミ、そろそろ作らなくても良くないか?」


 一向に作るペースを緩めないイサミに呼びかけるシオン。しかしイサミは首を傾げながら、


「まだ全然足りないだろ?」


 きょとんとした顔でそんな返答をしたのだ。うん?


「あ、シオン君は知らないんだっけ? イサミ君、すっごい食べる人なんだよ」


 予想だにしなかったイサミの反応に怪訝な顔をしているシオンに、アユミが理由を教えてくれた。


「街の食堂で大食いチャレンジに挑戦して余裕で完食した挙げ句「物足りない」とか言い出して追加で注文し始めた時は戦慄したね」


 そしてその裏付けとも言える過去の出来事を遠い目をしながら語った。どこから突っ込めばいいんだ。


「え、でもイサミさんってそんなに太ってもいませんよね? 食べたものはどこに……」


「エリスちゃん、深く考えないほうがいいよ」


「ずるい……」


 話を聞いていたエリスから言われのない非難を受けるも、涼しい顔で調理を続けるイサミ。意外な一面というかなんというか……。

 マツリが小さく「グリア、グラは暴食だったわね」と呟いているのはイサミが持つ神の権能についてだろうか? 詳しくはわからないが詳細を問う程の事でもないか。


「ところで、気になっている事があるんだが」


 シオンは別の話題を振る事にした。全員が集まっているので良い機会だとも思ったからだ。


「ん? なあに?」


 話を振られたアユミがもごもごと肉を頬張りながら首を傾げる。


「海水浴をするにしても、どうしてこんな場所を選んだんだ? 海沿いの町の海水浴場でも良かったんじゃないか?」


 シオンの疑問はこの場所についてだ。今シオン達が戯れている浜は、どの町にも面しておらず、最寄りの町からも離れた辺鄙なところだった。

 海沿いの町にある海水浴場は、魔物除けの結界が施されている安全な場所である事が多い。観光地として町の収入源に一役買っているのが常だ。

 しかしアユミが皆を連れ出して来たこの場所は結界など貼られてもいない無法地帯だ。いつ魔物が現れてもおかしくない。


「中々良いところでしょ? 穴場ってヤツだね」


 にも関わらずアユミは自慢げに胸を張ってみせる。張る胸もないくせに……じゃなくて。


「いやいや、穴場も何も町中でもないんだから危険だろ」


「何が危険なのさ。ここに集まっているのは一人一人が世界最強の神の権能持ちだよ? むしろ寄ってくる魔物達のほうに同情しちゃうね」


 シオンの反論を涼しく返すアユミ。まあ、確かにそこら辺の魔物どころか最強種の竜であろうとこのメンバーなら返り討ちだろうけど。

 それに遊び道具や食事もアユミが自由に調達できる。町中で管理されていない浜辺でも不自由はないのはわかるが。


「それにボク達異界人の考えてる海水浴と、一般人のそれとは違ってたりするかもしれないでしょ? 町中の海で遊んでて浮いたりしてもなんかヤだし」


 続く理由に一応はなるほどと納得した。確かにさっきからこいつらが行っている遊びはシオンには馴染みのないものばかりだ。シオンは既に皆がそういう連中だと理解しているからいいものの、何も知らない者の目にはより奇異な集団に見られてしまうだろう。


「ふーん、お前でも人目を気にはするんだな」


「何その含みのある言い方ー。ま、いい感じなビーチを独占して遊びたいってのもあったけどね」


 最後に付け足された理由に苦笑する。十中八九それが本音だろう。


「今のところ魔物さんも出てきてはいませんし、いいんじゃないですか? それにもし私達以外の方も居たら、マツリちゃんの痴態が多くの人達の目に……」


「そういうこと言わなくてもいいですよね!?」


 エリスのあんまりな発言に怒り出すマツリを見て、そういえばこいつの問題もあったか、と思い出した。

 マツリは一般人が顔を見ただけで洗脳してしまう能力を持っている。もし部外者も居る海水浴場で遊ぶとなると、普段のようにベールで顔を隠す必要が出ていただろう。そんな状態で心から楽しめるはずもない。というか、水着姿で顔だけ隠すとかシュール過ぎる。

 アユミ自身が語った以上に真っ当な理由だ。場所に関してはこの状況がベストだろう。


「確かに魔物は出てはいないが……」


 そのような会話をしていると、急にイサミが意味深な発言をして海に視線を送った。何だ急に?


「どうしたの? 何か問題?」


「問題、かどうかはまだわからんが……さっきからこっちを気にしている奴がいるんでな」


 アユミに問われて応えたイサミの発言を聞き、シオンもイサミが目を向けている方角に意識を向ける。すると、そこそこ距離のある沖に確かに何者かが居る事がわかった。


「海の中からってことは、魔物か?」


「わからんな。独特な気配をしている」


 シオンの疑問に首を振るイサミ。確かにここから感じ取れる相手の魔力の気配は、水中に居るせいで少々読み取りにくいものの、普通の魔物から感じられる気配とは異なっている気がした。どちらかと言うと、人類種に近いような。


「あの方向? ふーん、じゃあちょっと見てみるね……え、これって……」


 シオンとイサミの会話を聞いていたアユミが呟いて目を瞑る。その後すぐに驚いた様子を見せた。遠方を見る能力を使ったのだろう。


「どんな奴なんだ?」


「多分、人魚だと思う」


 続くアユミの答えに、今度は皆が驚いてしまった。


「人魚!? マジで!?」


「わー! 凄くファンタジーなお客さんですね!」


「珍しいな。この近くに住んでるのかも」


 遠くから皆を覗き見る存在の正体を知り盛り上がる一行。なるほど、人魚ならこの独特な気配も納得だ。


「ちょっと話を聞いてくるね」


 騒ぎ出す皆を後にし、アユミの姿が消える。同時に人魚が居るあたりの沖にその姿が現れるのがわかった。アユミは海に入らず、能力を使って空中に足場を作り立っている様子だ。


「シオン君、人魚って魔物なんですか?」


 遠くのアユミと人魚の様子を見ながら、エリスが質問してきた。


「いや、人類種だ。獣人種のひとつらしい。滅多にお目にかかれない希少種って話だけどな」


 人魚は基本的に、下半身が魚類となっている獣人種だ。海中で活動できるらしく海の中に集落を築いているらしい。生息場所が普通の人類と異なるのみならず、数も少ないので目にする機会は滅多にないと言われている。

 ちなみに似た存在に全身に魚の鱗を纏った魚の頭を有する人型の存在、半魚人がいるが、こちらは人魚とは異なり魔物だ。人類に敵対的なので見かけたら倒さなければならない。


 ついでに言うと、人魚は国によっては神秘的な容姿から愛玩奴隷として物好きな金持ちが欲していたり、ある地域ではその肉を食すると寿命が伸びるなどという迷信が信じられていたりして何かと狙われていたりするので、普通の人類種とは折り合いが悪いとかなんとか。捕まえたら高額で取り引きされるらしいぞ。人道的に気が乗らないが。


「お待たせ〜」


 そんな話をしていると、消えた時と同様に突然アユミが戻ってきた。一応会話はしてきたみたいだが……。


「人魚さん、何の用だったんですか?」


「ん〜、なんか近くにこの辺の主が来ているから危ないって忠告された」


 それだけ言って逃げちゃった、とアユミが続ける。主? 危ない?


「……確かに、何か来るな」


 アユミ伝いの人魚からの忠告の意味を理解するよりも先に、再び何かを発見したらしい発言をするイサミ。その視線は先程人魚が居た方向とは別の沖に向けられている。

 すぐにシオンも気配を探る。海中の気配は感じ取りにくいが……それでも、意識を向けるとすぐに感じ取れた。


 ……大きい。


 シオンがその気配に気付くと同時に、その気配の感じる位置の海が急に盛り上がるのを視認した。

 こちらにも聞こえてくる程の波音を響かせ、巨大な気配の主が浮上する。


「わ、あれのことだろうね」


「おっきい……蟹?」


 イサミやシオン程優れた感知能力を持っていない皆も、さすがにその存在に気付いた様子だ。姿を現したその存在は、灰色の甲殻に覆われた、巨大なハサミ状の腕を掲げた、大蟹の化け物だった。

 蟹の姿をした魔物なのか、蟹が魔物化したいわゆる魔獣に分類される存在なのか……とにかく、それは浜の岩場を探せば目にできるような蟹が巨大化した姿をしていた。恐らくあれが人魚の忠告にあったこの近海の主なのだろう。


 さて、その化け物を目にした異界人達の反応は、


「今夜は蟹鍋じゃーい!」


 そんな雄叫びとともに駆け出したのはマサヤだった。え、何お前あれ食う気?


「ちょっ、武器出すから待ってよ!」


「あれくらい素手でぶっ飛ばせらぁ!」


「フハハハハハ! 脳筋に続けー!」


「この辺でゴーレム作るならどんな材質が良いか……」


「こんなことなら遊んでないでさっさと海の精霊と契約しておくべきだったわね……私は少し遅れるわ」


「アユミ、武器よりも先に鍋と料理酒とみりんとショウユだ。それから……」


「武器より優先するそれ!?」


 大蟹を見るやいなや、各々が思い思いに動き出した。誰もが好戦的というか、殺意高いなお前ら。というより食欲か?


「え、待ってお前らあれ食うの? あんなクソ硬そうなのを?」


「あ、もしかしてこっちの食文化には蟹料理ってないんですか? 内側の身を食べるんですよ。美味しいですよ〜」


 シオンが理解できない旨を伝えると、隣りで皆に補助魔術を施していたエリスが答えた。マジか。あんなの食べようと思い至る発想が信じられない。いやまあもしかしたら地域によってはあり得るのかもしれないが。でもゲテモノじゃないのか? 本当に食っても大丈夫なのか?


「確かに私達の居た世界でも、海産物って海外だと魚以外はあんまり食べられていないって聞きますね。タコとかなんてニホンジンと外国人とでは印象がだいぶ違うとか」


「……え? タコってあのタコか? 食うの? 食えるの? 嘘だろ?」


「わ、シオン君がかつて無い勢いでドン引きしてる〜」


 エリス達の食文化に戦慄している間に、先に駆け出していたマサヤが大蟹の位置に到達し先手を打っていた。というか、ナチュラルに水の上を走るんじゃない。なんだその技術は。

 そしてマサヤは先程の発言の通り、素手で大蟹の腹部に殴りかかっている。通用するわけないだろ、と思った矢先、ばき、という音がここにまで響き渡り、大蟹の巨体が揺れた。ここからだとどうなっているのか視認できないが、今の音はマサヤの腕がひしゃげたからなのか、蟹の腹が砕けた音なのか……多分、後者だと思う。


 大蟹がやたら必死に両腕のハサミでマサヤを捉えようとするも、マサヤはそれら全てを避けたり受け流したりして隙を見て攻める。あいつマジで素手でどうにかしてるぞ。ついでに言うと裸同然で。


 そうこうしているうちに、トモエとユートが術式を完成させた。ユートの作り出した数十体のゴーレム(少し磯臭い)が進撃を開始し、トモエの手元に浮かび上がった魔法陣から風の刃が放たれ大蟹にまで勢いよく飛んで行く。おおう、ただでさえマサヤ一人に劣勢だったというのに。


 シオンは先程のアユミとの会話を思い出した。襲い来る魔物のほうに同情してしまう、とアユミが言っていたっけか。うん、まさにそれだ。大蟹はまさか自分が捕食対象と見られているとは夢にも思わないだろう。


 さて、そんな一方的な攻防が続いていたが、急に大蟹が海に沈み始めた。堪らず逃げ出したのだろう。「逃げんじゃねー!」というマサヤの理不尽な叫び声が聞こえてきた。いいじゃないか許してやれよ。

 このまま大蟹が逃げて戦闘は終了かと思いきや、何故か大蟹は再び海上に上がってきた。はて、逃げるのではなかったのか。

 大蟹の行動に訝しんでいると、妙な事に気付いた。大蟹の周囲の海の動きがおかしいのだ。波がまるで意志を持っているかのように大蟹のハサミや足に纏わり付き、動きを妨げているのだ。注意深く知覚してみると、それらの波は魔力を帯びている。


「……あれ、マツリか?」


 奇妙な波の動きの正体に思い至り、シオンは犯人であろう人物に振り返りながら尋ねた。そういえばこいつ、契約がどうのって言ってたっけ。


「ええ、思っていたより早く契約できたわ。このまま浅瀬に引き摺り出して貰いましょう」


 シオンの予想は正しかったらしく、マツリはたった今契約したらしい海の精霊に指示を送る。

 動きを制限され踠く大蟹だが、不可思議な水流はそれを許してくれない。その巨体はゆっくりと岸に向かって移動し始めた。逃げられないだけでなく地の利すらも失うらしい。オーバーキルだよなこれ?

 しかし大蟹の命は陸揚げされるよりも早く尽きるだろう。マサヤとトモエの猛攻のみならず、ユートのゴーレム兵も到達し槌を振るって攻撃を仕掛け始めているのだ。甲殻こそ頑丈だが抵抗できない大蟹はもはや大きな的でしかない。

 案の定、打ち上げられた大蟹は水流の妨害がないにも関わらず、ろくに動く様子がない。あわれ。


「調理開始だな」


 そして無慈悲なイサミの一言。これが近海の主の最後とは……。




 蟹鍋ができたのは夕刻過ぎ、日が沈み込んだ頃だった。ユートが作成した超巨大な鍋に所狭しと敷き詰められた蟹の手足、それと数多の野菜。ぐつぐつと茹でられた蟹の手足は鮮やかな赤い色に変色している。独特な匂いだな。それから鍋のスケールがやばい。数十人で取り囲める大きさだ。

 ちなみにこの蟹は魔物ではなく、普通の蟹が巨大化したいわゆる魔獣に分類される存在だったようだ。もし魔物だったなら死した瞬間から急速に腐食が始まっていたので食えたもんじゃない。運が良いというかなんというか。


「うおっほぉ! 見ろよこの身! たっぷりだぜ!」


 最初に手を出したマサヤが茹でられた足を砕いて中身を見てテンションを上げている。湯気立つ中身がぷるんぷるんと揺れ動いている。あ、確かにこれは美味しそうだ。


「しっかり出汁も効いてるな。ほれ、お前も食え」


 イサミがお椀に装った蟹汁をシオンに渡してきた。巨大な蟹の足の内側に詰まっていた肉も入っている。さて、未知なる食べ物への挑戦……。


「……おお、うまい」


 早速口に運んだ蟹の身は、これまでに味わった事のない独特な味わいだった。しかしこれは美味い。なるほどこいつら異界人が喜ぶわけだ。うん、汁も美味。


 さて、暗がりの中鍋を熱する焚き火に照らされる面々だが、何やらいつの間にか人数が増えている。自然とお椀を受け取り共に食しているのは、海水に魚の形状をした下半身を浸からせている三人の人魚だった。


「あららら、主さんったら、こんなに美味しくなっちゃって」


「蟹って食べれるのね。知らなかったわ」


「うま、うま……」


 どうやら蟹鍋は人魚達にも好評らしい。というか、滅多に人前に姿を現さないという話だったはずだが、予想外の大胆さだ。


「どうですかシオン君、蟹って美味しいでしょう?」


「ああ、漁業を生業にしている町なんかに広めたら流行りそうだな」


 エリスの問いかけに素直に応える。異世界の食文化も悪くないではないか。


「そうでしょうそうでしょう。では今度はタコさんに挑戦してみませんか?」


「うっ……それは遠慮しておきたいんだが」


「本当に美味しいですよ〜? 蟹さんにも負けてませんよ〜?」


 それでもこの提案には頷き難い。いやお前、あのタコだぞ? あんなに気色悪い生き物を本当に食べるのか? 嘘だろ?


「あははは、まあタコさんはともかく、たまにはこうしてみんなで騒いで遊ぶのも良いですね」


 シオンの反応を楽しんだ後、エリスは思い思いに騒ぐ皆を見渡しながら感慨深く呟いた。


「……そうだな」


 シオンも勿論それに同意する。今はそれぞれ別々に活動している異界人パーティーだが、機会があればまたこうして馬鹿騒ぎするのも悪くない。そう思えるくらいには、この集まりを気に入っている自分に気付いた。


 焚き火の明かりと潮風に包まれながら、異世界人との愉快な時間がゆったりと過ぎる一日。良い仲間に恵まれたな。口にこそ出さないが、改めて思うシオンだった。

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